自殺の電通元社員 高橋まつりさんの母親が思い語る

自殺の電通元社員 高橋まつりさんの母親が思い語る
k10010988141_201705191919_201705191920.mp4
過労のため自殺した、電通元社員の高橋まつりさんの母親の幸美さんが初めてテレビのインタビューに応じ、まつりさんとの思い出や働き方への意識を変えてほしいという思いを語りました。
電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時24)は、おととし12月25日、クリスマスの朝に自宅の建物から飛び降りて命を絶ちました。

母親の幸美さんは、今回初めてテレビのインタビューに応じ、まつりさんが学生時代に愛用していた、携帯電話のアクセサリーのぬいぐるみを手に思いを語りました。

まつりさんについて「小さいころから明るくて元気で、ユーモアもあって知的好奇心、知識欲がすごかったです。学生時代に塾に通えない子どもたちを支援する活動をしていたほか、ラクロス部のサークルに入り、友達皆にかわいがられていました」と振り返りました。

まつりさんの死は過労が原因の労災と認定され、幸美さんは記者会見を開いて問題を明らかにしました。

記者会見した理由について幸美さんは「こんなに頑張ってきた子が、黙って会社に殺されたままにしておくわけにはいかないと思ったし、実名公表もしようと決心しました。社会のためでもありますが、今さら遅いですけど、娘のためであると。あの時、東京に行って私が抱きしめて助けてあげないといけなかった私のせいでもある」と涙ながらに語りました。

まつりさんは試用期間が終わり、社員として正式に採用されたおととし10月以降、深夜に及ぶ残業が続くようになり、友達などが見ることができるツイッターで、仕事のつらさを訴えていました。

幸美さんは「10月に本採用されて、これまで午後10時までに帰っていた際限がなくなり、『怖い』と話していました。会うと『眠い』とか『仕事が終わらない』と話していましたが、心配させるからと、私にはあまりつらいとは言わなかったので、本当につらかったんだなとわかったのが、友人とのメールのやり取りを見てのことでした」と話します。

そして、電通に対して、「体質を本気で変えてほしい。今まで変えてこなかったのは社長の責任、社員全員の責任だと思います。月100時間の残業が当たり前だと思っている人がたくさんいる。業界全体の問題で、日本のほかの業界も同じように抱えている問題だ」と訴えました。そのうえで、「日本社会の成長があるのは、サービス残業をしてきたからだと思っている人の意識を変えるのは難しいが、日本人の意識が変わらなければいけない。本当につらいと思っている人たちは弱いのではない、亡くなった人は弱いからではないということを皆で考えてほしい。一企業だけでなく、日本全体の問題だと思う」と話しました。

そして、最後にまつりさんが大学時代、中国に留学した時の写真を見て、「時が止まったようで、相変わらず繰り返し、夢の中に生きているような感じですね。彼女のことを遠い存在だと感じられない。母親だから、まだ記憶がリアルというか、ついこの間まで元気に一緒に山登りしたり、抱きしめ、ハグしたりしていた記憶があるので」とまつりさんへの思いを語りました。

夢抱いたまつりさん 待っていたのは

高橋まつりさんは静岡県の高校を卒業後、平成22年に東京大学に入学しました。大学では文学部で哲学を学び、中国にも留学したほか、メディア関係の仕事に興味を持ち、週刊誌でアルバイトをして、インターネットに配信する動画に出演していました。

電通に就職が決まった際には、「日本のトップの企業で国を動かすような、さまざまなコンテンツの作成に関わり、自分の能力を発揮して社会に貢献したい」などと母親の幸美さんに話していたということです。

しかし、インターネットの広告を担当する部署に配属され、10月に本採用になると、連日、長時間の残業が続くようになります。

当時、ツイッターには「死にたいと思いながらこんなストレスフルな毎日を乗り越えた先に何が残るんだろうか」とか「死んだ方がよっぽど幸福なんじゃないか」などとつづっていました。

そして、おととし12月25日、クリスマスの朝、幸美さんに「大好きで、大切なお母さん。さようなら、ありがとう、人生も仕事も全てがつらいです。自分を責めないでね、最高のお母さんだから」とメールを送り、住んでいた社員寮から飛び降りて命を絶ちました。

まつりさんの後輩たち 働き方見直す動き

高橋まつりさんの母校の東京大学でも、後輩たちがまつりさんの過労自殺の問題を受け止め、将来の就職や働き方を見直す動きが広がっています。

東京大学新聞では、これから就職活動をする学生に読んでもらおうと、まつりさんの過労自殺の問題を今週、特集記事にしました。

特集記事のため、まつりさんの母親の幸美さんを取材した経済学部3年の福岡龍一郎さん(21)は、取材を通じてまつりさんの死はひと事ではないと感じたといいます。

福岡さんは高校時代から電通で働くことに憧れていましたが、まつりさんの過労自殺を知り、考えを改めました。

まつりさんは「電通にすごく入りたくて入った。けれど、自分がここまで消耗して、それと引き換えにキャリアを積もうとはもう思わない」という言葉をパソコンに残していました。

福岡さんは特集記事をまつりさんのこの言葉で結びました。福岡さんは「普通の優秀な学生が亡くなったと改めて感じ、自分の姿と重なり、どんな価値観で企業を選べばよいか真剣に考えるようになった。記事を通じて『激務でも自分は大丈夫』と思っている学生にこそ、これからの働き方を考えてもらいたい」と話していました。

福岡さんとともに幸美さんを取材した大学院1年の久野美菜子さん(24)も、将来の働き方を見つめ直した1人です。
久野さんは就職活動のため、先月から休学し、ベンチャー企業でインターンとして仕事を体験しています。

久野さんは大手志向の就職活動ではなく、10年後にどんな働き方をしているのか考えながら就職先を選びたいと思っています。久野さんは「給料など福利厚生がよいから安泰だという考え方や、周りの価値観に合わせる必要はないと思うようになった。自分の能力を生かせる仕事に就きたい」と話していました。

東京大学新聞は21日、大学の学園祭で働き方をテーマにしたシンポジウムを開催し、幸美さんに講演してもらうことにしています。

まつりさんの死をきっかけに

電通に対しては、新入社員だった高橋まつりさんの自殺が労災と認定されたことを受けて、厚生労働省が強制捜査に入りました。

去年12月、電通とまつりさんの上司だった幹部が、労働基準法違反の疑いで書類送検され、当時の石井直社長が辞任しました。

先月には、大阪や名古屋、それに京都にある3つの支社でも、社員に違法な長時間労働をさせていたとして、電通と各支社の幹部が書類送検されました。

まつりさんの死は電通一社だけにとどまらず、長時間労働の是正に向けた政府や企業の取り組みにも影響を与え、社会全体で働き方を見直すうねりとなりました。