“敏感すぎる”に共感広がる

“敏感すぎる”に共感広がる
「HSP」という言葉をご存じでしょうか。「ハイリー・センシティブ・パーソン」の略で、感受性が強く、さまざまな刺激に過剰に反応してしまう人のことをさします。
日常生活での疲れやすさや、生きづらさを感じてしまうことがあるほか、場合によっては睡眠障害やうつ病などになってしまうケースもあると専門家は指摘しています。
このHSPについて描かれた漫画が、今週ネットで広がり、多くの人たちから共感が寄せられています。(報道局 宮脇麻樹記者・戸田有紀記者)
今月14日、ツイッターに投稿された漫画です。

ネットで話題の漫画

今月14日、ツイッターに投稿された漫画です。
描かれているのは、「なんだか元気がないと感じることが多くなった」と、ため息をつきながら歩く20代の女性。

会社での仕事を振り返り、「仕事は慎重に進めているはずなのにいつもミスが怖い」、「こんな情緒不安定な人間で会社に申し訳ない」などと悩む様子が描かれています。
「自分は『うつ』かもしれない」とまで思い悩むなか、女性は偶然、「HSP」について書かれた本を見つけます。
そして、「自分はHSPかもしれない」と自覚することで、女性は自分を責めることが減り、生活することが楽になったと、笑顔で終わっています。
この漫画に対して、「よくわかる」などと共感するツイートが今週になって次々と寄せられていて、現在、リツイートは2万5000回を超えています。

投稿したAさん

そもそも、なぜ、こうしたツイッターを投稿したのか。

今回、投稿した「Aさん」とメールのやり取りをすることができました。

Aさんによると、「自分の敏感さ、繊細さに悩み、『生きづらいのは弱い人間だから』と自分を責めている人に、HSPの存在を伝えたい」という思いが原点だったといいます。
Aさん自身、思春期の頃から、周りの人の何気ない言葉や、周囲の雰囲気などに過剰に反応してしまい、必要以上に傷ついた経験がたびたびあったそうです。

例えば、学校で、自分ではなくほかの生徒が先生に叱られている時でも、自分のおなかが痛くなってしまうこともあったといいます。

社会人になってからは、複数の仕事を短時間にこなすことを要求されると、とたんに混乱してしまう自分に気付きました。

また、「仕事を頼まれたら断ってはいけない」という思いが人一倍強く、その結果、業務が増え、夜遅くまでサービス残業することも多かったそうです。

しかし、HSPのことを知って、小さなことが気になったり、刺激に対して敏感だったりするのは自分自身の気質によるもので、決して病気でも悪いことでもないと感じ、気が楽になったといいます。

そして、「悩みすぎる自分を責める」ことが大幅に減っただけでなく、自分の長所としても捉えられるようになり、仕事も私生活も以前よりスムーズになったということです。

HSPとは

HSP=ハイリー・センシティブ・パーソンは、アメリカの心理学者、エイレン・N・アーロンさんが1996年に著書で提唱したもので、感受性が強く、さまざまな刺激に過剰に反応してしまう人のことをさします。

なかには、ほかの人に比べて、疲れやすかったり、生きづらさを感じてしまう人もいて、周囲からは「動揺しやすい」とか「神経質」、「内気」などと見られがちだということです。

著書の中で、アーロンさんは、HSPかどうか自分でチェックできるよう、「他人の気分に左右される」、「短期間にたくさんのことを頼まれるのが嫌だ」といった23の項目をあげ、半数以上にあてはまるとHSPの可能性が高いと指摘しています。

そのうえで、「HSPは5人に1人程度に見られる気質であり、正常なものだ」として、自分自身の特徴を認識し、好意的に認め受け入れることが大切だとアドバイスしています。

HSP気付かず苦悩も

HSPに詳しい北海道帯広市の精神科医、長沼睦雄さんは、HSPの特徴として、具体的に、次の5つを挙げています。

1 光や音など、さまざまな刺激に敏感に反応する。
2 感情やイメージをたくさん感じているのにうまく言い表せない。
3 相手のことを考えすぎて嫌だと言えず断れない。
4 監視や時間制限、評価を嫌う。
5 周囲の人の気分や感情に左右される。

感受性が豊かで、周りの人から「よく気が付く」などと評価される一方で、自分と他人を区別することや、自分を守るために境界線を引くことが苦手だといいます。

長沼さんは、「日本ではHSPのことがまだ広く知られていないため、HSPと見られる人でもみずからの状態を把握できず、とにかく『自分が悪いのだ』と責めてしまいがちだ」と指摘しています。

そして、自分がHSPだと気付かずに放置してしまうと、化学物質や電磁波の過敏症や、睡眠障害などの症状、さらには、うつ病やパニック症などになってしまうケースもあるということです。

Aさんが投稿した漫画

ツイッターでの反応は

Aさんの漫画の投稿もきっかけに、HSPという言葉がネット上に広がったことで、「自分もそうかもしれない」と感じた人たちなどから多くの反応が寄せられています。

「漫画でHSPを知って、病気ではなく、性質ということだったので安心しました」

「すべて出来の悪い自分が悪いんだと思い込んでいた。気持ちが和らぎました」

「敏感すぎることは短所だと思っていましたが、長所でもあるのですね」

また、「悩んでいる人は、自己判断せずに、専門家の診断を受けるべきだ」というアドバイスも寄せられました。

こうした反響について、投稿したAさんは、「自分も心当たりがあるという人が想像以上に多く、驚きました。漫画だけでなく、専門書などで理解を深め、生きていくための対応技術を知ることができれば、人生がもっと身軽に、前向きになると信じています」と思いを綴ってくれました。

どう対応?

では、自分がHSPにあてはまるという人は、どうすればいいのでしょうか。

長沼医師は、まず、「自分が何に敏感なのか、自分のHSPの特性を理解し、受け入れることが大事だ」といいます。

そのうえで、これまで気付かずに繰り返してきた生活環境や、人間関係の悪循環から離れたり、理解してくれる人に自分のマイナスの感情を吐き出したりすることが必要だと指摘しています。

長沼医師は、「HSPは、芸術的な能力もあり、長所とも言えるものだ。自分の特性を受け入れた上で、生活の工夫をして安全・安心な環境に近づけていってほしい」と話しています。