いつも訪問いただきありがとうございます。今日は自分の好きな70年代資生堂広告を「異端の資生堂広告 太田和彦の作品」(2004年 初版 求龍堂)からご紹介します。

画家や作家やアーティストが、自分の作品の製作過程を語った本が好きです。
本を読むことで、つくったひとの想いや苦労がわかり、より一層深くその作品を見ることができるからです。

1972年から1973年にかけて、デザイナーの太田和彦さんと写真家十文字美信さんのコラボで展開された「資生堂シフォネット」の広告
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この本は、当時の広告写真が楽しめるだけでなく、一人の新人デザイナーが成功するまでのサクセスストーリーとしても面白いのです。
華やかな世界の舞台裏で泥臭く良いものを作りあげようとする情熱が伝わってくるアツい一冊でもあります。

ちなみに写真でご紹介したシフォネットの広告は、十文字さんが見せてくれたドイツの写真家の肖像写真集にインスパイアされたものだそうです。
「・・・その写真は人物を感情移入することなくリアリズムで記録し、それゆえに生々しい存在感をもっていた。こういう写真は化粧品はおろか広告写真にはなかった・・・」

太田さんの作品群は、いままでの資生堂広告とはかけ離れた表現方法で、当時の広告業界に強い衝撃を与えました。以前タクティクスのブログでもご紹介しましたが、とにかくいま見てもとっても面白くてハッとさせられるのです。

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以下は太田さんの述懐です。
「・・・わたしがもっとも注目したのは、そんなに完全に作った現場なのに、十文字さんはコンテ通りに撮らないことだ。

多くの場合、苦労して世界を作るとそこで満足し、あとは写すだけとなるが、そんな意識で写した写真は仕掛けが写っているばかりで期待したほど、面白くならない。

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十文字さんは違った。撮影に当たってはカメラマンの目に戻り、その世界にいかに出来事をおこすか、その瞬間でしか記録しえないものを残すかに腐心する。

すなわちコンテを写すのではなく、「写真」にする。

「用意した状況と現実には必ず差がある。その現実の生命力をいかに殺さずに捕まえるかが、わたしの写真の始まりである」と言っている。

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そのときにしか起きえなかった緊迫したスリルが十文字写真の最大特徴である。

「太田さん、写真は全部写っちゃったらつまらないんだよ。良い写真には必ず謎があるんだ。」という言葉も深く印象に残っている・・
(P224より)

ちなみに撮影現場を完璧に整えることも徹底されていたようで、この道路のショットも、道路沿いに一面のススキが生えていたのを、太田さんと十文字さんが町に下りて鎌を買ってきて、見渡す限り刈り取ったんだそうです。
 
こういった広告たちに惹かれるのは、もしかしたら、手作りの匂いがいまより濃厚に伝わってくるからなのかもしれません。

良い広告は時の流れに負けない魅力をもっています。
ブルーグリーンブックスへぜひどうぞ。





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