ドライヤー界に革命を起こした、「ダイソン スーパーソニック」。テクノロジーの裏側ほか、ヒットの理由を開発責任者にインタビュー

ドライヤー界に革命を起こした、「ダイソン スーパーソニック」。テクノロジーの裏側ほか、ヒットの理由を開発責任者にインタビュー

ドライヤー界の革命の裏には何が?

昨年、ここ50年の間ほとんど構造に変化のなかったドライヤーに変革をもたらしたダイソン。コンパクトでパワフルなモーターを搭載し、髪を素早く乾かせる「ダイソン スーパーソニック」(Dyson Supersonic)は市場に衝撃を与えました。先日、同商品のリニューアル発表会にともなって来日された、開発責任者のトム・クロフォード氏にインタビューを行い、「ダイソン スーパーソニック」のリリースにいたった経緯やテクノロジーの裏側など、さまざまな観点からお話を伺いました。

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企画から販売後まで全体を俯瞰×妥協しない姿勢が良い商品を生み出す

インタビューをさせていただいた開発責任者のトムさんの肩書きは「パーソナルケア グローバル カテゴリー ディレクター」というもの。今回の「ダイソン スーパーソニック」のリニューアルは最初の製品発表からたったの1年ほど。現状でも売れているにもかかわらず、熱の冷めやらぬときに追加投入という非常に速いスピードでした。その対応の速さの秘訣は、この肩書きにともなう商品へのかかわり方にあったようです。

トムさんは製品開発の初期段階にはじまり、開発の中心部分を担当するたくさんのエンジニアグループ、そしてコマーシャルチームにいたるまで監督をしているそうです。「ダイソンだけでなく出向チームや役員チームとも相談しながら、『将来的なビジョン』も一緒に作り上げている」という言葉が印象的でした。

まず、「こういう性能の製品が考えられる」と明言したら、具体的な仕様やコスト、日程などを決めて責任者として監督し、実現までもっていきます。また、製品が発売された後にも、きちんと機能しているかどうか製品に携わったエンジニアと関わり、さらに改善においても担当しているそう。今回の「ダイソン スーパーソニック」のリニューアルに関しても自分自身が改良と改善を望み、エンジニアがちょうどいいタイミングで市場に投入できるようにしたそうです。

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でも、製品のよさはトムさんのポジションにおける仕事だからというだけではなく、現場の生の声を重視し、細かなところでも満足や妥協しない姿勢によるところも大きいのではないかと感じました。

「ダイソン スーパーソニック」の開発では、一番身近ですぐにレスポンスを返してくれる家族の存在が欠かせなかったようです。商品としての製造に入る前の試作段階で何年にもわたり、2人の娘さんと息子さん、それに奥さんから利用してもらい、厳しい感想を含めて遠慮のない意見を言ってもらったそうです。実際、「ダイソン スーパーソニック」は最初の構想から開発の間にかなり変わったのだとか。「一番はじめの試作品は2つのU型のハンドルを持っており、両方に消音機が入っていて、音を消すのにはよかったのですが、非合理的なものでした」とのこと。何回も家に持ち帰っては家族からのテストを繰り返し、その後デザインチームと革新的なソリューションを探し求めたそうです。

性能や価格から、働く大人の女性をメインターゲットにしているのかなと思われる「ダイソン スーパーソニック」ですが、熱くないしすぐに乾くから子供にもいいとファミリー層の評価が高いのも、開発に家族からの生の意見がはいっているゆえかもしれませんね。

また、外部でもたくさんのリサーチをされています。一般の購入者のレビューだけでなく、日本のダイソンチームと一緒に東京のサロンをまわって、一人一人のプロスタイリストヒアリングを行なったのもそのひとつです。「ダイソン スーパーソニック」は嬉しいことにプロからも高く評価されているとわかりました。「でも、エンジニアの世界では絶対に満足はせず、どこかに改良の余地はないかと追及するんです」とトムさん。実際、日本人の考えをダイレクトに理解して直接のフィードバックを得たいと、4カ月おきくらいに来日してかなりの時間を日本ですごしているそうです。「もっと改良できる部分は改良したいし、それがお客様に理解してもらえるように努力したいです。お客様には本当に製品を『楽しんで』もらいたいんです」

27mmの小型モーターの開発とテクノロジー

トムさんの姿勢からも感じる通り、今回のリニューアルは日本を意識したものです。「日本は非常にユニークな市場なので、それに合ったものを作らなくてはなりませんでした」とのこと。発表の時に、日本人は髪を乾かす際にヘアケアとスタイリングのどちらも重視するという志向についての話もありましたが、技術的な面では日本は同国内でも関東と関西で50Hzと60Hzで電源周波数が異なるのでどちらでも使えるようにする必要があること、電圧が100V、電力は1200Wでアメリカやヨーロッパより低いので、それらに対応させる必要があるという他の国との違いがあります。よって、世界で販売されている「ダイソン スーパーソニック」に使われているモーターは実は3種類あって、その中のひとつが日本専用のものだそう。

モーターは「ダイソン スーパーソニック」のテクノロジーを語る上で欠かせないパーツです。ダイソンを日本市場で一躍有名にしたのは、やはり力強いモーターによる吸引力の高い掃除機でしょう。なんと「ダイソン スーパーソニック」のプロジェクトが始まった段階では、掃除機のモーターを使ってみたそうです。でも大きすぎてパワーもありすぎ、特に掃除機のモーターを使う有利性はなく、ドライヤーにはそこまでのパワーはいらないので、より小さなモーターを作る必要があるとわかったとのこと。

すでにダイソンでは特許技術である、周囲の空気をとりこんで風量を増幅させ、ムラのない風をつくりだす「Air Multiplier(エアマルチプライアー)テクノロジー」を開発していたので、それを合わせればドライヤーとして十分な気流を作り出せるという結論になったそうです。既存の技術も上手く利用したわけです。

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それからモーターのサイズをどんどん小型化していく中で、モーターはヘッドではなくハンドルに入れたらいいのではと気づいたそうです。そうするとヘッドの部分にスペースが空くので、合わせて従来のドライヤーでは空洞になっていて意味のなかったスペースをなくすことでコンパクト化も可能に。さらにモーターが下になることで重心が低くなるので、持つときに安定するという良さにもつながりました。「開発は長い旅でしたが、ここまで行きつくことができました」

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また、残念ながら今はまだ詳細を明かすことはできないそうですが、直径27mmという小型でパワフルなモーターは非常に可能性を秘めているので、これを活用した素晴らしい計画をいろいろと考えているそうです。

美容家電を扱って変わったこととは

モーターを利用するといえど、先ほどの掃除機からドライヤーへの流用がうまくいかなかったことしかり、生活家電と美容家電はテクノロジー面だけではなくさまざまな違いがあり、同じようにはいかないのではないでしょうか。

お聞きしたところ、美容の世界には生活家電にはない、たくさんの社会的な動きがあると感じるそうです。美容に関する話題は自分にとって近くて大切なものと人は思うので、感情移入して積極的にブログSNSで発信をします。一方、生活家電の掃除機では、そういった情熱をもった書き込みは少ないように思えるそうです。

それに美容の分野では、何か提案をするとすぐにソーシャルメディアを通して反応がくるので、美容家電を扱うようになってからブログやSNSなどを非常に注目するようになったとのこと。即フィードバックを得られるだけでなく、自分たちからも情報を発信しやすいからです。お客様により良い製品の使い方を教えるだけでなく、髪の毛の健康状態を保つためのアドバイスといったパーソナルケアまで行なうことが可能になります。トムさんは「社会のとらえ方が変わったともいえるかもしれません」という表現をしていました。製品を利用する人だけでなく提供する側も情熱をもって、よりお客様の人生をより良いものにできるという手ごたえを感じられるそうです。

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今後、ダイソンはどのような方向に向かっていくのでしょうか。ライバルについてお聞きしたところ、この分野において競合と思われる製品は市場にたくさん出ているものの、意識しすぎるとそちらに近づこうとして道を踏み外してしまうかもしれないので、他社が何をやっているかは殆ど気にしていないとのこと。大事なのはきちんとリサーチをし、最終的なエンドユーザーの問題やニーズを理解して自分たちのビジョンを明確に打ち出すことだそうです。

「オーナーやエンドユーザーが欲しがっているものではなく、必要としているものを作らなければなりません。似ている言葉に聞こえるかもしれないけれど、全然違うんです。実はお客様は自分が本当は何を必要としているのか、自分の手に渡されるまで気づかないものなんですよ」「ヘンリーフォードが最初に車を発明した時に『私が事前に何が欲しいのかと聞いていたら、多くの人たちは「より速い馬」って言ったと思いますよ』と言っています。でも、フォードは車を作りました。人が欲しいものではなくて必要としているものを見抜いて、それを作ったわけですね。私は、本人が気づいていないニーズを特定することが一番重要なことだと思っています」とトムさん。

「ダイソン スーパーソニック」が誕生した理由でもあるし、今後の製品にも通ずるような、ダイソンの根底にあるモットーのように感じました。製品の良さに納得すると同時に、これからどんなものが出てくるのか、ますます楽しみになりました。「あっ、自分はこれが欲しかったんだ!」と何に気づかせてもらえるんでしょうか。

Tom Crawford(トム・クロフォード)氏 略歴
研究デザイン開発
パーソナルケア グローバル カテゴリー ディレクター
英国ボーンマス大学卒
プロダクトデザイン専攻
優等学士学位

フォードモーターと、英国のシャワー製造会社Aqualisa社を経て、2003年にダイソン入社。製造開発拠点のあるマレーシアと、モーター製造工場のあるシンガポールにも勤務し、デザインエンジニア兼リードエンジニアとして掃除機DC24とエアマルチプライアーAM01テーブルファンを開発。その後、空調家電の開発責任者として製品の性能と製造のプロセスを管理。

革新的な技術開発に携わった経験を生かし、パーソナルケア グローバル カテゴリー ディレクターに就任。2016年にダイソンで初めてのパーソナル家電であるDyson Supersonicヘアードライヤーを開発し、現在はパーソナルケア製品開発の責任者として、初期コンセプトの決定から、詳細設計、製造に向けた最適化、さらに実際の生産まで携わっている。

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photo: ギズモード・ジャパン編集部
source: ダイソン
(今井麻裕美)