87/87
87.恩人
次の日、朝の散歩をしていたらダンジョンの入り口のまわりが騒がしいことに気づいた。
またなにかあったのか! って思ってやってくると、予想に反して空気が明るかった。
十数人の村人が輪をつくって、その真ん中に一人の男を取り囲んでいる格好だ。
男の顔は見たことがある、昨日助けた親子の父親の方、アランって男だ。
アランは村人に囲まれながら、手のひらに載せたなにかを見せている。
「サトウさんだ、ちょうどいいところに来てくれた」
アランがおれを見つけて話しかけてきた。同時にまわりの村人も一斉におれを向いた。
何があったのか気になったから、おれはアランたちに近づいていった。
「昨日はありがとうサトウさん。おかげでたすかった」
「息子さんは大丈夫」
「おかげさまで。それよりもサトウさん、これをみてくれ」
アランは手を差し出した、見ると、手のひらに金の粒がいくつか載せられている。
このダンジョンでドロップした砂金だろう、量はまとめたらBB弾よりちょっと小さいくらいか。
「どうしたんだこれは」
「ダンジョンに入って来た!」
「モンスターを倒してドロップしたのか」
「そうだ! なあサトウさん、これってどれくらいで売れるんだ?」
「金か、そうだな……」
この世界の通貨ピロと円は大体同じくらいの価値だ、それと金の価値を合わせて考える。
「純金は一立方センチで約20グラム、1グラムがざっと4000円……ピロだから、それでざっと2万あるかないかくらいだろ」
「「「おおお」」」
ざっとした計算だが、それを聞いた村人が一斉に声を上げた。
「すげえな、これだけで2万もするのか」
「金すげえ」
「おれもダンジョンいきてえ。なあアランさん、モンスターってどんくらい強いんだ?」
「それ集めるのにどれくらいかかったんだ?」
集まった村人はアランを取り囲んで質問責めにした。
よく見れば集まっているのは男達ばかりだ、金とその価値をしって、全員が一斉に目の色を変えた。
「相当強いぞあの中にいるモンスターは、しかもずるがしっこい。やれるのは多分おれと……ケインとカルロくらいだ」
「集めるのにかかった時間は?」
「昨夜からずっとやってた、一晩徹夜してこうだ」
アランが答えると、興奮は少し収まった。
入れる人間が限られる危険な場所である上に、一晩かけてその成果は「そう甘くない」と言われたも同然だ。
「強さは分からないけど、時間は短縮出来るはずだ」
「本当なのかサトウさん!」
アランが食いついてきた。
「ダンジョンは周回すればするほど効率が上がる。モンスターの倒し方とかダンジョンのまわり方とか。潜ってる内にそういうのが自然とそれぞれ最適化されていくんだ。だから初日が2万なら、なれれば絶対にそれ以上はいけるはずだ」
「「「おぉーー」」」
村人から更に感嘆の声が上がった。
おれは収穫祭の闘技場を思い出して、更に言った。
「強さも潜ってれば強くなるし、足りなければ潜りなれてる人からコツを聞けば少しは敷居が下がるはずだ。アランさんもそう思うよな」
「言われてみると……あの憎らしい悪魔の動きに癖があったな。あれがはっきりそうならジェッドもやれると思う」
「おれもか!」
アランを取り囲んでる内の、一番若い男が瞳を輝かせた。
「あとはそうだな、パーティーを組んで入ればいい。別々に入ると違う場所に飛ばされるけど、まったく同時に入れば同じ場所に飛ばされるだけですむ。仲間で協力すれば更に敷居は下がるだろ?」
「ああ! 複数人ならいくらでもやりようがある。ここにいる全員に可能性がある」
アランが頷く、村人は更に興奮した。
「おれ達にも出来るって事か」
「村にダンジョンが出来たし、これからはおれ達の時代だな」
「おれ、金で稼いだらリアに結婚申し込むぞ」
口々にいいあって興奮度が上がっていく村人たち――最後の人、それヤバイヤツだから撤回して。
おれはそこにいる村人たちに色々アドバイスした。
ダンジョンに潜るノウハウや稼ぎ方など、話せる事を全部話した。
「これが一番大事なんだけど、ダンジョンに潜る時に無理は厳禁だ。モンスターを倒してドロップを持ち帰る、持ちかえ続けるのが目的なんだから、無理は絶対にしちゃだめだ」
真顔で言うと、村人たちは一斉に黙った。同じ真顔でおれをみた。
多分だけど、この世界の冒険者にも通じる話だ。
「この言葉を覚えておいた方がいい――『まだいける』。そう思った瞬間引き返そう。無理して倒れたら元も子もない」
「うっ」
呻くアラン。
この人……早速無茶したんだな。
「こんな格言がある、『帰ればまだ来れるから』、だ」
ダンジョンと関係ないところで生まれた格言だが。
全てがダンジョンがらドロップし、ダンジョンは周回するものであるこの世界にこそ広めなきゃいけない格言だとおれは思ったのだった。
☆
アランたちとわかれて、村中をぶらついて回った。
ダンジョンを離れると一気に静かになっていく何もない村。
こんなところでのんびりするのも悪くないな、と思っていたのだが、静かは静かだが、急に物々しい空気を感じた。
昨日紹介された村長の家の前に何人もの村人と、そして冒険者風の男達がいた。
村人たちは冒険者たちを敵意剥き出しの目で睨んでいる。
「リョータ!」
「アリスか。どうしたんだこれは」
村人の中からおれに駆け寄ってきたアリスに聞く。
「サメチレンの人がきたんだ」
「サメチレン?」
「この村のパトロンだよ」
「パトロン?」
首をかしげる、どういうことなんだ。
「んとね、ダンジョンとかない村ってあるじゃん。ここみたいに。そういう村って大抵大きい街から援助を受けて成り立ってるんだ」
「援助って何の……ああ!」
ふとセレンの事を思い出した。
シクロとヘテロの真ん中にいて、何もないところで生まれたダンジョン。それ故に二つの街が争うことになったダンジョン。
そういうのとは違って、村の真ん中、村の勢力圏内に生まれたダンジョンなら当然その村のものになる。
ひいては、そのパトロンの街のものになる。
つまりパトロンというのは、ダンジョンを確保するための先行投資だ。
「うん、そういうこと。それでダンジョンが生まれた事を聞いてサメチレンの街の偉い人が来たんだ」
「そうか」
まあ当然の話だな。
だけど、そうだとしたらこの物々しい空気はなんだ?
冒険者たちはきっとサメチレンのお偉いさんを護衛してきた人だろう、そして村人たちはそれを睨んでいる。
一体、どういう事なんだ?
「出て行ってくれ!」
村長の家の中から怒声が聞こえてきた。
あきらかにいい展開ではないのが分かる。
冒険者たちは眉をしかめ、一方の村人は当然だと言わんばかりの顔で、何人かガッツポーズさえしていた。
そうしている内に村長宅のドアが乱暴に開かれ、身なりのいい中年男が出てきた。
「待ちたまえ、われわれは――」
「確かに村を起こすときの援助は受けた、しかしその後何もしてこなかった、あまつさえダンジョンが出た時に救援もくれなかったところと話す事は何もない!」
「「「そーだそーだ!」」」
村人は村長の怒りに同調した。
「怒るのあたり前だよ、サメチレンってここからでも見えるところにあるんだもん」
「そうなのか?」
驚いてアリスをみる。
「うん、木々に遮られてるけど、たまにある隙間のところから見えるよ」
「シクロより遥かに近いじゃん」
「絶対助けを求めにいってたはずなんだ」
そう話すアリスも不快感ありありだった。
関係が深くて、物理的にも近いサメチレンに救援を求めたが差し向けてくれなくて、その後シクロにすがったって形か。
それを今頃のこのこやってきた、村人が怒るのも当然だ。
「落ち着いてよく考えてほしい、現実的にインドールだけであのダンジョンを運営維持するのは無理だ」
「うっ……」
村長が呻く。
そりゃそうだ。
アランたちがダンジョンの事を何もしなかったのと同じように、村長もダンジョンのある村の運営なんて知ってるはずがない。
だから困り果てた村長……なのだったが。
さまよった視線はおれを捕らえて、一気に元の強気に戻った。
「ご心配には及ばん」
「ほう?」
「インドールは恩人の元につく!」
村長がおれを見て宣言した。
偉い人も、冒険者も、その場にいた村人も。全員がおれに注目した。
やがて、村人から歓声があがったのだった。
書籍化きまりました。講談社様の新レーベル、Kラノベブックスです。皆様のおかげです、ありがとうございます。これからも更新頑張ります!
面白かったらブクマ、評価もらえると嬉しいです。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
この小説をブックマークしている人はこんな小説も読んでいます!
デスマーチからはじまる異世界狂想曲
アラサープログラマー鈴木一郎は、普段着のままレベル1で、突然異世界にいる自分に気付く。3回だけ使える使い捨て大魔法「流星雨」によって棚ボタで高いレベルと財宝を//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全527部)
- 10172 user
-
最終掲載日:2017/05/07 22:04
寄生してレベル上げたんだが、育ちすぎたかもしれない
異世界の神が行った儀式に巻き込まれ、鳥海栄司は異世界に転移してしまう。儀式を行った異世界の神は転移に際し栄司の可能性の具現化であるクラスを引き出そうとするが、普//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全128部)
- 7862 user
-
最終掲載日:2017/05/14 12:00
八男って、それはないでしょう!
平凡な若手商社員である一宮信吾二十五歳は、明日も仕事だと思いながらベッドに入る。だが、目が覚めるとそこは自宅マンションの寝室ではなくて……。僻地に領地を持つ貧乏//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全205部)
- 9084 user
-
最終掲載日:2017/03/25 10:00
再召喚された勇者は一般人として生きていく?
異世界へと召喚され世界を平和に導いた勇者「ソータ=コノエ」当時中学三年生。
だが魔王を討伐した瞬間彼は送還魔法をかけられ、何もわからず地球へと戻されてしまった//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全358部)
- 7878 user
-
最終掲載日:2017/05/14 11:00
私、能力は平均値でって言ったよね!
アスカム子爵家長女、アデル・フォン・アスカムは、10歳になったある日、強烈な頭痛と共に全てを思い出した。
自分が以前、栗原海里(くりはらみさと)という名の18//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全192部)
- 8403 user
-
最終掲載日:2017/05/19 00:00
聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~
地球の運命神と異世界ガルダルディアの主神が、ある日、賭け事をした。
運命神は賭けに負け、十の凡庸な魂を見繕い、異世界ガルダルディアの主神へ渡した。
その凡庸な魂//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全359部)
- 8232 user
-
最終掲載日:2017/03/23 20:00
カット&ペーストでこの世界を生きていく
成人を迎えると神様からスキルと呼ばれる技能を得られる世界。
主人公は二つのスキルを授かり、それをきっかけに英雄と呼ばれる存在へと成り上がる。
そんなありきたり//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全191部)
- 8777 user
-
最終掲載日:2017/04/02 06:00
蜘蛛ですが、なにか?
勇者と魔王が争い続ける世界。勇者と魔王の壮絶な魔法は、世界を超えてとある高校の教室で爆発してしまう。その爆発で死んでしまった生徒たちは、異世界で転生することにな//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全489部)
- 7720 user
-
最終掲載日:2017/05/18 21:50
俺だけ入れる隠しダンジョン 〜こっそり鍛えて世界最強〜
職を失った貧乏貴族の三男、ノルは途方にくれていた。冒険者になるべきかと悩んでいたところ、ノルに幸運が訪れる。
誰一人として入り方がわからない隠しダンジョン、そ//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全32部)
- 7673 user
-
最終掲載日:2017/02/19 00:24
賢者の孫
あらゆる魔法を極め、幾度も人類を災禍から救い、世界中から『賢者』と呼ばれる老人に拾われた、前世の記憶を持つ少年シン。
世俗を離れ隠居生活を送っていた賢者に孫//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全120部)
- 9134 user
-
最終掲載日:2017/05/16 04:45
異世界迷宮で奴隷ハーレムを
ゲームだと思っていたら異世界に飛び込んでしまった男の物語。迷宮のあるゲーム的な世界でチートな設定を使ってがんばります。そこは、身分差があり、奴隷もいる社会。とな//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全219部)
- 8366 user
-
最終掲載日:2017/03/25 21:22
くじ引き特賞:無双ハーレム権
商店街でくじを引いたら、特等賞で異世界にいける権利をもらった。
さらにくじを引いたら、出てきたのは用意した側も予想外のチートスキルだった。
うるさいヤツは黙らせ//
- 7850 user
-
最終掲載日:2017/05/17 23:05
とんでもスキルで異世界放浪メシ
※タイトルが変更になります。
「とんでもスキルが本当にとんでもない威力を発揮した件について」→「とんでもスキルで異世界放浪メシ」
異世界召喚に巻き込まれた俺、向//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全363部)
- 12502 user
-
最終掲載日:2017/05/19 00:06
二度目の人生を異世界で
唐突に現れた神様を名乗る幼女に告げられた一言。
「功刀 蓮弥さん、貴方はお亡くなりになりました!。」
これは、どうも前の人生はきっちり大往生したらしい主人公が、//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全358部)
- 7856 user
-
最終掲載日:2017/05/10 12:00
無職転生 - 異世界行ったら本気だす -
34歳職歴無し住所不定無職童貞のニートは、ある日家を追い出され、人生を後悔している間にトラックに轢かれて死んでしまう。目覚めた時、彼は赤ん坊になっていた。どうや//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全286部)
- 7617 user
-
最終掲載日:2015/04/03 23:00
異世界転移したのでチートを生かして魔法剣士やることにする
ネトゲーマーの大学生、楓は徹夜でネトゲをプレイし続けた結果、異世界に転移する。チートじみた魔力とスキル群を持って。楓はこの世界で何を思い。何を為すのか。
テン//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全113部)
- 7343 user
-
最終掲載日:2017/03/20 20:00
LV999の村人
この世界には、レベルという概念が存在する。
モンスター討伐を生業としている者達以外、そのほとんどがLV1から5の間程度でしかない。
また、誰もがモンス//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全265部)
- 7441 user
-
最終掲載日:2017/05/17 05:16
魔王様の街づくり!~最強のダンジョンは近代都市~
魔王は自らが生み出した迷宮に人を誘い込みその絶望を食らい糧とする
だが、創造の魔王プロケルは絶望ではなく希望を糧に得ようと決め、悪意の迷宮ではなく幸せな街を//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全144部)
- 9031 user
-
最終掲載日:2017/05/18 19:05
失格紋の最強賢者 ~世界最強の賢者が更に強くなるために転生しました~
とある世界に魔法戦闘を極め、『賢者』とまで呼ばれた者がいた。
彼は最強の戦術を求め、世界に存在するあらゆる魔法、戦術を研究し尽くした。
そうして導き出された//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全117部)
- 8979 user
-
最終掲載日:2017/05/18 20:00
ありふれた職業で世界最強
クラスごと異世界に召喚され、他のクラスメイトがチートなスペックと“天職”を有する中、一人平凡を地で行く主人公南雲ハジメ。彼の“天職”は“錬成師”、言い換えれば唯//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全265部)
- 10791 user
-
最終掲載日:2017/05/13 18:00
レジェンド
東北の田舎町に住んでいた佐伯玲二は夏休み中に事故によりその命を散らす。……だが、気が付くと白い世界に存在しており、目の前には得体の知れない光球が。その光球は異世//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全1371部)
- 8033 user
-
最終掲載日:2017/05/19 18:00
金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~
『金色の文字使い』は「コンジキのワードマスター」と読んで下さい。
あらすじ ある日、主人公である丘村日色は異世界へと飛ばされた。四人の勇者に巻き込まれて召喚//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全808部)
- 7496 user
-
最終掲載日:2016/11/16 00:00
進化の実~知らないうちに勝ち組人生~
柊誠一は、不細工・気持ち悪い・汚い・臭い・デブといった、罵倒する言葉が次々と浮かんでくるほどの容姿の持ち主だった。そんな誠一が何時も通りに学校で虐められ、何とか//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全99部)
- 8753 user
-
最終掲載日:2017/05/13 00:52
転生したらスライムだった件
突然路上で通り魔に刺されて死んでしまった、37歳のナイスガイ。意識が戻って自分の身体を確かめたら、スライムになっていた!
え?…え?何でスライムなんだよ!!!な//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全303部)
- 8683 user
-
最終掲載日:2016/01/01 00:00