高校時代の先生がわりと本気で好きだった話 - みたぬメモ
高校時代の先生の事、私もいつか書こうと思ってた。
2017/05/02 17:28
という訳で、書いてみる。
これまで度々書いているが、私は小学生の時に性犯罪の被害に遭った。幼いが故にその意味が解らず中学生までは普通に過ごしていられたが、高校入学の直前にフラッシュバックが起きて同年代の男子と会話が出来なくなった。つまり、加害者がその年代であった。
私が通っていた高校は共学校だったが、圧倒的に女子の人数が多い。
男子が少ないせいか、女子の中には若い教員に熱をあげる生徒も多かった。
当時人気があったのは、古文の教師と体育の教師だった。
古文の教師は長身のイケメンで、体育教師は背が低かったが運動神経が抜群だった。模範演技をして見せると女子がキャアキャアと黄色い声をあげた。
二人とも自分がモテるのをまんざらでもなさそうにしていた。
教師を好きになった女子達は、例えばTVアイドルへの憧れ等とは違って「本気」なのだった。
教師達が彼女らを「一生徒」「子供」として扱う事に苛立ち、自分の「若さ」や「女」という武器を使っていつかきっと「本気」の思いを遂げようとしていた。
自分以外の誰が同じ先生を狙っているのかを気にしたり、自分がどんなに先生を愛しているかを熱弁しているうちに感極まって、教室で号泣したりした。
そんな様子を見聞きする度に、私には到底理解できない感覚だと思った。
どうか、彼女達が早く目を覚ましますように。
まかり間違っても教師達が女生徒の誘いに乗りませんようにと願うしかない。
「タンポポは、古文と体育、どっちがタイプなの?」
「私?どちらもタイプじゃない。」
「タンポポは変わってるよね。男子ともほとんど喋らないし」
当時の私は、自分がなぜ男子と話さないのかを誰にも知られたくないと思っていた。とっさに私はこう言った。
「私はね、T先生がいいなぁと思うんだ」
「うっそー!タンポポはT先生が好きなのー?」
T先生というのは、物理化学の教師だった。古文や体育と同じくらいの30代であったが断じてイケメンではない。
ボサボサの天然パーマでダサい眼鏡をかけて、いつでもダボッとした白衣を着ていた。授業は優しくて淡々とした話し方だった。
しいて言えば、良い声をしていた。
「どこがいいの?T先生が好きだなんて、たぶんこの学校でタンポポひとりだけだよ?」
どこがいいのだろう?私にも解らない。
だけど、漠然といいなあと思っていたのは本当だった。
取り敢えずT先生に気に入られたくて物理の勉強を頑張ってみたが、物理には全く興味が沸かなかった。
物理の授業は酷く退屈で睡魔との戦いであったが、たとえ誰かが寝ていたとしてもT先生は起こしたり怒ったりしなかった。
そういうおおらかさや穏やかさが、好きだったのかも知れない。
せめて私は頑張って起きていよう。授業はさっぱり解らないけれども…
変わり者のタンポポはT先生が好きだと、噂は波紋のように広まった。
クラスの男子までもが「何でTなんだろうな?」等と言っているのが聞こえた。
そのうち教室にT先生が入って来ると、皆が一斉に私の方を見るようになった。私は表情を変えないように努めていた。
授業中にT先生が私を指名しても、皆ワクワクとしてこちらを見た。
T先生がうっかりと苗字ではなく名前で呼んだ時などは、女子がキャーとはやし立てた。この教室に何が起きているのか、T先生にも薄々気が付いていたと思う。
でも私は、何も気にしなかった。
だって、私の「好き」はLOVEではなくて、単なるLIKEなのだから。
ある日の授業が終わる時、T先生が「今日、屋上で日食の観察をするから、興味がある人は屋上に来るように」と言って教室を出た。
私は、日食が見たいと思った。
クラスメイト達は全く関心がなさそうであったが、先生は他のクラスでも同じように言っただろうから、数人くらいは集まるのだろう。
でも屋上に上ってみたら、T先生ひとりしかいなかった。
屋上には普段は鍵がかけられていた。不良たちが授業をさぼって屋上でタバコを吸うという理由で施錠しているのだった。
私は初めて上った屋上からの眺めが嬉しい反面、T先生とふたりきりでここにいるのは気まずかった。
けれど、もし私が来なかったら、この学校の生徒は誰もT先生の呼びかけに応えなかった事になる。
誰も日食に無関心だなんて、全く何て学校だと思うだろう。
無理やりにでも誰かを誘えばよかったな…
私はT先生が用意していた黒いプレパラート越しに、部分日食を見た。
T先生は子供のように無邪気に天体ショーを喜び、それはあっという間だった。
私が教室に戻ると早速、クラスで一番美人の女子が「タンポポ、屋上でどうだったの?」
と聞いてきた。
「日食、よく見えたよ。すぐに終わっちゃったけどね。興味があるならば来ればよかったのに」
「日食の話じゃないよ。屋上でT先生と、キスくらいしてきた?」
「まさか!するわけないじゃん」
「あはは。赤くなってる」
この日以来、私はこれまで以上に努めてT先生を意識しないようにした。T先生の方も、私を特別扱いする事なく淡々と授業をした。
続く