田舎から上京したのはいいが、泊まるところがなく困っている人がいたら、うちに泊まっていけ、と勧め、しばらく滞在させる。
悩みがあり元気がない人がいれば、話を聞いてやり、なにかあったらいつでもうちに来い、と励ます。
自分がお金を持ってなくても、お腹を空かせた人がいれば、食事を御馳走する。
とにかく、困った人を放っておけないのである。
自分のことは二の次で、人を助けることが自然な行動である。
こういう行動をわりとみんなとっていた、そんな社会がちょっと前まで存在していたのである。
そう、30年ほど前には存在していたのである。
今となっては信じられない。
1年ほど前から、映画『男はつらいよ』シリーズをアマゾン・プライムで観ている。
きっかけは、NHK-BSで放送していた『男はつらいよ』を何本か観たことであるが、それ以来、アマゾン・プライムで寅さんを追いかけている。
冒頭の社会は、映画『男はつらいよ』で描かれる社会のことである。
そしてしつこいようであるが、30年ほど前には、こんな社会が存在していたのである。
今となってはまったく信じられない。
この映画をリアルタイムで映画館で観たことはなかった。
1970年代から1980年代は、僕は少年~青年期であるが、正直、この世界観が好きではなかった。
近所の人が勝手に家に上がりこんでくる。
やたらと家で宴会などが催されて、いつもがやがやしている。
つまり、やたらと人に干渉し、プライバシーみたいなものがそれほど尊重されていない社会である。
鬱陶しい。
当時の僕はそう考えていた。
しかしその反面、周囲の人の状況などをよく把握しているわけであるから、なにか困っていることがある、ってなるとみんなで解決策を考えるし、楽しいことがあれば、みんなで大騒ぎする。
素晴らしい。
今の僕はそう考えるようになった。
そういう社会っていいなって思うようになった。
この心境の変化の理由はまったくわからないが、僕が生まれ育ったところが、寅さんの家がある地域のような下町だったことが大きいのかもしれない。
もう、こんな社会になることはないのだろうけど、寅さんのようになれたらいいなあ。
家族からしてみれば、迷惑な存在かもしれないけど。
そして、こんなに人の出入りが多い家になったら、ミュウとシャケがいつもざわざわして大変そうであるが、それはそれで楽しそうである。