医師の転職=ドロップアウト?紹介会社を利用して転職する医師の実態とは?
医師の間で用いられる俗語に「ドロッポ」という言葉があります。これは、ドロップアウト(脱落)のことを意味し、使われ方はいくつかあるものの、主に大学医局から離れた医師を指す言葉として用いられます。
この語が用いられるということは、医師の間で「大学医局内でキャリアを積んで精進することが医師としての正道であり、そこから離れることは正道から脱落することだ」といった認識が少なからずあることが推測できます。
しかし、2004年からの新臨床研修制度を端緒とする大学医局への入局者の減少や、病院から在宅への転換、女性医師の増加など、医師を取り巻く状況は変わりつつあります。医師のキャリア選択においても、従来の医局人事によってではなく、紹介会社を通じて転職する医師が増えてきました。
そのような中、医局を離れて転職した医師に対して、これまでのように「ドロップアウト」という烙印を押すことは実態に即しているのでしょうか?紹介会社を利用して転職している医師の実態について、以下でメディウェルの転職支援サービスの利用者のデータをもとに検証していきます。
性別・年齢層
最初に、転職した医師の性別と年齢層について紹介します。下表のようになっています。
性別では男性が約7割、女性が約3割という状況となりました。日本の医師全体では、男性が約8割、女性が約2割となっているため(厚生労働省調査※1)、利用者層としては女性の割合がやや多くなっています。女性医師の場合、結婚後の転居や出産・育児の際に働き方を見直すなど、転職の機会が男性医師よりも多い傾向にあると考えられます。
年齢層では、30代後半から40代の医師が多くなっています。経験年数としては10年目~20年目にあたることが多く、医師として一般的に一人前と認識されるタイミングで今後の働き方を見直す医師が多いのかもしれません。また、医療機関にとっても即戦力として採用しやすいという事情も影響していると考えられます。
出身大学
次に、メディウェルの転職支援サービスを利用した医師の出身大学については以下のようになっています。
出身大学別で利用者が多い大学上位5つは、順に弘前大学、長崎大学、旭川医科大学、昭和大学、東京女子大学となっています。逆に利用者が少ないのは、筑波大学、鳥取大学、和歌山県立医科大学、大阪大学、横浜市立大学となっています。
この傾向を見ると、大学の国立・公立・私立による違いは見受けられません。ただし、大阪府内にある四大学(大阪大学・大阪市立大学・大阪医科大学・近畿大学)の利用者数が下位20位以内にあるなど、地域による違いがややあることが見受けられます。また、東京女子医科大学が上位にあるなど、出身大学での女性医師の比率もやや影響していると考えられます。
しかし、利用者が特定の大学出身者である確率は、80大学全てにおいて0.7%~1.2%の範囲内であるため、全体的にどの大学出身の医師であるかに関わらず、転職支援サービスへのニーズは一定数あると考えられます。
診療科
メディウェルのサービスを利用して転職した医師における、希望の診療科目別の数は、以下のようになっています。
最も多いのは内科であり、精神科、消化器内科、麻酔科、整形外科となっています。ただし、主たる診療科を「内科」と答えている医師は医師全体の2割を占めている※2ため、その観点からは特別多いとはいえません。診療科別の医師数に対して多いのはむしろ精神科・麻酔科であるといえます。
この傾向は大学医局(大学病院)に所属する医師の割合と関係していると考えられます。精神科の場合、精神保健指定医の資格は専門医のように認定施設の縛りはなく、むしろ症例の確保が重要となるため大学医局に所属する必要が少なくなります。麻酔科の場合はフリーランス医師や女医も多く、医局人事以外でも柔軟な働き方を実現しやすいといえます。
都道府県
転職した医師の都道府県別の状況は以下のようになっています。
こうしてみると、転職先の地域として最も多いのは東京都であるものの、転入よりも転出数の方が多いことがわかります。人口に対して医師数が全国平均よりも多い地域上位3都府県である京都府・東京都・徳島県でいずれも転出数が多い傾向にあります。一方で、医師数の少ない埼玉県・茨城県・千葉県などでは転入が多い傾向にあります。
このため、「紹介会社を経由した転職が多くなると医師は都心部に集中する」といったことはなく、転職によって医師の地域偏在はむしろ緩和する傾向にあるといえます。
転職理由
以下は、転職支援サービスを利用した医師の転職理由のアンケート結果となっています。
家庭や生活事情による転職や、大学医局人事を離れて落ち着きたいといった理由が多くなっており、その背景として現在の勤務負担が大きいことが影響していると考えられます。
一方で、転科や閉院、帰国などが転職理由となっている例も一定数あり、様々な場面で転職支援サービスを利用していることがうかがえます。
具体的な転職相談の事例
それでは、具体的にどのような事情を抱えた医師が転職を考えているのでしょうか。以下に、実際に転職に成功した医師の相談事例を4つほど紹介します。
<事例1>
40代男性、呼吸器内科医。以前別の紹介会社を使い転職したが、転職後は当初の条件とは異なる条件で働いており、月6回の当直のシフトが直前まで決まらない状況となってしまっている。家庭の時間も十分に取れないため転職を考えた。
<事例2>
30代男性、放射線科医。大学医局に所属。家庭ではマイホームを購入し子どもが幼稚園に入るという時期だったが、医局より遠方の病院への派遣を打診されたことをきっかけに転職を考えた。自宅から通勤できる範囲で長く勤務できる病院を希望している。
<事例3>
40代女性、産婦人科医。医局派遣により公立病院に勤務。未就学児の子どもが2人いる。現状では当直が避けられず、土日も対応することがあるが、週末だけでも子どもと一日中一緒にいたいと考え、土日対応・当直の無い職場を希望した。
<事例4>
20代男性、精神科医。初期研修終了後は精神科クリニックで勤務。現状は外来業務に追われることが多いため、勉強する時間も確保できず、患者さんと時間をかけて接することもできない状況となっている。今後の精神科としての人生を考え、精神保健指定医の取得を希望している。
まとめ
以上をまとめると、紹介会社のサービスを利用する医師は様々な背景・事情をもって転職しており、年齢・性別・出身大学・診療科・地域も様々です。
このことは、医師のキャリア自体が多様になってきたということを意味すると考えられます。最初から医局に属さない医師が増えてきたこともその一つの表れといえます。
このように医師のキャリアが多様化する中、「医局を離れる=ドロップアウト」という単純な構図は成り立たなくなってきているといえます。
医局を離れるというのも医師にとってのキャリアの一つの選択肢であるという認識が広まるように、メディウェルではこれからも納得のいく転職支援・情報発信サービスを行なっていきます。
参考資料
※1 厚生労働省「平成26年(2014年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」p5
※2 (既出)厚生労働省「平成26年(2014年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」p8