言わずもがな、近年 FinTechは盛り上がりを見せている。会計業務サービスや家計簿アプリのTVCMが放映されたり、当メディアでも取材した「テーマ型投資プラットフォーム」を公開予定のFOLIOがラウンドAで18億円を調達していたりと、2兆円を超える国内金融市場は群雄割拠の様子を極めている。
ただ、
toC向けのFinTechサービスはだいぶ耳にするようになったけれど、toB向けって何かないの?
というわけで、
家計簿アプリで台頭しているZaim、マネーフォワード、マネーツリーの内、今回はtoB向けに「MT LINK」や、toC向けに「Moneytree」、そして経費精算サービスの「Moneytree Work」というサービスを提供するマネーツリー株式会社(以下マネーツリー)を訪問し、プロダクト開発のことや会社のこと、アメリカと日本の就業観の違いなど、聞きたいことを同社のダグラス マック氏、中村 聡氏、北方 薫氏の3名に伺った。
・「Moneytree」とは
・FinTechにおけるtoB領域を開拓するマネーツリーのプロダクト
・マネーツリーはどんな会社?
・アメリカから日本へ。ダグラス氏に聞く日本とアメリカの就業観の違いについて
・読者へのメッセージ
・おわりに
(読了5分)
口座残高画面・支出画面・ポイント画面
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「Moneytree」とは、クレジットカード・銀行口座・ポイントカード・電子マネーの複数金融機関の収支を一元管理できるファイナンスアプリである。
利用している銀行口座・クレジット等を登録すると自身の資産の収支を一目で把握することができる便利なサービスだ。
Web・アプリ(iOS、Android)とそれぞれのデバイスに対応しており、シンプルかつ洗練されたUIUXが魅力のプロダクトであることが評価され、App StoreのBest of 2013、Best of 2014を受賞している。
その他、経費精算サービスを月額650円(年間払いの場合)から利用できる「Moneytree Work」も公開している。レシート・明細をカメラやスキャナで撮影し、読み込むだけで経費として自動照合することで、経費精算を分かりやすく管理するプロダクトだ。またサービスには、経費精算プランと法人口座プランがある。
マネーツリーが提供するBtoBサービス「MT LINK」
マネーツリーでは「Moneytree」以外にも、「MT LINK」という銀行や会計といった金融領域の企業に対して、提供している金融インフラプラットフォームを有している。
「MT LINK」導入企業は、自社アプリ内に「Moneytree」の収支履歴を表示できるMobile SDKや、マネーツリーが持つ国内2600社以上の銀行口座やクレジットカード、電子マネー、証券口座、マイル・ポイントカードの取引情報の取り込みを可能にするAPI群を活用することができる。
それにより導入企業は「MT LINK」を自社サービスと連携させ、顧客のユーザビリティーを高めることが可能となる。
フロントエンドエンジニア ダグラス マック(Douglas Mak)
サンノゼ州立大学情報工学科卒、ソーシャルプロモーション分野のスタートアップに参画。新たな冒険を求め2014年東京に飛び込み移住。現在マネーツリーにて「Moneytree」のコンシューマー向け・企業向け開発のフロントエンドエンジニアチーム主任を担当。
ダグラス 私は、「Moneytree」のウェブ版フロントエンド開発を担当しています。それとは別で、金融インフラプラットフォームを提供する「MT LINK」のウェブ版開発も併せて担当しています。
「MT LINK」は、金融系の企業(以下、クライアント)などが、自社のWebサイトやモバイルアプリ上で、マネーツリーが保有するAPIを利用できるようにするサービスです。現在は、会計、金融、不動産賃貸管理、自動車整備、経費精算、請求書発行、資産運用などの領域で採用されています。
みずほ銀行や三井住友銀行など大手金融機関にも導入して頂いています。もう少し噛み砕いて表現すると、クライアントが「自社のアプリを利用したまま、顧客満足度の向上を支援するツールが欲しい」という要望に応えるためのプロダクトです。
-「MT LINK」の活用ケースとして、みずほ銀行や弥生会計が挙げられます。サービスの連携は、金融機関ごとで個別に対応しているのでしょうか?
ダグラス 「MT LINK」を全てのクライアントの自社アプリ・ウェブサイトに対応可能にするのは、決して技術的に簡単なことではありませんが、その技術的課題を解決し、クライアントの要望を形にするのが、現在のマネーツリーで私が担当している分野でもあります。
導入事例「みずほ銀行」「弥生会計」※MT LINKダウンロード資料より
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-マネーツリーとして、ファイナンスアプリの競合についてどのように捉えているのか聞かせていただけますか?
ダグラス 前提として、競合がいることはありがたいことだと思っています。市場を共に盛り上げていける存在だと考えています。
toC領域で話をすると、競合は多いですね。しかし、toB領域において、私たちは独自のポジションを築いています。
また、差別化に関しては、他社を意識した対策よりも「Moneytree」ユーザーにとって、必要な機能と使いやすいデザインを追求することに注力している次第です。
マーケティング・スペシャリスト 北方薫(Kitakata Kaori)
青山学院大学文学部心理学科卒。ベンチャー企業を経て渡米。帰国後外資系PR代理店にて消費財などのコンシューマー分野におけるコミュニケーション戦略
に携わる。その後独立し、中小・ ベンチャー企業におけるコミュニケーション業務のコンサルティングサービスを 行う。2016年12月よりマネーツリーに携わり現在に至る。 広報およびコンテンツ開発を担当。
-マネーツリーはどのくらいの人数規模でやられていますか?
北方 マネーツリー創業者のポール チャップマンは学生時代に日本の大学への留学を経験しています。同じく創業者のマグダッド マークも留学経験があるなど、日本に何らかの関わりがあるメンバーがそろっています。
現在33名、10ヵ国のスタッフが在籍、ほぼ全員が日本本社に勤務しています。そのうち日本人は3割程度です。また、職種としては全体の半分以上がエンジニアです。
-マネーツリー社内での公用語は英語でしょうか?
北方 エンジニアチームは、英語でのコミュニケーションが多いですね。営業はクライアントと話すことが多いのでもちろん日本語ですし、私が所属しているマーケティングチームは英語と日本語、どちらも使っていますね。
-マネーツリーの就業環境について、特徴を聞かせてください。
北方 柔軟な職場環境がマネーツリーらしさだと思います。コアタイムは決まっていますが、在宅勤務・リモートワークなど柔軟に働き方を選べる職場ですよ。
モバイルエンジニア 中村聡(Nakamura So)
名古屋大学情報文化学部卒。日立製作所でネット証券プロジェクトの新技術調査、シマンテックで電子証明書発行管理システムのアプリケーション開発に従事。Swift発表を機に週末にiOSアプリ開発を始める。開発プロセスを一通り経験後、エンジニアとしてのキャリアを再検討し2016年4月よりマネーツリーに参画。現在、iOSのみならずAndroidも併せて担当。
中村 私は、モバイルエンジニアとして「Moneytree」のiOS、Androidアプリの開発を担当しています。実際に、もう一人モバイルエンジニアがいるのですが、彼はオーストラリア在住なのでリモート勤務の形になっています。
そういった自由な働き方にも加え、共に働いているメンバーの多様性というのも、特徴の一つとしてありますね。
私は前職は外資系の企業でしたが、職場内の日本人割合は高いものでした。
10か国からのメンバーで構成されるマネーツリーは、そのような環境とはまったく異なっています。日々発生するタスクに集中して、スピーディーに取り組める環境だと思います。
-マネーツリーはエンジニアの割合が高いということで、それにちなんだ特徴などはありますでしょうか?
ダグラス それで言えば、マネーツリーでは、社内ハッカソンを定期的に開催しています。プロダクトに関連していれば、どんなプロジェクトでも参加可能です。
このハッカソンで発表されたプロジェクトや機能はプロダクトに実装されることもあるので、純粋に楽しく、参加し甲斐があるんですよ。
例えば、ある者は、いつ・誰が・どのデバイスから「Moneytree」にログインしたかが分かるログを記録する機能を、その社内ハッカソンで発表しました。(個人を特定するものではありません。)
「Moneytree」はファイナンスアプリなので、セキュリティー面から、そのシステムは欲しい機能ですよね? もちろんハッカソンで発表されたプロトタイプをベースに、最終的にプロダクトに実装しました。
-そのエピソードから、マネーツリーの社員間コミュニケーションはとても活発だろうと伺えます。その点については、どのようにお考えでしょうか?
ダグラス まず前提としてお伝えしたいのが、マネーツリーのメンバーには、多くの自由を与えられているということです。
自由であるということは、個が持たなければならない責任は大きいということ。基本的に、どのメンバーも自分が携わっている分野において、大きな裁量を持っています。
その上で、コミュニケーションをとても盛んに取っているわけなのですが、プロダクトの性質上、他部署、異職種間でも、常に共に仕事をしているので、必然的にコミュニケーションが盛んになっているという部分もあります。
中村 従業員規模がまだ大きくなく、多国籍のメンバーで構成されていることもあり、コミュニケーションは必要なので、常にそれがやりやすい雰囲気の職場になっていると思います。
ダグラスが言うように、自分の仕事がきっちりあり、それをこなす裁量と責任が与えられていることが、コミュニケーションが活発になる要因の一つであると感じています。
北方 マネーツリーは、とてもフラットな職場です。私は前職が外資系企業でしたが、マネーツリーは一般的な外資系とも少し違い、日系企業とも異なります。
ただ言えることは、ダイバーシティのある環境であるということ。意見を発言しやすい場があり、チームで動くことも多い。組織が”縦割りではない” という特徴があります。
中村 外資系企業との違いで言えば、前職で体験したことの一つとしてですが、それまで担当していたプロジェクトや隣の部署が、本社側の都合で突然消えるということも起こり得ます。
そういった外資系ならではの “抗えない力” に振り回される心配はマネーツリーでは無いため、自分の本業に安心して集中できます。
ダグラス 最近は、会社全体としても、組織内でさらに密な連携を取らなければならないフェーズに入っていると認識しています。
チームでプロダクトを改善するために、要求を議論し、優先順位付けをし、優先度の高い要求から着手します。
その要求をより具体的に揉んで、反復し、アイデアとしてより良いものに昇華するプロセスを経て、ようやく開発に取り掛かります。
そういった工程を経て、機能としてプロダクトに落とし込むようにしているので、日々のコミュニケーションはやはり欠かせないですね。
-ダグラス氏は前職、アメリカでエンジニアとして勤められていたとお聞きしています。マネーツリーへの入社の決め手は何でしたか?
ダグラス マネーツリーの前は、地元のサンフランシスコにあったスタートアップで働いていました。
残念ながら現在はその会社はないのですが、そこでの職務経験はエンジニアとして働くうえでとても重要な時間だったと考えています。
それから日本へ単身移り住むことにし、マネーツリー創業者のポール チャップマン、マーク マグダッドと出会う機会があり、入社に至ります。
自分は、どのような人たちがその職場にいるのか、また、その人たちと共に仕事をすることで自分も成長できるかどうかを、入社の決め手にしています。
マネーツリーには素晴らしいメンバーが集まっているので、ごく自然に参加を決められましたね。マネーツリーのプロダクトに関しては、アメリカで似たようなサービスを利用していたこともあり、イメージは出来ていたのですが、正直な話、そこまで詳しくない状態で参画を決めていました(笑)。
-就業、採用への価値観の違いについて、アメリカをはじめ海外と比較して、日本と異なる部分をどのようにお考えでしょうか?
ダグラス 私の地元アメリカ(サンフランシスコ)と比較して話しますね。
転職事情は、日本とアメリカでは大きく異なるものです。具体的には、候補者採用の判断基準という点で異なっています。
アメリカでは、とても分かりやすく、単純な能力至上主義です。
企業は候補者に対し、スキルを求め、対価として給料を支払う。シンプルで分かりやすい価値観に則って採用が行われています。
日本でも能力は査定要素に入るとは思いますが、他の要素も加味されていて、アメリカよりは能力主義ではないでしょう。
新卒や第二新卒の若手エンジニアの方がまず目指すべきゴールは、一つの言語を熟知することです。
少なくともアメリカでは、複数言語を広く浅く習得しているエンジニアより、一つの言語を熟知している者が重宝される傾向にあります。
理由としては、多言語を広く浅く習得している者は、プロダクト開発において、実際にどれくらいの力を発揮できるかが不明瞭なのと、一つの言語を熟知していると他の言語を学習するときもスムーズに習得できることが多いからです。
私の場合、フロントエンド言語のフレームワークAngularJSを前職で徹底的にブラッシュアップしました。
それは、現在マネーツリーで担当している開発にも活きています。
さらに、JavaScriptを磨き上げながら、バックエンド言語のJavaやRuby、フロントのフレームワークであるReactJS、と順を追って着実に技術を磨いてきました。
一つの言語・フレームワークを熟知することで、他の言語・フレームワークへの理解がしやすくなることもあるので、焦らず着実に学習することをおススメします。
かの有名な武道家、ブルース リーが残した名言があります。
『私が恐れるのは、1万通りの蹴りを1度ずつ練習した者ではない。たった1つの蹴りを1万回練習した者だ』
これに尽きると思います。
ただ、日本の就職・転職活動においては、これが当てはまらない場合もある印象があります。
これはきっと文化の違いで、例えば日本では終身雇用が浸透していて、就職前には多くのスキルが求められていないのではないかと。働いていく中で企業が教育をしてくれるわけですから。
アメリカだと真逆で、数年に一度転職をする人が多いです。
自身のスキルを証明しながら、さらにその職場で新しい技術を習得する。
この繰り返しをするエンジニアが多いのではと感じます。やはりワークスタイル文化の違いがそういったところに表れていると思いますよ。
-終身雇用については、どのようにお考えでしょうか?
ダグラス 海外への留学や居住経験があるのとないのとでは、同じ物事に対する考え方や見方は変わってきますよね。異なる文化・思想に触れることで違った展望を持てるようになる。
それは、仕事においても同じことが言えると思っています。異なる職場で、異なるメンバーと共に仕事を経験することで、新たな仕事への向き合い方も吸収できる。
同じゴールへ向かうにも、プロセスは人それぞれなのです。そういった意味では、私は同じ職場で勤め上げるよりも、定期的に職場を変え、多様な経験を積んでいきたいと思います。
中村 大事なのは、就職先を検討する際に、会社ベースで考えないようにすることだと思います。ネームバリューのみで会社を選ぶのではなく、”自分がやりたいこと” を意識して、それを軸に考えてほしいと思います。
それと、最初から、自分にとって100点の会社を見つけられると思わない方がいいかも知れませんね。
もしエンジニアであれば、自分の腕さえ磨けばいくらでも選択肢が増えていきます。
“自分がやりたいこと” を実現できる状態まで自身の技術を磨くのが理想であり、あるべき姿だと思います。
最近は、エンジニアであれば、モバイルアプリやGitHubなど、外部に向けて自分のスキルを証明できる手段があるので、そういったツールも活用して自身を露出させていくこともできます。
会社ベースで就活・転職を考えるよりも、”自分がやりたいこと” に対して、真摯に成果を積み上げていけば、最終的に自分が満足できる環境を得られると思います。
ダグラス とにかく努力を惜しまないこと。私は前職のスタートアップで、決して多くはない給料で働いていましたが、そこでエンジニアとして独り立ちできるスキルを身に着ける経験を積めたと思っています。
当時はとにかくがむしゃらに頑張っていました。そこでの経験を経て、単身日本へ飛びこんでみて、現在の私があります。
将来、今の自分を振り返っても後悔しないように、今から努力を惜しまず頑張って欲しいです。
北方 私は、「自分がやりたい」 と声に出したことをチームとして向き合ってくれる環境のある企業カルチャーかどうかを気にします。
ベンチャーも外資系も日系企業も、経験しましたが、やはりその会社ごとに “良しとする基準” は異なるので、それがいかに自分の価値観に合っているのかを意識すると、会社選びがうまくいくかもしれません。
金融機関ごとにMoneytreeの提供するAPI群を活用できるようにする「MT LINK」は着実に導入事例を増やしている。
また、toC向けの「Moneytree」では、「最初は、クレジットや口座情報などを登録することをためらうことも理解できるので、まずはハードルの低いポイントカードからユーザーに連携してもらい、プロダクトに慣れてもらいたい」とダグラス氏は語る。
toC、toBの双方へビジネス展開を図るマネーツリーの強みは、toCにおいては優れたUXという点、toBにおいては金融機関ごとに個別対応がきっちり行われているという点であると言える。
そして、現在マネーツリーでは、エンジニア職を積極採用中だ。
グローバルな環境で新たな挑戦をしてみたい方はいかがだろうか? ちなみに、英語は話せなくても大丈夫だそうだ(笑)。
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