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政治政策
安倍首相の「憲法改正」戦略は、実に巧妙である
自民党の反発さえも抑え込む自信アリ?

ずいぶんと思い切ったものだ

これなら憲法改正が本当に実現するかもしれない。

安倍晋三首相が5月3日に表明した憲法9条に自衛隊の存在を明記するという改正案は事実上、多くの国民が受け入れている現状をそのまま追認しよう、という内容だ。私は賛成である。

自民党総裁としては、ずいぶんと思い切ったものだ。

首相の提案は従来の自民党草案とはまったく違う。現行憲法は9条2項で「陸海空軍その他の戦力」は保持せず、国の交戦権も認めていないが、自民党草案は「内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する」と国防軍すなわち軍隊の創設を明記していた(https://jimin.ncss.nifty.com/pdf/news/policy/130250_1.pdf)。

これに対して、首相提案は9条1項の戦争放棄と2項の戦力不保持はそのまま残して、新たに自衛隊の存在を明記する3項を付け加えるという(http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK03H16_T00C17A5000000/)。

中身が大きく変わったのに、自民党内で議論したかといえば、まったくしていない。党内からは戸惑いや反発する声もある。

安倍首相は憲法改正を求める集会に寄せたビデオ・メッセージの中で「自衛隊が違憲かもしれないという議論の余地をなくすべきだ。自衛隊の明文化は国民的な議論に値する」と提案する意図を説明した。

 

首相とすれば、自ら大胆な一石を投じて世間に提起しないことには、改正論議が一歩も進まないとみたのかもしれない。それで良かったのか、悪かったのか。私の意見を書く前に、最新の世論調査を見ておこう。

読売新聞は15日、首相提案の後に実施した世論調査の結果を報じた。それによれば、9条に自衛隊の根拠規定を追加する考えに賛成が53%で、反対の35%を上回った。同じく産経新聞とFNNの調査では、自衛隊明文化に賛成が55.4%、反対は36.0%だった。

NHKの調査でも、提案に賛成が32%で反対の20%を上回った。こうしてみると、総じて国民は「9条1項、2項を維持したうえで自衛隊を明文化する」という提案を支持しているように見える。

違っていたのは朝日新聞だ。朝日の調査は「首相提案のような改正をする必要があるか」と質問している。それに対する回答で「必要がある」が41%で「必要はない」が44%だった。一見すると、反対論のほうが若干、多いように読める。

だが、これは質問に誘導された可能性がある。首相提案にずばり賛成か反対かと聞けばいいのに「改正の必要があるかないか」と聞いたので、中には、提案の中身がどうあれ「いまは必要はない」と考えた層があっただろう。質問自体が「変化球」なのだ。