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shi3zの長文日記 RSSフィード Twitter

2017-05-19

マストドンが急成長でき、心地よいのは不完全さのおかげかもしれない 07:22

 マストドンの設計はスケールしないという悪口をよく言われる。

 スケールしない、つまり大規模化できるような構造になっていないというのだ。


 しかし現実はどうだろう。マストドンはブレイクからわずか一ヶ月で70万ユーザに迫る勢いの伸び率である。

 かつてここまでのスピードで増加したプラットフォームは見たことがない。


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 普通はブレイクの過程で、サーバーが落ちたり、増強したりを繰り返すのでこんなにスムーズにユーザーが単調増加していくことはない。


 いまは比較的なだらかなカーブになっているが、さすがにイノベーター層には知れ渡り、第一次ブームが落ち着いているからだろう。


 ユーザー数の増加は落ち着いて来たけれども、発言数は伸び続けている。


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 これは実際にユーザーが定着しているということを意味する。

 平均一人あたりトゥート数が伸びているということは、ユーザは毎日コンスタントにつぶやいているということだ。


 マストドンのいいところは、ある意味で不完全性にあると思う。


 不完全性というのは、たとえば連合タイムラインは、決して世の中の全てのインスタンスと連合しているわけではないということ。


 また、他のインスタンスと連合していても、そのインスタンスの全てのユーザと連合しているわけでもないということ。


 これは非効率的ではあるがこの不完全さによってうまれる連合タイムラインの偏りは、インスタンスの個性が出るようになっている設計だ。


 ひとつのインスタンスが効率的に運営できないという不完全さも重要で、これにより、少数クラスタやお一人様インスタンスが増加した。


 また、これも重要なことだが、お気に入り(ファボ)とブースト(Twitterでいうリツイート)の数がよくわからないようになっている。


 あるアカウントの正確なフォロワーの数も、やっぱりよくわからない。

 まあたぶん、その人のインスタンスまで行って確認すれば正確なフォロワー数がわかるんだろうけど、Twitterと違ってブーストされた数とか星がついた数とかが可視化されない。


 ただわかるのは、「フォロワーのだれそれがブーストしました」とか「星をつけました」ということで、これもリアルタイムな通知としてどんどん流れていってしまうので蓄積されない。


 Twitterが気持ち悪くなった原因のひとつとして「リツイートが100を超えたら○○します」みたいなことを言う人が目立ってきてからだ。リツイート数やファボ数が上がっていくのは承認欲求を満たし、それがパクツイ(パクリTweet)や炎上を産んでいった。


 マストドンの場合、ファボやブーストはどんどん流れ去っていくので数字を追いかけるという感覚がない。


 おはどん、とかくだらない書き込みに対してリアルタイムに星がつく。この程度がほどよい快感であり、もちろん個別のTootのページに行けばファボ数やブースト数を確認できるが、今のところわざわざ見に行く人はいないのではないか。


 インターネットにはマストドンと同様に不完全であり、故に強力なものがある。それは今でも不完全で非効率的だがきちんと機能している。Webだ。


 Webの仕様は基本的にやっつけであり、やっつけからスタートしたので今でもその頃の不完全な仕様が一部残っている。


 たとえばタグを使うマークアップ言語でありながらタグの対応関係がおかしくてもそのまま表示してしまうブラウザが少なくない。

 

 W3Cが基本的な仕様を決めながら、できるだけ完全に近づけるように努力をしているが、おなじWebKitから派生したSafariChromeでさえ仕様が微妙に異なる。不完全だ。


 でも、だからこそ複数の企業や組織が知恵を絞ってそれぞれの創意工夫が入り込む余地がある。不完全だからこそ完全を目指す余地があるのだ。


 これがTwitterやFacebookの場合はどうだろう。

 TwitterやFacebookは完璧とは程遠いが、選択肢がほとんど唯一それしかないため、不満を持ってもそれを改善する権利はそれぞれを支配する企業一社に限られる。


 Webやマストドンはオープンソースであり、誰でも自由に改造を加えることが出来る。


 マストドンとOStatusのアーキテクチャが非効率的だと主張する人はもっと遥かに早く改善すべきものがあることを忘れている。SMTPだ。


 なぜかメールは未だにバイナリファイルを直接送れない。バイナリを一度文字に変換して送って、受取先で展開しなければならない。だからメールで大容量のデータを送るのは非効率的になる。その上、CCやBCCで送るときも同じデータを複数の送付先に送ることになる。とても効率的とは言えない。


 メールには問題が多い。けどみんな使っている。

 マストドンには問題が多い。けど今日も起きると「おはドン」とTootする。星がつく。一日が始まる。


 不完全であること。これがマストドンの持つ本質的な価値なのではないか

 人は完成したものよりも不完全なものにより惹かれる傾向がある。心理学で言うツァイガルニク効果だ。


 TwitterやFacebookも、もっといえばiPhoneも、登場した瞬間は不完全で、そこが魅力的だった。あとはいかに不完全であり続けるかが、実はそのアーキテクチャなりカルチャーなりの伸びしろなのかもしれない。


 Webのように不完全なものは、常に変化の中心にあり、いろいろなプレイヤーが入れ替わり立ち替わり持論や自説を試すことになる。AppleやMicrosoft、Googleのような大企業もWebブラウザを作るし、一方でVivaldiのような挑戦者もいて、Apacheで支配的になったかに思われたサーバーの世界にもnginxのような挑戦者が登場するし、bottleやRoRのようなフレームワークが次々と生まれる。Reactのようなフロントエンドのフレームワークも同様だ。進化の激しい世界は飛び込みがいがあるし、やりがいがある。


 Twitterをビジネスにどう活用するかというのはTwitterの登場時には盛んに議論されたが、今はそんな話を好んでする人はいない。Twitter社がTwitterクライアント開発会社を買収したときに、「ああ、これが公式クライアントになるのか」ということでアプリ開発会社が競争意欲をなくしたからだ。


 Twitterが登場した直後、Twitter社はスターだった。新しい世界を切り拓くリーダーのように見えた。しかし結局のところ、実際に彼らが作ったのは古臭い王国だった。


 Wikipediaは定期的に寄付を募らなければ維持できない。Wikipediaでは論争が絶えない。結局、Wikipediaは「共通認識」という幻想を議論によって着地させなければならない。


 仮にマストドンのようにWikipediaを複数の組織が運営できて、ゆるく連携できるとしたら、そのほうがいいかもしれない。トラフィックの問題もフレイムの問題も解決できる。


 これが非中央集権化であり、マストドンが見せてくれた未来の姿でもある。