獣医学部新設 内閣府、なぜ前のめり
所管する省庁との連携も不十分なまま
学校法人加計(かけ)学園(岡山市)が政府の国家戦略特区を活用して獣医学部を新設する計画で、特区を担当する内閣府が2018年4月の開学に向け、獣医師資格を所管する省庁との連携も不十分なまま手続きを急いだ実態が浮かびつつある。政府が半世紀にわたり認めてこなかった獣医師系学部の新設は、規制改革を進める現安倍政権になって動き出しており、野党側は18日の国会審議で追及を強めた。
安倍晋三首相が議長を務める国家戦略特区諮問会議は16年11月9日に学部新設を決めた。ただし、この段階では設置時期を明示しておらず、内閣府が同18日からパブリックコメントを募った際、「18年度開学」が明らかにされた。
山本有二農相は18日の衆院農林水産委員会で「当省にパブリックコメントが開始された旨の(内閣府からの)事務的連絡は11月21日にあった」と説明。農水省側は同18日にホームページでパブコメ開始を見て開学時期を把握した経緯を明かし、獣医師の需給を所管する農水省への「事後報告」に不快感をにじませた。質問に立った民進党の宮崎岳志氏は「このような対応には、怒りをもって対応していかなければ」と批判した。
獣医師の需給を巡っては、日本獣医師会は「不足していない」との立場で、文部省(当時)も1984年、獣医師の過剰を防ぎ質を確保するとして新設や定員増を認めない方針を決定。家畜を診る産業動物獣医師は減少するとの見通しもあるが、獣医学部は北里大が66年に青森県に開学したのを最後に新設されていない。愛媛県今治市での新設の申請も07年以降退けられてきたが、規制が緩和される国家戦略特区の指定を受けたことで開学に向けて動き出した。
学園が運営する岡山理科大獣医学部の新設の可否は現在、文部科学省の大学設置・学校法人審議会が審査している。定員160人を教える態勢が整っているかなどを確認し、8月末までに認可か不認可かを文科相に答申する。【遠藤拓、伊澤拓也、宮本翔平】
内閣府の審議官「『総理のご意向』申し上げたこと一切ない」
文部科学省幹部で共有されたとされる文書を巡り、18日の衆院農林水産委員会では名指しされた関係者からの発言が相次ぎ、内容を否定する答弁もあった。獣医学部の開学時期に関して、国家戦略特区を担当する内閣府の藤原豊審議官は「内閣府として(文科省に)『総理のご意向』などと申し上げたことは一切ない」と反論した。
文書は昨年9~10月、内閣府と文科省とのやり取りなどを記したものとされ、A4判1枚ごとに題名が付けられている。「(文科)大臣ご確認事項に対する内閣府の回答」との文書では、開学時期について「これは総理のご意向だと聞いている」と内閣府が文科省に伝えたとされる。文科省関係者は毎日新聞の取材に、この担当者が藤原審議官だったと証言している。
このほか、萩生田光一官房副長官と文科省幹部のやり取りを記したとされる「10/7萩生田副長官ご発言概要」との文書もあり、萩生田氏が「私の方で整理しよう」と述べたと記されている。これに対して萩生田氏は「文書の信ぴょう性に疑問を持っている」と述べる一方、昨年10月の日程について「確認が取れない。公式日程(の記録)は廃棄した可能性もある」と説明した。
また、義家弘介副文科相から文科省担当者への指示をまとめたとされる「副大臣レク概要」の内容について、義家氏は「事実を確認中。この時期にさまざまな調整をしていたことは事実」と述べるにとどめた。【杉本修作】
加計理事長、安倍首相「心の奥でつながっている友人」
学校法人加計学園の加計孝太郎理事長と安倍晋三首相は1970年代に留学先の米国で知り合って以来の親友とされる。
首相は2014年、学園系列の千葉科学大(千葉県銚子市)の開学10周年式典で「どんな時でも心の奥でつながっている友人、私と加計さんはまさに腹心の友。留学生時代、ともに遊び、語り合った。今でも忘れられない」とあいさつしている。
首相の妻昭恵氏が会食に同席することもあるといい、15年12月のクリスマスイブには、首相が加計氏らと過ごしている写真が昭恵氏のフェイスブックに投稿されている。
これまでの国会質疑などによると、昭恵氏は、学園系列のこども園の名誉園長を務め、同園のイベントにも政府職員2人を連れて参加したとされる。