あと10年早ければ、その人生は違っていたはず──転職のプロ・ヘッドハンターがいつも感じていること
- カテゴリー:
- JOB/BUSINESS
「どうしてもう少し早く、お越しいただけなかったのだろう」
ヘッドハンターという仕事に就いてからというもの、もうどれだけ、こんなため息をついたかしれません。
せっかくキャリア相談にお見えになられても、こちらから、積極的なご提案ができそうもない。せめてあと3年、5年、できれば10年早かったら…。きっとこの方には、いくつもの選択肢があって、いろいろな夢を広げていけたかもしれないのに。
今回は、ヘッドハンターである筆者がいつも感じている「転職の現場」での問題について率直に語りたいと思います。
経歴・人柄が良くとも「若さ」という可能性が残っていない
実は、「履歴書にもお人柄にも大きな問題のない方」からのご相談が、「ヘッドハンターである私にとって一番悩ましいケース」になりがちです。
たとえば、Aさんは誰もが知っている大学を卒業されて、誰もが知っている上場企業に新卒入社、そこで営業現場を数年かけていくつか回った後に、本社部門では企画の仕事を修行したのち、再び現場に戻っていまの肩書きは課長補佐。体育会系出身で元気溌剌なお人柄は誰からの印象も良さそうでした。
しかし、38歳。すでにいまの会社に入社して17年目。他の会社はもちろん、別の事業を手がけたこともありません。
おそらく、いまの課長補佐というポジションから上を見たとき、そこには、バブル世代の役職者が何人も詰まっていて、「これでいいのか?」という気持ちが芽生えてきたのでしょう。
そのお気持ちはよく分かるのですが、この場合、下手に動かない方が良策であることが多いです。選択肢がまったくないとは申しませんが、転職してより良いキャリアを実現するまでのハードルが多すぎます。
まず、経験値のバラエティが少ない点が気になります。新しいビジネスを新しい会社で始めるのに、別の事業に取り組んだ経験が10年以上ないというのは、厳しいでしょう。
次に報酬面でも厳しい。誰もが知っている上場企業の生え抜きで、しかも30代後半となると、すでに相応の報酬が保障されています。よほどの実績がないかぎり、未知の人材にポンと出すには、かなり勇気が必要な金額になっているはずです。
最後に、ご家族からの反対もありえます。今後も将来が保障されている(はずの)会社でそれなりのポジションを持っているのに、「なぜ、それを投げ捨ててまで?」という考えは当然。お子さんがいらっしゃるようであればなおさらです。
以上を踏まえると、Aさんはまだ30代後半にも関わらず、選べそうな選択肢があまり残っていないのです。
もう少し、あと少し、早く来ていただければ、「若さ」という可能性が残っていたはずです。ご家族の意見や許容できる報酬レンジも、現時点とは違っていたかもしれません。良いポテンシャルをお持ちだと感じるほど、こちらとしても、とても寂しく感じる瞬間です。
年功序列型社会では「キャリアの問題」を真剣に考えにくい
ヘッドハンターというのは「人を転職させるのが仕事」と思われています。間違いではありませんが、実はそれだけの仕事でもありません。
ヘッドハンターというのは、なかなか気の長い仕事です。私の仕事は、いろんなビジネスパーソンにお目にかかり、ひたすら仕事の話をおうかがいして、キャリアに対する考え方、現職の状況、これからの夢などについて、まずはご本人と一緒に整理することから始まります。
これを年1〜2回、それを何年も繰り返した上で、「そろそろかな」という時期が来たときに、やっと転職の検討をはじめる。どうにも息の長い話ですが、そこは人生を変える選択のお手伝い。お互いをよく理解した上でのこうした進め方は、決して間違っていないと私は思っています。
ただ、これをビジネスの側面から考えてみると、時間というコストが非常に大きい仕事になりますから、どうしても相手は、部長や役員といった高収入の方に限られてしまいます(そのなかで30代の若手は珍しく、それもコンサルや外資系出身者などに偏りがあります)。
しかし、そうして多くのベテラン、特に40歳前後の方々にお目にかかるうち、最初に申し上げたような問題意識を──「もう少し早く来てほしかった」と痛切に感じるようになりました。
この国ではいま、年功序列型のキャリアが崩れ、今後、若い世代の方々は転職を含めた経験のなかから、自分の成長機会を増やし、選択肢を広げていくことが、キャリアの上でとても大切になってくるはずです。
一方で、そうしたキャリアについての考え方や、具体的な転職の進め方などについて理解を深める場が、この国ではまだほとんどない、という問題があります。
ところが困ったことに、キャリアの問題は直近の問題ではありませんから、すぐに取り組まなくてもいい。それに日本に浸透している年功序列制度が「キャリアをいちいち考えなくても良い仕組み」であることも、働く人がキャリアの問題を先送りにしてしまう理由の1つになっています(保障の厚い大企業に勤めている方ほど、そうした傾向は強まります)。
その結果、多くの人がキャリアの見直しをしないまま、漠然とした問題意識を持ちつつも、なんとなく40代まで会社に依存してしまい、そこからアタフタし始めるといったケースが数多く起きてしまっているのです。
アラサーは「これからのキャリア」をどう考えるべき?
私がお薦めするキャリアの見直しのタイミングは、まずはひととおりのことが身についた「入社から3〜5年後」です。いくつかの現場をまわり、基礎力や仕事を進める力も身について、視野がそれなりに広がってくるアラサーにさしかかる年代です。
「これから先、いままでのことをずっと続けていくのか? 他に選択肢はないのか」
こんな風に気になってくるアラサー世代こそ、1つの会社に籠もらず、いろんな働き方に触れ、自分の考えを磨いていくべきです。会社の同期や先輩に、「他の会社に行くとどうなる?」と相談しても、その人たちの視野が広いとも限りませんし、悪くすれば、あらぬ疑いがかけられてしまうかもしれません。
キャリアに正解はありません。すべてのビジネスパーソンが抱いている状況や目標、問題意識は、無数の組み合わせがあり、万能の方程式は作れません。だからこそ、できるだけ多くの意見やケーススタディに触れ、自分の問題や状況に置き換えながら、誰かと一緒に考えていくしかありません。
- 「自分とは違う会社で働いている人たちと意見交換すること」
- 「なかでも、いろんな会社を渡り歩いたビジネスパーソンの経験談を伺うこと」
- 「経験豊富な転職のプロから、一般的なキャリアの考え方を学ぶこと」
これらはいずれも、自分の会社のなかにいるだけでは難しいでしょう。皆さんにお薦めしたいのは、とにかく会社を飛び出して、いろんな方とお話ができる場所に顔を出していくことです。別に、キャリアをメインにした集まりでなくてもかまいません。たとえば、何らかの講座や習い事に通ってみるとか、さまざまなミートアップイベントに顔を出すようにする、といったことでもいいのです。まずは会社とは違う世界と、いつも接点を持っておきましょう。
また、もし可能であれば、そこで名刺交換と世間話で終わるのではなく、もう少し、立ち入った話までできるような関係を作ることが理想です。日々の働き方の話から、仕事で実現したいこと、さらに日頃の楽しみや、事件やニュースのとらえ方まで、自分とは違う人の話に触れることができれば、もっと自由にキャリアや人生を考えることもできると思います。
自分たちが自分たちでキャリアについて考え、創り上げていかなければならない時代は、必ず来ます。そうした時代の先駆けとなるべく、私も自分の会社を通じて、どんどん新しい試みを続けていきたいと思います。ご自身のキャリアの選択肢をいつも考えておくことを、どうか大切に。
本稿を執筆した世古暁さんは「仕事の性質上、40代〜50代のハイクラスなビジネスパーソンが主な相手だったヘッドハンターの仕事を若い世代に届けられれば、40代で人生に行き詰まる人が減り、キャリアを広げていける人が増えるのではないか」と考えています。
そこでライフハッカー[日本版]を運営する株式会社メディアジーンは、世古さんが運営するクラウドヘッドハンターズ株式会社と、「若い世代が今後のキャリアについて気軽に考え、刺激を受けられる場」としてイベント「キャリアストーリー」を共催します。
第2回キャリアストーリー・イベント概要
- 先輩のゲストトーク:転職によってキャリアを広げてきた「先輩ビジネスパーソン」をゲストに呼び、実際にキャリアを見直したキッカケや、その転職の思いと結果のギャップなどを大いに語っていただきます。
- 参加者・ゲストのディスカッション:ゲストも交えて参加者で輪を作り、ゲストの経験談に対する質問や、その回答にみんなで反応して理解を深めます。少人数制のイベントなので、ディープなコミュニケーションが可能です。
- ファシリテーターはプロのヘッドハンター!:今回の記事を執筆したヘッドハンター・世古暁さんが進行を務めます。ゲストから有益な経験談を引き出しつつ、客観的な立場からアドバイスやまとめなどを行ってくれます。
※開催日時:未定/費用:無料
※第1回の模様はこちらの記事でご確認ください。
いますぐ転職したいかどうかは関係ありません! ぼんやりとでも「自分の将来のキャリア」が気になっている方は、ぜひ次回のキャリアストーリーへお越しください。後日、ライフハッカー[日本版]上や公式Facebook、公式Twitterで参加者の募集を行いますので、フォローするなどしてお見逃しのないように。
(クラウドヘッドハンターズ株式会社 代表 世古暁/ライフハッカー[日本版]編集部)
Photo by gettyimages.