相次ぐ「線路への逃走」を分析

相次ぐ「線路への逃走」を分析
痴漢の疑いをもたれた人が、電車のホームから線路に飛び降りて逃げるというケースがあとを絶たず、今週は、死亡事故も起きてしまいました。そもそも「痴漢を疑われたら逃げたほうがよい」という情報はいつごろ、どのように広まったのか。そして(あくまで本当に身に覚えがない場合に限りますが)あらぬ疑いをかけられたときは、いったいどう行動すればよいのか。専門家に聞きました。(社会部・馬渕安代記者)
黒っぽい服装の人物が線路上を走って行く、3月にJR池袋駅で撮影されたこの映像が、一連の「線路上の逃走」が注目されるきっかけでした。

その後も痴漢の疑いをもたれた人が、線路に飛び降りて逃走するという事件が相次ぎ、今月15日夜、横浜市の東急田園都市線の青葉台駅では、ホームから線路に飛び降りた男性が入ってきた電車にはねられて死亡しました。

警察の調べで男性は、痴漢をした疑いがあるとして駅で降ろされ、駅員の制止を振り切って、線路に飛び降りたということです。

相次ぐ「線路上の逃走」

黒っぽい服装の人物が線路上を走って行く、3月にJR池袋駅で撮影されたこの映像が、一連の「線路上の逃走」が注目されるきっかけでした。

その後も痴漢の疑いをもたれた人が、線路に飛び降りて逃走するという事件が相次ぎ、今月15日夜、横浜市の東急田園都市線の青葉台駅では、ホームから線路に飛び降りた男性が入ってきた電車にはねられて死亡しました。

警察の調べで男性は、痴漢をした疑いがあるとして駅で降ろされ、駅員の制止を振り切って、線路に飛び降りたということです。

「逃げるべきではない」という情報もあった

そもそも、「痴漢を疑われたら逃げる」という情報はどのように広まったのか。

ソーシャルメディアのツイッターで「痴漢」や「逃げる」「逃走」といった言葉が投稿された件数の推移を調べました。
グラフをみると、いくつか投稿が増えた「山」があります。痴漢に間違われたときの対処法についてネットメディアや週刊誌などの記事に関する投稿が目立ちますが、記事によって結論は違っていました。

2011年や12年ごろによく言及された記事では、いずれも弁護士のコメントとして、「痴漢の疑いがもたれても、逃げるべきではない。やましいことがあるのではとさらに疑われてしまう」という説明がありました。

「疑われたら立証は困難」という意見が急増

しかし2013年に痴漢事件のある裁判で、客観的な証拠が乏しいなかで1審で有罪判決が言い渡されました。2審で無罪になったもののツイッターでは、「痴漢を疑われたら裁判で無罪を立証するのは困難」とか「やはり逃げるしかない」といった投稿が急増したのです。

そして同じ年に週刊誌が、痴漢の疑いがもたれた場合について「裁判になると不利なので、手を振り払ってでもいちもくさんに立ち去れと弁護士たちが口をそろえている」と報じた記事が、ツイッターで話題になりました。

その後も2015年に民放の討論番組に出演した弁護士が、「間違われた人のほうが現場に残りがちでトラブルになりやすい。速やかに現場を立ち去ることがベストの対応」と発言して投稿が増えました。これらの記事は、今もネットで見ることが出来ます。

ソーシャルメディアの多くの投稿をみると、ネットメディアやテレビ、週刊誌などに登場する専門家の意見が分かれ、何を信用したらよいのか分からないなかで、「痴漢に間違われたら立証は困難」「何がなんでも逃げる」といった情報や意識が共有されていったことがうかがえます。

どうすればよいのか?

それでは、痴漢をしていないのに疑われた場合は、どうすればよいのでしょうか。刑事裁判に詳しい東京の桜丘法律事務所の櫻井光政弁護士に聞きました。

痴漢の疑いで逮捕されると、長期間、身柄を拘束され、社会的な地位を失うという恐怖を感じるかもしれません。ネットでは、「長ければ20日間以上勾留されるので、会社にも知られてしまう」といった情報もあります。

しかし櫻井弁護士によりますと、最近、裁判所は、長期間の勾留を認めない傾向があるということです。逮捕されても3日ほどで釈放されれば職場などに知られずに済むこともあるので、あらぬ疑いをかけられても、慌てず、落ち着いて行動すべきだということです。

まずするべきことは?

そして具体的な対応としては、例えば、列車の中で近くにいた人に声をかけ、当時の状況を証言してくれるようにお願いしたり、被害を訴える相手や駅員などと自分が交わした会話を録音したりする手があるといいます。

周囲の人が「やっていない」と証言してくれれば、その場で、解放される可能性もあるほか、「触った」「触っていない」といった水掛け論になってしまうのを防ぐ効果もあります。

さらに、起訴されてしまった場合に、裁判の証拠として使うこともできます。
また、その場で十分な弁解ができないと、不利な状況に追い込まれる可能性もあるため、あらかじめ弁護士の連絡先を調べておいて、できるだけ早く電話したほうがいいということです。

具体的には、「弁護士が来るまで待ってほしい」と言って弁護士事務所に電話したり、相手に名刺などを渡して身分を明らかにしたうえでその場を離れ、弁護士に相談したりする方法があるということです。

「逃げるのはだめ」

もし、電話をする余裕もなく駅の事務所などに連れて行かれた場合は、「弁護士が来るまでは何も話さない」と言って不利な状況に陥らないようにする必要があるということです。

いずれにしても最悪の対応は、「線路に降りて逃げる行為」だということです。櫻井弁護士は、「線路に降りるのが危険なうえに、列車の運行を妨害したとして刑事責任を問われたり、損害賠償を請求されたりする場合もある。絶対にやめてほしい」と話しています。