「通貨ユーロは不完全であり、大改革をしなければ存続することはできない」――。フランスの大統領候補として選挙活動をしていた時、マクロン氏はこれが現実だとドイツの聴衆に警告したのは、その通りだ。そして大統領となった今、必要な変革をドイツが受け入れるよう説得しなければならない。
マクロン氏の主張は3つの疑問を浮上させる。彼が警鐘を鳴らすのは正しいか。何が必要な改革かをきちんと指摘しているか。それらを実現できるのか。最初の質問への回答は「イエス」だ。2つ目の質問へは「ある程度はイエス」。そして最後の質問には「恐らくノー」だ。
マクロン氏の経済顧問であるジャン・ピサニフェリー氏は昨年、欧州系シンクタンクCEPRの政策サイトに寄稿し、通貨ユーロに懸念を抱くのは当然だと説明した。「今ユーロ圏が存続しているのは、それが安定と繁栄をもたらしてくれるとの期待からというより、崩壊したら悲惨な結果になるとの恐怖からだ。これでは安定した均衡状態とは言えない」と。
恐怖の力は強大なもので、そのおかげでギリシャは依然としてユーロ圏にとどまっている。だが、恐怖に頼っていては、欧州を統合していくとの信念はもたない。それどころか国政選挙で早晩、現状維持派と現状に不満を募らせた反対派との衝突となり、どこかの大国で後者が勝利することになるだろう。ユーロ圏は確かに数年前よりははるかに安定しているが、脆弱性は解消されていない。
そこで問題となるのが、マクロン氏が提唱する解決策だ。彼は、ユーロ圏各国の財政をより緊密に統合させることを提案している。ユーロ圏として予算を策定し、共通の財務相を選定し、ユーロ圏議会を発足させ、それによって監視機能を確保するという。銀行の規制や監督を一元化する「銀行同盟」も完遂すべきだと呼びかけている。
こうした「連邦主義」はうまく機能するだろうか。たとえ実現できたとしても、解決策として十分ではないし、必要とされてもいないだろう。
連邦主義が十分な解決策でないのは、連邦も解体することがあるからだ。もっと重要なのは、連邦では経済状況が悪い地域はずっと補助金頼みになる可能性がある点だ。それはユーロ圏にとっては深刻な事態だ。
確かに連邦主義は必要だが、限定的なものでいい。それを理解するために、ユーロ圏が抱える3つの欠陥について考えてみよう。リスクの共有が不十分なこと、適切なマクロ経済政策を実行できないこと、そして加盟国間の労働を巡る政策や取り組みに違いが存在することだ。
まず損失が生じたら、債権者と債務者の間で負担を分け合う必要がある。最良の方法は、ユーロ圏全体の金融機関やエクイティ・ファイナンス(新株発行を伴う資金調達)など、市場原理を利用することだ。だからこそ銀行同盟と欧州の単一資本市場が必要で、その計画が既に進んでいる。また、返済不能な債務を削減するもっと機能的な仕組みを整備することも重要だ。
ある国で一時的に「負のショック」が起きた場合、その国を守る最善の方法は財政政策の出動だ。必要ならば加盟国間で緊急資金を拠出融通すればよい。ユーロ圏危機から学んだのは、ある国が危機に見舞われたら、中央銀行が最後の貸し手としてその国債市場を支えなければならないということだ。そうでなければ流動性不足に陥り、本来なら避けられたはずの債務不履行が起きてしまう。また金融政策では、ユーロ圏全体に負のショックが波及するのを防げないということも学んだ。場合によっては、積極的な財政政策も必要ということだ。