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shi3zの長文日記 RSSフィード Twitter

2017-05-18

記憶違いはパラレルワールドのせい? マンデラ効果が気のせいである理由を考えてみた 09:45

 まずはこの記事を読んでいただこう。


人種差別政策・アパルトヘイトの撤廃に尽力した20世紀の世界的なトップリーダーの一人であるネルソン・マンデラ氏であるが、2013年に氏の訃報のニュースが流れた時は、決して少なくない人々の頭の中にクエスチョンマークが浮かんだという。故人にとっては不本意極まりない話にはなるだろうが、とっくの昔(1980年代)にマンデラ氏は亡くなっていたと思い込んでいた人々がかなりの数いたようなのである。


こうした過去の疑いようのない記憶が、事実と反するものになってしまっている(と当人には思える)現象を、超常現象研究家のフィオナ・ブルーム氏は、このネルソン・マンデラ氏の例にちなんで「マンデラ効果」と名づけている。


気のせいだと言われれば認めるしかない勘違いともいえそうなのだが、ブルーム氏に言わせれば、これは単なる思い違いなどではなく、一部の人々は確かに1980年代にマンデラ氏の訃報に触れていたのだという。別のパラレルワールドではマンデラ氏は1980年代に亡くなっており、その世界を垣間見た時の記憶が一部の人々に残っているのだと指摘している。つまり、並行する世界との“接点”に触れた一部の人々が、ある一定の時間、パラレルワールドからの影響を受けたのではないかということだ。

「記憶違い(マンデラ効果)」がパラレルワールドの影響であることを証明する10例! あなたの勘違いも並行宇宙情報かも!? - グノシー


 まあ「マンデラ効果」を主張しているのが物理学者ではなく超常現象研究家(つまりただの変人)である時点でお察しなのだが、意識とパラレルワールドの関係性についてはガチの物理学者であるペンローズも言及しているのでまんざらムチャクチャな話でもないように思えるのが面白いところである。


 それともどれほど優れた人物でも年をとると頭がおかしくなってしまうのか。



 量子力学の世界では、宇宙が並行的に複数存在するパラレルワールド、マルチバースといったアイデアはかなり昔から真面目に検討されている。


 だからマンデラ効果を頭から否定しづらいが、根拠が全くないという点がマンデラ効果の弱点だ。


 僕が驚いたのはこの記事の後ろの方に出てくる記憶違いの例で、ディズニーの白雪姫の魔女のセリフ、「鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番美しいのは誰?(Mirror Mirror on the wall who is the fairest of them all?)」とは言ってない、というもの。1937年のディズニーのアニメでは「壁にかけたる魔法の鏡よ( Magic Mirror on the wall)」と呼びかけている


 実際のアニメでは違うセリフになっているようだけど、これってほんとかな。


 実は「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」というセリフには聞き覚えがある。

 ただし、実際にそのセリフを喋っていたのはディズニーアニメの魔女ではなく、母親か幼稚園の先生だったと思う。


 19世紀に書かれたグリム兄弟の現作では、もとから「Mirror Mirror on the wall who is the fairest of them all?」と書かれていて、日本語訳された絵本も「鏡よ鏡」になっている。


 なぜアニメ版でセリフが変わっているのかというと、そもそも絵本の場合、ナレーションが随時入るので、「王妃は壁にかけられた魔法の鏡に向かって話しかけました」という前置きが入るから、「鏡よ鏡」で問題ないが、アニメの場合、ナレーションがないので、いきなり普通の鏡に話しかける変な人、ということになってしまう。


 そこでセリフの中で、この鏡が魔法の鏡であることを原作を知らないちびっこにもわかるように翻案したとは考えられないだろうか。それならばいかにも納得がいく。


 ネルソン・マンデラ氏の訃報に関しても似たことが言える。

 

 ネルソン・マンデラ氏が初期に活躍した時代は、世界中で差別と闘う人々が立ち上がった時代でもあった。

 78歳まで生きたマハトマ・ガンジーは1948年に暗殺、マーティン・ルーサー・キングは1968年に暗殺された。チェ・ゲバラも1967年に暗殺されている。


 そんなさなか、1964年に終身刑を言い渡されたネルソン・マンデラが1980年代に獄中死したと考えていた人が多いというのは実際にはあり得ない話だ。


 実際、僕は中学生の頃にネルソン・マンデラがテレビに生出演しているのを見ているし、ネルソン・マンデラが政治の世界で活躍したのは1990年代である。


 95歳没という、非常に長命な人だったので、2013年まで生きていたのが驚きなのは分かるが、それ以前に活躍した時代そのものが80年代ではないのである。



 脳は自分にとってどうでもいい情報はかなり小さく圧縮する。しかも不可逆の圧縮をかける。従って、民族解放運動をした人々が次々と死に、投獄されていった時代の記憶を混同していると考えるのが自然だ。



 自分にとって大事な情報は基本的に忘れない。もしスティーブ・ジョブズが生きているパラレルワールドがあるとしたら、そっちの世界に行きたいという気持ちを持っている人は少なくないだろう。しかし残念ながら我々は20年後にうっかり「スティーブ・ジョブズの訃報」を聞くことはない。


 宇宙は確かにあやふやな原理にもとづいて確率的にしか存在しないが、だからといって死者はそう簡単に蘇ったりはしない。


 誰もがマンデラ氏を忘れていたからこそ、驚いただけだろう。


 本当に世の中が確率的にしか存在しないなら、この小説のようなことになる。

不確定世界の探偵物語 (創元SF文庫)

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