何故だろうか?原油価格が最近、「地政学リスク」の高まりにあまり反応しなくなっている。
4月6日、米国はシリア政府軍空軍基地を巡航ミサイルで攻撃した。ところが、この日、ニューヨーク原油先物価格は、1バレル当たり51.70ドルと前日比0.55ドル(1.1%)しか上昇しなかった。北朝鮮情勢の緊張もあったため、11日までの4営業日累計で2.25ドル(4.2%)上昇したが、12日以降は、米国のシェールオイル増産やOPEC・非OPEC主要産油国の協調増産の延長不透明感から反落し、19日には50ドルを割った。
確かにシリアは3万BD(=Barrels per Day、1日当たりの原油生産量)の小産油国であり、石油需給に直接的な影響を与えるものではない。しかし、シリアのアサド政権はロシアとイランの軍事的支援を受けているのに対し、反体制派は米国やサウジアラビアなど湾岸産油国の支援を受けている。しかも、両者は「イスラム国(IS)」とも戦っており、三つ巴の対立、「敵の敵は敵」という複雑な対立関係に陥っている。一つ間違えれば、ロシア・イラン対米国・サウジという超大国と大産油国を巻き込んだ大規模な紛争に発展しかねない状況にある。
こうした状況の下、原油先物市場では、米国のシリア攻撃も、一時的な上昇要因とはなったが、圧倒的に、今後の需給見通しが主要な関心事項となっている。
従来であれば、中東での政治的・軍事的緊張が高まれば、原油価格は上昇し高止まりするのがこれまでの「常識」であり、国際石油市場は様変わりした感がある。
原油価格の変動要因
原油価格の形成・変動については、いろいろな見方や分析手法があるが、一般的な説明方法としては、・ファンダメンタルズ(需給要因)、・資金移動(金融要因)、・地政学リスク(地政学要因)の3つの要因に分けて、説明されることが多い。
この説明方法は、石油連盟会長の木村康氏をはじめ、精製元売り会社の原油調達担当者などもよく使っているもので、原油価格の上昇局面でも、下降局面でも応用可能な分かりやすく便利な枠組みである。
原油も、市場商品(コモディティ)である以上、その価格は、基本的に需給のファンダメンタルズを反映して決定される(需給要因)。また、1970年代の2度の石油危機では、アラブ産油国の石油戦略やイランの宗教革命によって、原油価格は上昇し、80年代半ばまでOPECによる価格支配が続いた。つまり、石油資源の埋蔵が中東に集中している一方で、国民生活・産業活動に必要不可欠な基礎的物資であり、経済安全保障の根幹でもあることから、国際政治や経済情勢に左右されやすい戦略商品でもある(地政学要因)。
さらに、1983年に原油がロンドンとニューヨークで先物取引市場に上場されて以来、当業者のリスクヘッジや投資家の運用の場として、原油先物市場は拡大を続けた。特に2000年代以降、過剰流動性を背景に、原油の金融商品化・マネーゲーム化が指摘されるようになった(金融要因)。
このように3つの要因に分けて説明する方法は、石油の多様な製品特性に対応したものと言えよう。