【英総選挙】 「新規」の有権者300万人の謎

寄稿デイビッド・カウリング、キングスコレッジ・ロンドン

Two women walk past a polling station Image copyright Getty Images

英国の欧州連合(EU)離脱を問う国民投票では、従来の選挙よりも300万人近く多くの有権者が投票したことが分かっている。この「新規」の300万人がどういう人たちで、また投票したらどうなるのかは、なかなか分かりにくい。

昨年6月の国民投票で特に目を引いたのは、EUを離脱するという決定そのものは別にして、投票者数がかなり増えたことだった。

おおざっぱに言うと、2015年5月の総選挙と比べて、国民投票に投票した人は290万人も多かった。

イングランドにおける国民投票の投票数は1992年の総選挙以来最大で、ウェールズでは1997年総選挙以来最大だった。

それでも私たちはこの300万人がいったいどういう人だったのか、まったく分からずにいる。

性別、年齢、社会的・経済的背景などはいずれも、完全な謎のままだ。

300万人がどう投票したのかも分っていない。

投票当日には、投票所を訪れた人たちに対して様々な調査が行われた。しかしどのアンケートも、予想もしない「新規」の有権者が大勢やってくる事態に備えた質問を用意していなかった。

ただし、この300万人がどこの地域で投票したのかは分かっている。

Image caption 2016年国民投票と2015年総選挙の投票数の地域別増減。投票数が減ったのは一番下のスコットランドのみ。緑は「離脱」多数の地域。オレンジは「残留」多数の地域。

イングランド各地では、2015年総選挙に比べて7%増の289万人が、追加で投票した。

ウェールズでは、2015年総選挙に対して投票数が6%増え、北アイルランドでは5%近く増えた。

投票者数が減ったのはスコットランドのみだった。

イングランドの9地方の中で投票数が最も増えたのは、特に離脱派が大差で勝った、東部、東ミッドランド、北東部、西ミッドランドだった。

例外は南東部で、投票数の増分は2番目に多い8.1%だったものの、「離脱」派が「残留」派につけた差は3.6%と英国全体で最少だった。

これはつまり、「残留」派の得票が増えて「離脱」派の圧倒的優位でなくなったということなのか、それとも「離脱」派の得票が増えて「残留」派の僅差勝利を阻んだのか、いったいどちらなのかはこの結果からは分かりようもない。

スコットランドと同様に「残留」を選んだ北アイルランドとロンドンでは、投票者数は増えたものの他の地方に比べればそれほどでもなかった。

とはいえ、「残留」支持地域で特に投票が増えたからといって、新しく投票した人たちはEU離脱に賛成だったという証拠にはならない。

同様に、新しく投票した人たちはおそらく特定の政党を支持すると断定できれば面白いのだが、それも無理だ。

本当に謎なのは、2016年に初めて投票した人たちが、2017年の総選挙でも投票するのかどうか。そしてそれで結果に影響が出るのかどうかだ。

Image copyright Reuters
Image caption 投票数の増加が離脱派に有利に働いたのかは不明だ。写真はロンドン・ダウニング街の前で勝利を喜ぶ離脱派

前回の総選挙で投票しなかった人たちが、今回は投票するという保証はない。

300万人は本当に、政治システムにまったく期待せず相次ぐ選挙で連続棄権したものの、国民投票で体制側の連中をとことん叩きのめしてやる誘惑には抵抗しきれなかった人たちなのだろうか。

もしそうなら、この人たちが6月8日に投票所に現れる可能性は、かなり低そうだ。

その一方で、ブレグジットに一番ブレーキをかけてくれそうな党に投票したいという人もいるかもしれない。あるいは、欧州を出た英国というに信念を抱いていると信じられる政党に、入れようとする人もいるかもしれない。

この人たちのことが、もっと分かっていたら良かったのに。

(執筆者について――デイビッド・カウリング氏はキングスコレッジ・ロンドン政策研究所の客員上級研究員。BBC政治研究ユニットの元編集長)

(英語記事 General election 2017: The mystery of the three million 'extra' voters

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