ビジネスにも効く!アニメ監督のマネジメント術

2017年5月10日

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藤津亮太 (ふじつ・りょうた)

アニメ評論家

アニメ評論家。'68年、静岡県生まれ。'00年からフリー。アニメ作品・アニメ業界への取材を行っている。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ』(NTT出版)、『声優語』(一迅社)、『ガルパンの秘密』(廣済堂新書、執筆は一部)などがある。TV番組に出演したり、複数のカルチャーセンターで講座も担当する。

方向性の違いをリカバリーする方法


――とはいえ、スタッフから上がってきたものが方向性とは違うという場合もありますよね。

水島:それはあります。いくつかの対応方法があるんですが、まずひとつめは、「ごめんなさい」とこちらの指示が分かりづらかったことを謝って、そのうえで「こういう方向性じゃなくて、こっちの方向性だった」と改めてディレクションし直すことです。

 大事な部分は、自分がチェックしてリテイクを出す時間的余裕があるように段取りを組みます。限られた時間で作品をつくるわけですから、アニメの監督は、この全体を見通したスケジュール感覚を持つことがクオリティの維持には欠かせません。


――スケジュールはやはり大事なんですね。

水島:監督がいくらこだわりを持っていてもそれだけじゃダメなんです。作品としていい仕上がりにするには、監督から手離れした後の工程にもちゃんと時間を用意しないといけない。

 これはいわゆるカリスマ性があるといわれる監督でも同じです。後工程に時間を確保しなければ、作品のクオリティは当然ながら下がる。そこは、カリスマ性で乗り越えられるわけではないんです。


――ちなみに、リテイクではない対応策もあるのですか?

水島:そうですね。もうひとつは、相手の上げてきた成果物を使って、どういうふうに自分の作りたい画面に到達するかを考えるという方法ですね。こういう時はまず自分が手を動かさないとダメですね。
 

――もうちょっと具体的に教えてください。

水島:たとえば……方向性が違ったわけではないんですが『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』(2015)という作品の時にこんなことがありました。この作品では、背景をグラフィカルで平面的なテイストで描いてもらう挑戦をしたのですが、美術スタッフさんも事前の打ち合わせ通りその方向性で描いてくれました。

 ところが、これにキャラクターをのせてひとつの画面にしようとするとうまくいかない。平面的なスタイルの背景なので画面の奥行きが伝わりづらく、登場人物が“その場所”に立っているように見えないんです。背景のどの部分を微調整したらグラフィカルなスタイルなりに自然な奥行き感が出るか、画面作りをしながら自分でテストを重ねました。

 そして「こう描いてもらえればうまくいく」というポイントを改めて仕様書にまとめ、美術さんにフィードバックしました。『コンクリート・レボルティオ』という作品のスタイルはこうしてつくっていったんです。
 

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