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蔦谷好位置 インタビュー



蔦谷好位置 インタビュー

 YUKI、Superfly、ゆず、エレファントカシマシ、木村カエラ、back numberなど数多くのアーティストへの楽曲提供やプロデュース、アレンジを行う音楽プロデューサー/作曲家の蔦谷好位置。今のヒットチャートを見て感じること、そして最新の活動である映画『ピーチガール』の音楽づくりについて話を聞いた。

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“誰もが知っている曲”がヒットだと思います

―私達はCDの売上枚数だけではなく、ダウンロードやストリーミング、ラジオなど8種類のデータを合算したビルボードジャパンチャートを作っています。音楽の聴き方が、この10年間で大きく変化しましたが、最近どのように音楽を聴かれていますか?

蔦谷好位置:一番多いのはSpotifyですね。次はYouTubeかな。CDを買うこともありますが、昔ほどは買わなくなりましたね。

―新しい音楽は、どうやって探しますか?

蔦谷:昔は、レコードショップで音楽をディグるのが好きで、しょっちゅうお店に通っていました。でも、今はSpotifyなど音楽ストリーミングサービスのおかげで、すごく音楽を探しやすくなりましたよね。僕たちにとっても、聴いてもらうチャンスが増えたので、とても良いサービスだなと思っています。

―便利な一方、音楽が低価格や無料で聴かれることに対して抵抗はありませんか?

蔦谷:ストリーミングに対する否定的な気持ちも分かりますし、乗り越えないといけない課題も多いと思います。でも音楽の歴史を振り返ると、ずっとこういうことの繰り返しですよね。もともと売り物ではなかった音楽が楽譜によって流通し始めて、コンサートホールができて、オーケストラのサイズも大きくなって。レコードが生まれて、ラジオができて…。様々な聴き方が生まれた結果、淘汰されていって今に至っていますし、音楽を聴くメディアの変化に合わせて音楽自体も変化を続けています。

―ストリーミングの浸透によって、何か変化は感じますか?

蔦谷:ほとんど間奏がない曲や短い曲が増え、50年~60年代のポップスに戻っているように感じています。ジュークボックスやラジオが主流だった時代は、リスナーになるべく早く刺激を与えるような作曲方法がメインでした。サビを頭にもってきたり、曲の掴みが早かったり。今のポップスにも、同じ流れを感じます。

―蔦谷さん自身も、ストリーミングの浸透によって何か影響は受けていますか?

蔦谷:意識はしていませんが、少しは影響されているかもしれません。昔から、新しいものは好きで、流行っているものは否定しないようにしていますから。でも、一番重要なことは、どんな時代であってもヒット曲を作り続けることだと思うんです。CDをたくさん売ることではなく。

―CDをたくさん売ることがヒットではないのであれば、何がヒットだと思いますか?

蔦谷:色んな意味がありますが、“誰もが知っている曲”がヒットだと思います。ヒット曲を作り続けることこそが音楽業界が一番盛り上がることだと思いますし、ストリーミングが主流になろうが音楽が無料になろうがヒット曲は必ず生まれると思っています。今年のグラミー賞は象徴的でしたよね。チャンス・ザ・ラッパーは無料でリリースしたのに明らかにヒットしたし、グラミー賞で3冠を達成しました。僕もフォーマットの変化に振り回されることなく、ヒット曲を作り続けて音楽を盛り上げたいと思っています。

―ヒットを測る指標として、音楽チャートは必要だと思いますか?

蔦谷:あった方が良いと思いますよ。僕自身も、好きなトラックメーカーがノルウェー人だったら、Spotifyのノルウェーチャートを聴いたりしますもん。それにビルボードは総合的なチャートで公平なデータだし、参考になるということを、もっとみんな分かった方が良いと思います。でもビルボードさんを前に、こんな言い方は失礼かもしれませんが、あまり日本のチャートの結果は気にしていません。日本の音楽が、良くも悪くもガラパゴス化をしていることに対して違和感を覚えていて。日本国内のヒットを目指すのではなく、世界水準でもヒットするような曲も生まれて欲しいと思っています。例えば、今アメリカではメロディがほとんどないのに、サウンドがすごくかっこいい曲が流行っていますよね。

―エド・シーランの「Shape of you」とか?

蔦谷:まさしく、そうですね。おそらくコライト(共作)しているんだと思いますが、中南米のリズムの刻み方をベースに、今の時代に合わせたサウンドを構築していて、すごく良く作られているなと思います。なので日本人の皆さんにも、もっと面白いサウンドの作り方があるんだということを知ってもらいたいと思っています。

―日本で実現できそうなアーティストを挙げるとしたら、誰ですか?

蔦谷:そうですね…。米津玄師君ですね。彼はアメリカや海外の音楽をすごく研究していますが、彼が作る曲の中には日本人によるメロディというものが、しっかりと存在しています。海外の単なる物まねにならず、アメリカのビルボードチャートでも勝負ができるようなサウンドを使いながら歌詞とメロディで自分の個性を出している。エド・シーランは今回のグラミー賞授賞式で、多くのアーティストが華やかなパフォーマンスをする中、アコースティックギターだけで何万人の前でパフォーマンスをしました。まるで路上でパフォーマンスをしていた時と同じように。1人でも歌えるし、装飾したり作りこんだりした演奏でも勝負できるのがエド・シーランの強みだと思います。そして、米津玄師君にも同じ強さを感じます。日本にも、もっとそういうアーティストが増えてほしいし、自分自身もそうありたいと思っています。新しいことは否定せずに取り入れるけど、自分自身が何者なのかということは絶対に忘れない。これが時代に淘汰されないために、重要なことではないでしょうか。

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人の想像力をより増幅させる存在

−−最近の活動についてお伺いします。5月20日に公開される映画『ピーチガール』の楽曲を担当されています。どういう経緯で、担当されることになったのでしょうか。

蔦谷:まず、2005年に作曲したYUKIさんの「ドラマチック」を劇中で使う話が挙がって。そして、映画音楽全体も「ドラマチック」のようなPOPでキュートな世界観で表現してほしいということになり、オファーをいただきました。

蔦谷:僕は、映画は人並み程度に好きなんですが、映画音楽は人並み以上に好きで。もともとクラシック音楽が好きなこともあって、エンニオ・モリコーネや坂本龍一さんのサウンドトラックのCDを集めるなど、映画音楽に憧れがありました。なのでオファーをいただいた時は、弦楽四重奏とピアノだけを使うなど、今まで憧れていたような映画音楽のイメージで作曲していたんです。そうしたら監督から「蔦谷さんらしい曲を作ってほしい」って言われて。もともと「ドラマチック」を気に入っていただいて、僕にオファーがきたんだってことに、気付かされました。そこからバンドサウンドや打ち込みを取り入れるなど、日頃 作曲しているときと同じ気持ちにシフトしました。スタッフの皆さんが、導いてくださったおかげです。

−−途中で方向転換があったのですね。

蔦谷:監督には、「音楽映画にしたい」って言われて。『ピーチガール』の登場人物はみんな高校生で、この映画を見に来る方も若い人が多いと思います。なので、ポップで華やかな音楽を意識しながら、登場人物たちが悩みながら生きている風景を、音で表せたらなと思って作りました。

−−苦労したシーンは、ありますか?

蔦谷:たくさんありますが、特に苦労したのはクライマックスのシーンですね。何度か提案したんですが、全然ダメで。監督が最も伝えたかったシーンだったので、より音楽によって感動を増幅させるにはどうしたら良いか、何度も何度も作り直しました。

−−そもそも映画にとって、音楽とはどういう存在だと思いますか。

蔦谷:とても難しい質問ですが、人の想像力をより増幅させる存在だと思います。音楽がない時間も含めて。僕が好きな『ノーカントリー』という映画には、音楽がほとんど出てきません。そのおかげで、すごい緊張感が生まれて、より作品に引きこまれていくんですよ。逆に『ニュー・シネマパラダイス』の最後のシーンには、エンニオ・モリコーネの音楽が必須ですよね。そうやって切っても切れないような音楽もあります。音楽と映画の相性って、色んな形があるんだなと思いますね。

−−最後に映画『ピーチガール』をご覧になる方に、おすすめポイントを教えてください。

蔦谷:僕が「ドラマチック」を作曲したのは、約12年前です。なので、その頃の気持ちを思い出しながら作曲しました。そして、原作の漫画『ピーチガール』は1997年に連載がスタートしたので、今回映画をご覧になる方の中には、約20年前に原作を読んだ方もいらっしゃると思います。自分が現役の高校生の時には気が付かなかったかもしれないけど、青春時代はとても輝いていて、甘酸っぱい思い出がたくさん詰まっていたんだよということを、音楽を通じて伝えられたらなと思っています。なので、登場人物がどんな思いで一言ずつを発しているかを、音楽を通じて感じてもらえれば嬉しいです。


蔦谷好位置「「ピーチガール」オリジナル・サウンドトラック」

「ピーチガール」オリジナル・サウンドトラック

2017/05/17 RELEASE
SOST-1022 ¥ 2,500(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.「ピーチガール」メインテーマ (他 約30曲を収録予定)

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