本に転生してテンプレ主人公をぶちのめす旅に出た
こちらに伸ばしてきた手を軽く払う。そのまま手をつかんで地面に落とし、抜け出る隙を与えない速さで拘束魔術を展開した。思った通り、彼は予想もしていなかったという顔でこちらを見上げた。
「なっ、なんなんだよぉ!ここは俺が主人公なんだろ!?なんでお前がぁ!」
「いや、ここ、ゲームの中とかじゃないから。現実だよ。・・・・・・まぁ、勘違いするのもしょうが無いかな。けど、」
魔術を起動しようとしていた彼の手を打ち砕く。
「あああああああああああああ!痛いよぉ!なんで、なんでなんで!」
「現実なんだよ。VRとかでもないし。わからなかった?ここは現実。NPCなんていない。みんな一人の人間なんだって。」
彼の噂を聞きつけたのはほんの2週間ほど前。
とある国の王城で美女や美少女を周りに侍らせている男性がいる。婚約者や夫もいたのにいまではもう彼の虜になってしまっている。さらに、その寝取られた男も文句を言わず、ニコニコと眺めている。これはおかしすぎる。
最後のは寝取られたショックで頭が・・・・・・・・・になったのかもしれないけど、これは対象の可能性がある、と思って潜入をしたのが1週間前。
~一週間前~
「はじめまして。」
彼のハーレムにはいないタイプを演じてみた。無口、無愛想。いわゆるクーデレだ。フード付きの長いマントを羽織ってちらちらと顔を見せてみる。
「君は・・・・・・新しい魔道士かな?こちらこそ、はじめまして。」
最初の食いつきは上々。城には魔道士として入ったため、仕事もしなくてはいけない。けれどその間も彼はちょくちょく顔を見せに来ていた。
「そんなに仕事ばかりしていたら、疲れてしまうだろ?僕と一緒に休まないか?」
いえ、結構です。というかお前のせいで仕事がこんなに溜まってるんだよ!・・・・・・・・・と言いたいのを抑えて、少しだけ顔を赤くしてうなずいた。これで彼は”魅了”がかかり始めていると思ってくれるだろう。
そして、3日前。
「・・・・・・あなたを見ていると、胸が痛くなる。もしかしたら、あなたのことが好きなのかもしれない・・・・・・。」
事前の調査でだいたい3~5日ほどでハーレムの一員になったり、彼への敵意が反転してしまうことを確認していたので、これぐらいが頃合いかと思い、告白をしてみる。
「僕もだよ!」
「でも・・・・・・」
「でも?」
「私、私だけを愛してくれる人がいい。・・・・・・後ろのみんなのことも、愛してるんでしょ?」
告白の場にも当然のように笑顔の美少女・美女ハーレムが控えている。ここでもし、詰まったりしたら改心の余地ありだったのだが。
「もちろんさ!みんな愛してる!」
いいえがおだ。
とまあホイホイとかかってくれましたよ。もしかしたらほかの神が手を加えたりしてないかとか、精神操作されてないかを確認するのに手間取ったけど。結局、”魅了”のスキルだけだと言うことがわかり、考えを変えられないかとかいろいろと試したけど無理だった。
「おとなしくしておけばよかったのにね。」
「おとなしくって・・・・・・こんな力あったら誰でもハーレムつくってうはうはしたいだろぉ!?」
「誰でもじゃなかったよ。」
「え?」
そう。彼の前にもかなりの人数がスキルとして他者を魅了するというものを選んでいた。ここまで強く範囲が広がり、効果も大きいものはなかったけれど、3分の4ぐらいが、その力を”なんかいい人だな”と思わせるぐらいに使っていた。――――それくらいだったら、悪用とはいわないし、調べた結果も、犯罪まがいのことをしている人物もいなかった。
「――と、いうわけ。普通にしてればねぇ・・・・・・。常識で考えてればよかったんだよ。」
「常識、って・・・・・・こんなところでそんなもの!」
「意味が無い?デスゲームじゃあるまいし。生きるか死ぬかの瀬戸際じゃなかったでしょ・・・。」
彼には言わないけれど、たしかに、ハーレム作ってうはうはしたくはある。でも、つい考えてしまうのだ。そのスキルを使って築いたハーレムはなぁ・・・・・・と。自分が彼の立場なら、疑心暗鬼になって人嫌いになってしまいそうだ。
”魅了”は効果を操作できても、完全に切ることはできない。最初こそ浮かれるが、次第に人を信じられなくなる・・・・・・そういう人はいたらしい。実際に私が確認する前に死んでしまったから、あくまでも伝聞だ。
「っ!アリス!助けてくれ!」
どうやらやっと私の後ろにいるハーレムたちに気づいたらしい。お姫様の名前を連呼している。けどそれは最悪の一手だ。
「アリス!俺のことを愛してるだろ?」
残念。もう彼のスキルは効果を発していない。ここにいる彼女は、元の理知的な第一王女だ。
「いいえ。もう愛してはいません。・・・・・・・・・そもそも、最初から愛してなんていませんわ。私にあった恋心はあなたが植え付けたものだったのでしょう?」
「なっ!なんでそれを!」
見ていて面白いくらいに顔が青い。そりゃあ、ばれたら血の気も引くわ。
「お前が!ばらしたのか!」
地面に腰を落としたまま憤怒の形相でこちらを見るが、全く恐ろしくない。
「違う。私がしたのは君の”魅了”を解呪しただけ。彼女が気づいたのは自分で、だよ。」
「う、嘘だ。嘘だ!僕のスキルは解いたりできない!」
「それは違うよ!」
びしっと人差し指を突きつける。
「正確に言うならば、より効果の大きいスキルや魔術でしか、上書きあるいは解呪はできない、だ。君は自分のスキルが一番だと思っていたようだけど、残念。それは違うんだな。」
「そ、んな。嘘、だ。嘘だ嘘だうそだうそだ、嘘だ!!」
「っうわ!」
どこにそんな魔力を隠していたのかというほど膨大な、ただ量が多いというだけの何の技巧もない魔力が彼の身体から放たれた。まずい。私はともかく後ろの王女様たちは耐えられないだろう。とっさに身体を両者の間に割り込ませる。
「――――――っ!!!」
服に掛けていた防御用の魔術が焼きつくされていく。それだけではとどまらず、さらに私の体までも焼こうと手を伸ばしてくる。けれどそれは間違いだ。
「『貪欲なるものよ、食らい尽くせ』。」
体の上を這っていた魔力が自分のものになる。これでまた魔力が増える。やったね!だけど、うう。久しぶりに一気に取り込んだから、きぼちわるい。
「な、何が起こったんですか?」
顔が蒼白になっているであろう私を心配したのか、王女様が近寄ろうとする。それを手で制し、私は彼に向き直った。
「わかった?なにをしようと無駄だって。少なくとも単純に魔力をぶつけただけじゃ私を倒すことは・・・」
けれど、当然ともいうべきか、あれだけ魔力を放出した彼は白目をむいて気絶していた。火事場の馬鹿力だったのかな。これでもう抵抗はしないだろうし。
もともと、彼をここまで追い詰める予定はなかった。適当におびき出してさくっとやったあと、関わった人間の記憶を消して、それでおしまいのはずだった。ところがこれがなかなか難しい。ならもう真正面から襲ってついでにハーレムメンバーの解呪・説得もやっちゃえ!と思って彼の寝室に忍び込んだのだ。彼は自分の寝室には女性を連れ込まない主義だったからね。なおハーレムメンバーは隠蔽の術を掛けて隅っこに待機してもらっていました。
「とりあえず、彼はこっちで処理しますので。構いませんよね?」
「えぇ。スキルはまだ持っているのでしょう?また掛けられたりしたら大変ですもの。あなた様にお任せいたしますわ。・・・・・・処理したあとで構わないのですが、よろしければいろいろとお話を伺えませんか?」
真剣な表情で問いかけてくる王女様。付き合いたいのも山々だけれど、結局彼がしたことも、私がしたことも記憶から消さなければならない。だけど――1人くらい覚えてる人がいてもいいかな。
「はい。よろこんで。3日後でよろしいですか?」
気絶した人間は重い。彼をなんとか肩に担ぎ、暴発の影響で壊れた窓から脱出しようと身を乗り出した。
その瞬間、ハーレムの人ごみの中から人が飛び出してきた。
「彼を、連れて行かないで!」
彼女は確か、彼が一番はじめに虜にした少女―ふらっと立ち寄った村で助けてあげた、これといった特徴の無い女の子。手にナイフを持って。
――――なんだ。よかったね。一人は君に心底惚れてたみたいだよ。
きちんと私に刺さるように位置を少しずらして彼女を受け止めた。
「満足した?」
「ぁ、あっ、ごめん、なさい。」
彼女は泣いているけれど安心して欲しい。
私の体から血が出ることはない。私は魔術のかかっていない武器で刺されても痛くない。
「大丈夫。死なないよ。私は本だから。」
そう。私は――
「魔導書・・・・・・。」
誰かがぽつりと落とした単語は、瞬く間に広がった。
「あなたは“断罪の書”ですの!?」
「・・・・・・うん。」
誰が呼んだのか、私はやり過ぎた転生者を捕まえたり、改心させたりしているうちに“断罪の書”という二つ名で呼ばれるようになっていた。
「百年以上前から存在すると言われている、あの・・・・・・・・・!」
もちろん、善意でやっているわけではない。理由があってしぶしぶやっているのだ。
そう、あれは始まりの日。この世界にやってきた最初の日のこと――。
(私が本――!!?)
出ない声で叫びを上げた。当然だ。自分の部屋で寝たと思ったら、次に目が覚めると真っ暗で手も足も動かせない。その状況からさらに知らない人に体を触られて大混乱していたら、その人に声を掛けられて
「君、いま本だから。」
なんて言われた日には自分がおかしくなったのかと思うだろう。
「いやー本当はさ、きちんと人間として生まれ変わらせるつもりだったんだよ?それがさぁ・・・」
はぁ、とため息をつく不審者。いや、ため息をつきたいのはこっちだ!何も見えないし、感じるのは陽射しと触られているという感覚。この人にしたら本を持っている感覚なんだろうけど、私からするとおなかや背中を触られているのと同じだ。
「あ、申し遅れました。私、神様です。といっても生まれ変わり、輪廻転生を担当しているだけで、万能ってわけじゃないんだけどね」
このままじゃ何も見えないね、と声が聞こえると同時に視界に光が入ってきた。明るい春の陽射し。そして、ドアップの人の顔。
(近い!!離れて!!)
近すぎてよく見えないレベルだった。というより視界よりも喋れるようにしてくれ。
「ごめん、近すぎたね。距離感がつかめなくて。」
(それは物理的にか、心理的にか。)
「どっちもかな。普段は転生を担当していてもこうやって下界に降りてきて話したりしないしね。」
(そっか・・・・・・って、心読んでる????)
いつの間にか違和感なく会話していた。神様に読心は標準装備なのか?
「心というよりは魂だね。君が今一番強く考えていることを読み取っている。」
(へー。)
「聞きたいことはたくさんあるだろうけど、とりあえず私の話を聞いてくれ。」
了解、と無い頭を縦に振った。
「そう、きちんと人の体に君の魂を入れるつもりだったんだ・・・・・・。ところが、その近くで魔術の実験をしていてね・・・。近くというか同じ家なんだけど。普通の魔術なら問題なかったんだが、よりによって魔導書に人格を持たせるなんていう斬新すぎる試みをしていたんだ。本来なら、魔導書には筆者の魔力の影響を受けた人格、つまり筆者のコピーのようなものが現れるはずだったんだ。」
(それがどうしてこうなったの?)
「・・・・・・転生者、つまり君だが―君の魂はすさまじいエネルギーを持っている。これは君だけじゃなく、他の地球からの転生者も同様だ。地球のある世界はこの世界からすると上位世界だからね。とにかく、君の魂のエネルギーの影響によって魔術が乱れてしまった。魔導書に魂を呼び込むものになってしまったんだ。」
(なら、私じゃない魂が入ったんじゃないの?)
「上からだと、人の体も本も同じように見えてしまってね。地球の上位世界・・・この世界からだと二つほど上なんだけど、私はそこから管理していたんだよ」
(壮大な話だけどさ・・・・・・結局あなたのミス?)
「すみません」
この後も話を辛抱強く聞いたところ、地球に隕石が落ちてきて眠っている間に私は死に、有用な魂だということでこちらの世界に転生するはずだったらしい。もう戻れないこと、魔導書のままここで生きていく(?)しかないこと。
(家族も死んだのか。隕石っていうことはあそこらへん一帯かー。)
この状態では涙も出せず、ぼんやりと思考だけが回っていた。
「・・・・・・・・・君に頼むにはひどいと思うんだけど、お願いがあるんだ。」
(なに?)
「転生者を、殺して欲しい。」
なんでも、地球で創作が盛り上がりに盛り上がった結果、はっちゃけすぎて大変なことを引き起こしている転生者たちがいるらしい。転生者を調べて、当てはまるようなら魂を神様の管轄に戻す――つまり、殺してほしいということだ。
「本当は私達がどうにかできればいいんだけど、基本不可侵なんだ。君とこうして話していられるのも、イレギュラーのおかげなんだ。」
そんなの、どうでもいい。もうこうやって本としていつまでかわからない生を生きるなんて、そんなの―
「もしこれを受けてくれるなら、終わるまでの間、人の形を取れるようにあげる。」
(それは、どういうこと?)
「そのままの意味だよ。殺すにも、調査するにも、人の形が取れないと、不便だろ?」
(ぜんぶ終わったら、殺してくれる?)
完全に戻れないことを聞いてしまった。家族が死んでいることも、想像がつく。家族の魂は、この世界にはない。なら、ここにいる意味なんて無い。
(でも、本だもんね。死ぬことすらできないよ。)
「――――ぜんぶ終わったらの話は、そのときにまた考えよう。考えが変わっているかもしれないしね。」
(そうかな。まーいいや。そのお願い聞いてあげる。調べて、殺すんでしょ?)
「ああ。ただ、殺すといっても、普通の方法で殺してはいけない。そうしたら、この世界の神の管轄になってしまうからね。」
そこからはあっという間だった。私が生まれるはずだった家を神様と出て、適当な場所で人の形をとる魔術を教えてもらった。
「おーちょっと変な感じ。身長とか足の長さとかかなり違うねー。」
「君の意思で本と人とを行き来できる。ただ、元は本だから、人の形のときに君を普通の武器で殺すことはできない。魔術そのものや、付与された武器なら傷つけ、殺すことができるだろうけれどね。」
「本のときはやっぱり水に注意?」
「いや、魔導書だから、ただの水に気をつけることはない。魔術によるものや、魔力を含むものには気をつけてくれ。」
その後も注意することを言われたが、そのほとんどが愚痴だった。神様って大変なんだなぁ。
「まぁ、魔術に対して気をつけろとなんどもいったが、君には必要ないだろう。」
「今までの注意はなんだったのさ。」
思わずにらみ付けてしまう。何十分も聞いた時間を返せ。
「いや、注意することに越したことはないだろうから、ね?・・・・・・んんっ、魔術に対しては君のスキルが有効だからな。」
「スキル?ってあの、転生するときに自由に選べるやつ!?」
「君には私が選んでおいた。」
わくわくを返せ。ちょっと期待したじゃねーか。
「単純だ。君の身に触れた魔術を魔力に分解し、自分のものとして取り込む。魔術の強弱関係なく発動する。発動する言葉は、『貪欲なるものよ、食らい尽くせ』だ。」
「それ絶対言わなきゃだめ?」
できれば言わないで済ませたい。
「言った方が吸収率がいい。言うと100%、自動発動だと10%。取り込めば取り込むほど、魔力が増える。ということは、君自身も使える魔術が増えることになる。」
「ぐぬぬ」
それは魅力的だ。チートとかするのはやばそうだけど単純に覚えるのはいいんだよね?
「わかった。努力する。」
「ああ。ついでにいうと、君の体を維持するのにも魔力は必要だ。」
「えっ、それ一番重要じゃないですかやだー」
「逃げられたら困るからね、一番大事なことは最後に言わないと。」
神様は微笑むと、空を見上げた。――――自分の世界を見ているのだろうか。
「・・・・・・もう時間だ。私が手助けできるのはここまでだ。あとは君自身がやっていくしかない。」
「わかってる。やりすぎの転生者たちを殺すんでしょ?」
「いや、殺すのではなく――閉じ込めろ。やり方はわかっているはずだ。――――幸運を。」
あっという間に、神様は消えていった。
「神様に幸運を、なんていわれると御利益ありそうだね。」
そして私は、転生者がいると噂の街へ足を踏み入れた――。
それが、150年近く前の話だ。それからいろいろあって、未だに私は転生者を”断罪”している、というわけだ。
「そんなことがあったんですのね・・・・・・。」
「もうなれちゃったけどね。」
彼を殺して――閉じ込めてから3日。わたしは約束通り、第一王女様と話していた。
「でも、そのようなこと、私に話して宜しかったんですの?上位世界や、神様のことなんて・・・・・・。」
「うん。知ってる人が国の中枢に一人くらいいた方が都合いいし。」
彼女に話したのは信頼しているからなんていう優しい理由じゃない。打算だ。今後似たような事件が起これば、彼女から私に話が通るだろうし、事後処理もうまくやってくれるだろう。
「私も、対処してくれる方に知り合いができてうれしいですわ。」
ほほほと、朗らかに笑っているけれど、裏ではやはり冷酷な王女なのだろう。そう感じさせる笑い方だった。
「最後に聞きたいんですけれど、ぜんぶ終わったら、願いごとは何にしますの?」
「願いかー。」
あの時の私なら、「死ぬこと」だと答えただろう。でもあれから150年。私も変わった。
「陳腐だけど――」
私の願いごとを聞いた王女様は、年相応の笑顔を見せてくれた。
「ふふ、それは素晴らしい、願い事ですわね。応援していますわ。」
「ありがと。じゃあ、いつになるかも、会えるかもわからないけど、またね!」
そして私はふたたび転生者を探す。この身が朽ち果てるまで?それは、わからないけど。
本当は連載にするつもりだったので回収してない伏線があるよ。
けどまぁとりあえず書き上げてやったよ!見てるか2ちゃんのやつら!
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