家電ベンチャーUPQのスマホ「UPQ Phone A01X」が、発火事故を起こし、その対応に批判が集まっています。ことの発端は、昨年9月29日のこと。ここでユーザーからUPQ側に、過熱、損傷した事故の連絡が入ります。その後、UPQは消費者庁、経済産業省の指導を受けながら、発火原因の解析を実施。充電時のバッテリーが原因だと特定し、5月9日の発表に至ります。
発火事故を4件起こしたUPQの「UPQ Phone A01X」
ただし、バッテリーの発火は、この1件だけで収まりませんでした。UPQによると、5月9日現在で、上記を含めた計4件の連絡がきているとのこと。原因は現在解析中ですが、「バッテリーが原因である可能性が高い」(UPQ広報)といいます。
UPQは対応策を準備しており、5月下旬に案内を行う予定。同時に、5月9日にはユーザー向けの電話窓口を開設し、問い合わせを受け付けています。電話番号は、0120-291-700。受付時間は午前10時から午後6時までの間になります。
5月9日に「重要なお知らせ」を発表した
Galaxy Note 7と比べても発生率はケタ違い?
この発表を受け、筆者にもいくつかの疑問がわきました。そもそも論として、リチウムイオンやリチウムポリマーを使った電池は燃えやすいものです。そのため、UPQに限らず、大手メーカーも過去には発火事故を起こしています。記憶に残る大規模かつ最近のものでは、サムスン電子の「Galaxy Note 7」でしょう。同端末は、最終的に全回収、その後発売中止という事態になりました。一時は航空機内への持ち込み禁止のアナウンスも流れていたほどです。
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バッテリーの問題で全品リコールになった「Galaxy Note 7」
ただ、そのNote 7も、回収時点で250万台販売されたのに対し、事故件数は35件で、確率にすると0.0014%にとどまっていました。もちろん、これでも業界全体の水準から比べると高いもので、だからこそサムスン電子はNote 7の回収に追われ、結果として安全対策を大幅に強化することを発表しています。
これと同じ基準でA01Xを見ると、発生率が高すぎるという懸念が生じます。UPQに問い合わせたところ、「出荷台数は公表しておりません」との回答でしたが、ユーザーがどの程度リスクを抱えているのかを判断するためには、これは知っておきたい数値です。出荷台数の全体が分からなければ、それがたまたま起こった事故なのか、高い確率で起こる事故なのかが分からないからです。
もっとも、SIMフリースマホは、全体として出荷台数がそこまで多くはありません。10万台を突破しているのは、一部の売れ筋端末のみ。アベレージで見れば、数万台といったところかもしれません。大手メーカーと比べると販路の狭いUPQのA01Xは、それより少ないはずで、多くても1ケタ万代といったところだと思います。仮に1万台だとして、事故件数の4件で確率を求めてみると、0.04%にもなります。
先ほど挙げたNote 7より、ケタが1つ多く、A01Xが同じだけ出荷していたとすると、1000件もの事故が起こっていた計算が成り立ちます。0.0014%でも高確率なのですから、これは回収必至と言えるでしょう。
さすがにこれは販売を継続するのは困難で、UPQ広報も「リリースの配信前に、お取引先各社のご担当者様に販売停止をお願いしております」と、販売を停止したことを明かしました。確かにDMM通販や一部MVNO、ヨドバシカメラなどでは販売終了となっていましたが、一部ネットショップでは、今もA01Xを購入することができています。
販売停止についてのアナウンスも、もっと徹底すべきだったのではないでしょうか。発表からすでに1週間以上経過していることもあり、UPQ側から販売店に対し、より強く要請すべきなのかもしれません。
現時点で、購入できてしまうネットショップも
最初の事故報告があった昨年9月29日から発表に至るまで、時間がかかりすぎていたのも気になるところです。UPQは「原因が使用環境要因ではなく設計要因であり、傾向性不良であることが確認できる必要があるためです」としながら、「焼損が起こってしまった場合、本体の損傷が激しく傾向性を問題個体から検出することは難しいこともあって、発表までには時間がかかりますことご理解ください」と理解を求めています。
ただ、これも総論としては正しいのかもしれませんが、5月9日までに計4件の報告があったわけで、ここまで頻発しているのであれば、どこかの段階で、原因の解明を待たず、注意喚起を出してもよかったのではないかと思います。
超大手メーカーのサムスンと対応を比べるのは酷かもしれませんが、Note 7のときも、まずはいったん回収を行い、詳細な原因解明はその後行っています。ユーザーの安全を考えれば、少なくとも、もっと早い段階で公表してもよかったはずです。
どのODMを選ぶのか目利きが必要に
UPQは中国のODMを使い、素早く商品展開するのを売りにしていました。一方で、スピードを重視しすぎるあまり、安全対策が犠牲になっていたのではないか——これが、筆者に浮かんだもう1つの疑問です。UPQ側にA01Xの検品をどこまで行っていたのかたずねたところ、「回路構造については、ODM品のカスタム案件において、通常開示されることはございません。バッテリーの抜き取り検査につきましては、製造段階で弊社でもサンプル機を使って複数台テストを実施しておりますが、その時点では発見ができませんでした」との回答がありました。バッテリーそのものはサンプルで検品を行っていたようです。
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バッテリーはサンプルチェックを行っていたという
念のため、ODMを活用してスマホを開発するトリニティの代表取締役社長、星川哲視氏にも確認してみましたが、一般的に、回路やパーツまでチェックできないのは普通とのこと。ここに重大なミスがあったわけではなさそうです。ただし、「どのODMを選ぶのかの、目利きは必要なる」(同)ため、責任がないわけではありません。
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厳しい言い方をすると、バッテリー発火にとどまらず、ミスが頻発しているUPQ側には、それを見分ける目があったのかという疑問符がつきます。一方で、安全性を重視するのであれば、よりODMのベースモデルに手を入れるということもあるそうです。
星川氏は、「一般的には、その工場以外でも(同じものを)作れることになってしまうので嫌がられますが」と前置きしつつ、「長くやっているところは開示してもらいつつ、パーツリストももらい、契約している日本の技術者にICから吟味してもらったり、パーツの変更をしてもらったりしています」と語ります。トリニティがこうした体制にしているのも、「当社でも過去に失敗してしまい、ご迷惑をおかけしたことがあったから」だといいます。
"大手ではない"デメリットも含め掘り下げるべきだった
このような、「どこまで安全対策に力を注いでいるか」といった情報は、A01X発表時にもっと語られてしかるべきだと思いました。同じスマホではありますが、大手メーカーとは何が違うのかというところは、デメリットも含め、もっと掘り下げられるべきだったのかもしれません。発表会ではメリットばかりが語られがちですが、ここにツッコミを入れるのはメディアの役割でもあります。発表会に参加していた自分も、もっと質問すればよかったと反省しています。
この点も含め、やはり全体として、UPQはユーザーとのコミュニケーションが不足している印象を受けました。これはEngadget日本版でライターの中山氏も述べていたことですが、バッテリー問題についても、結論は同じです。こうした点を踏まえつつ、5月下旬に行われる詳細発表では、しっかりユーザーに向き合ってほしいと感じています。
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