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【社説】

日本の平和主義 「改憲ありき」が透ける

 戦争放棄と戦力不保持を定めた憲法九条改正は、自民党結党以来の「悲願」ではある。しかし、安倍晋三首相の九条改正論は、内容にかかわらず、憲法の改正自体を目的とする姿勢が透けて見える。

 まずは、自民党の政権復帰直後のことを振り返りたい。安倍首相は二〇一三年一月、本紙のインタビューに「憲法改正は衆参両院ともに三分の二の賛成があって初めて発議できる。極めて高いハードルだ。現実的アプローチとして、私は九六条の改正条項を改正したい」と答えている。

 憲法改正がしやすいよう、発議要件を「二分の一」以上に緩和した上で、具体的な改正に取り組む段階論である。しかし、「姑息(こそく)な手段」などと猛反発に遭い、首相もその後、言及しなくなった。

 首相が次に持ち出したのは、大地震など自然災害や、武力攻撃を受けた場合に政治空白を避けるための「緊急事態条項」追加だ。

 衆参両院の憲法審査会では、その是非についても各党が見解を表明したり、参考人から意見を聞くなど、議論を続けている。

 しかし、自民党の改憲草案が緊急事態の際、内閣が法律と同じ効力の政令を制定できることや、一時的な私権制限を認める内容を盛り込んでいることもあり、議論が前進していないのが現状だ。

 そこで、首相がこの五月に持ち出したのが九条一、二項を残しつつ、三項を設けて自衛隊の存在を明記する新たな改憲論である。

 国防軍の創設を盛り込んだ党の改憲草案よりも穏健に見えるが、歴代内閣は自衛隊を合憲と位置付け、国民の多くも自衛隊の存在を認めている。わざわざ憲法に書き込む必然性は乏しい。

 一連の経緯を振り返ると、首相の改憲論からは、改正を必要とする切迫性が感じられない。あるのは、首相在任中に憲法改正を成し遂げたいという「改憲ありき」の姿勢だ。東京五輪の二〇年を改正憲法施行の年と期限を区切ったのも、自らの在任期間を念頭に置いたものだろう。

 そもそも憲法の改正は、多くの国民から求める声が湧き上がったときに初めて実現すべきものだ。

 憲法に縛られる立場にある行政府の長が、この部分を変えてほしいと指定するのは、立憲主義はもちろん、憲法の尊重・擁護義務に反し、幅広い合意を目指す憲法審査会の努力をも踏みにじるものである。党総裁との使い分けも、正当な主張とはおよそ言えない。

 

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