【ワシントン=永沢毅】トランプ米大統領が過激派組織「イスラム国」(IS)に関する機密情報をロシアに漏らした疑いが15日、浮上した。米国と同盟国の情報機関の連携に支障をきたしかねない。外交・安全保障の機密情報は「インテリジェンス」と呼ばれ、政策立案の基礎になるだけに中東のIS掃討など国際秩序の安定を揺るがす可能性も出てきた。
米紙ワシントン・ポスト(電子版)などによると、トランプ氏が機密情報を漏らしたのはホワイトハウスで10日に会談したロシアのラブロフ外相とキスリャク駐米大使。「私は素晴らしい情報について毎日説明を受けている」。トランプ氏は自慢げに、同盟国から受け取ったISの機密情報を明かしたという。
トランプ氏は16日、ツイッターの投稿で大統領の正当な権限だとしたうえで「テロや航空安全に関する事実をロシアと共有したかった」と釈明、情報を伝えたことを実質的に認めた。マクマスター米大統領補佐官(国家安全保障担当)は同日「大統領の会話は適切だった」と記者団に語った。 インテリジェンスの世界では、同盟国から受け取った情報を別の第三国に提供する場合、提供した国の了解を事前に得る暗黙のルールがある。米国は今回、その了解を得なかった。米政府高官は「米国からロシアに情報が了解なく漏れたことを同盟国が知れば、その国との関係は打撃を受ける」との危機感を示した。
トランプ氏が漏らしたISに関する機密情報はどの国から提供されたものかは明らかではない。航空機に持ち込んだパソコンを使ったISのテロ計画の詳細、米情報機関の協力者がテロの脅威を探知したIS支配地域の都市の名前など、機微に触れる情報を伝えたとの見方がある。
ISの情報収集に関与している協力者の活動地域などがロシアを経由してISに把握されれば、その人物が危険にさらされかねない。米国は有志国連合でISを掃討しているが、このIS包囲網にほころびが出る可能性もある。ロシアは有志国連合に参加していない。
米国はシリアやイラクなどでISの動向を上空から常時監視。IS戦闘員の動きを見極め、リーダーらを特定しようとしている。その作業は現地の協力者が不可欠で、秘密保持は重要だ。
ISにとどまらない。米国は英国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドの英語圏5カ国で「エシュロン」と呼ばれる共同の通信傍受システムを構築。電話やメール、ファクス、無線、衛星通信などを傍受し、機密情報を共有している。日本も中国やロシアの潜水艦のスクリュー音などを米海軍と共有・分析し、情報を蓄積している。
米国が同盟国の機密情報を第三国に無断で伝えれば、米国や同盟国がどの程度の情報収集能力を持っているのか、相手に推測させることにつながる。ロシアはクリミア半島の併合後、米国と同盟を結ぶ大半の欧州諸国にとって脅威になっている。与党・共和党重鎮のマケイン上院議員は「強く懸念している」と語り、元米政府高官は「機密情報や安全保障を扱うことにどんな重みがあるか。あまりに無自覚だ」とトランプ氏を批判した。