3 Lines Summary
- ・そもそも、すべてのものは依存を誘発するようにつくられている
- ・依存症になりやすい人は真面目で几帳面な人
- ・モノではなく人にうまく頼るのが依存症にならないコツ
第1回では、依存症になるメカニズムを聞いた。では、依存症にならないためにはどうすればいいのだろうか。また、依存症になりやすい人の特徴なども合わせて、前回に続き、精神科医の和田秀樹さんにお話を聞く。
クリエイティブと依存の問題
「例えば、ゲームなんかも依存性が強いわけだけど、むしろゲームを作っているプログラマーの人たちは、ハマるようなものを作ろうと日夜努力しているわけです。ハマるっていうのは、実は依存症状態なわけです。天才的なゲーム作家やプログラマーがハマらせるようなものをがんばって作っているわけだから、我々ド素人はハマってしまうわけです。
ハマるようなゲームを作るということ自身は、クリエイティブでとてもいい作業なのかもしれないけれど、しかし一方では依存症をものすごく誘発する。ポケモンGOが一番いい例で、ハマる人が大量に出たから事故がいっぱい起こったんですよ。そうすると多くの国で禁止されることになるわけです」
このジレンマはゲームだけにとどまらない。およそクリエイティブなものはすべて当てはまるのではないだろうか。では、どうやって解決すればいいのか。
「これはすごく難しくて、結局何らかの形で規制をかけないといけないんだけども、逆にある種ゲームというのは成長産業な部分もあるから簡単に禁止するわけにもいかない。ただ依存症になりやすいという警告は絶対にしないといけないですよね。だから、よくタバコだと健康のためとか、健康を害しますってパッケージに書かれている。本来はゲームも依存に注意みたいな表記をすべきだと思う」
では、依存症になりやすい人の典型などはあるのだろうか。それがわかれば依存症を防ぐ手立てやヒントも見えてくるかもしれない。
依存症になりやすいのは、真面目で几帳面なタイプの人
「依存症は、いい加減な奴がなりやすいと思われていますが、真面目な人の方がなりやすいんです。だからアルコール依存なんかは思い詰めるタイプの人がなりやすかったりして、いわゆる物を一直線に考えて、いろんな方法を考えられない人、のめり込む人というのは依存症になりやすいです。だから、真面目で他の可能性を考えられない人、思い込んだらかくあるべしみたいに思っている人の方がかえってなりやすい。
例えば寝られないから酒飲んでどんどん増えて行く人でも、結局寝なきゃいけないと思うからいけないわけでさ、寝れなきゃ寝れなくてもいいやって思えたら、そこまで睡眠薬依存やお酒の依存とかならないと思うんです。そういうわけで、逆に、依存症は、意外に真面目な人がなる病気だというのは知ってほしいんです」
真面目な人ほど依存症になりやすい。それはなぜなのか。その前にもう一点、依存症になりやすいタイプについて、語っていただいた。
「それともう1つ、依存症になりやすい人は、わりと自分で物事を解決しようとする人です。つまり依存症は他の人に依存できないから、ものに依存したり、酒に依存したりする。だから、アルコール依存であれギャンブル依存であれ、グループセラピーが盛んなんです。自助グループという感じ。
自助グループに入って他の人に頼れるとか、他の人に悩みが打ち明けられるようになれば気が楽になって、モノに対する依存も減る。例えばギャンブル依存の人だったら、損を自分で取り返さないといけないからハマる。お酒に頼る人とかでも、自分で解決しようとする。だから、やっぱりアルコール依存1つとってみても、みんなで飲んでいたらなりにくい。でも一人酒する奴はやっぱなりやすい」
なるほど。依存症になりやすいタイプの人というのは、孤独な人。人にうまく頼れない人なのだ。だからモノに依存してしまう。
「ゲーム依存は、引きこもり的な人がなりやすい。やっぱり仲間と楽しむということがいいよという体験をする方がいい。だから、まだゲームだったらスマホゲームとかパソコンゲームよりは、ボードゲームのほうがいい。ボードゲームで依存症になるという話は滅多に聞かないから。仲間がいないとできないから」
人間は、そもそもある程度人に依存したり、依存しあったりしないと生きていけないものだ。
「そう。人に依存できる状態にしてあげるというのが治療だから。超依存症になっちゃって、ベタベタしてないと、例えば彼氏を1秒も離そうとしないとか、そうなってしまうとまずいけど、普通に考えたら人に依存できる人は依存症にならない。結局ギャンブル依存の人とかでも、主婦とかでパチンコ依存になるような人って、夫に相手にされなくてとか、そういう人が多いんです」
では、結局、依存症にならないためにはどうすればよいのか。
「1つ目は、人間関係。結局、孤独なときとかギャンブルをやりたくなったとき、お酒を飲みたくなったとき、イライラしたときって、人に依存できればいいわけです。そういうときに電話をかけられる奴がいるとか。人に依存できるようになるということが1つ目。
2つ目は、意志の力というわけではないけど、とにかく酒であれゲームであれパンチンコであれ、すべて依存性になりやすいものだという自覚を持って、依存症にならない程度のルールを作ること。例えばパチンコがどんなに好きでも週1回以上は絶対行かないとか、1万円負けたらもうそれ以上やらないとか、そのルールを破ったらもう依存性だって自分に言い聞かせるってことだと思う。お酒にしても。タバコにしてもなんでも。例えばスマホゲームは1日1時間までとか、2日にいっぺんしかやらないとか。
基本的なことは、止めてくれる人がいないとそうなりやすいわけだから、そこも人の依存による。医師の力で治すのは難しいんだけど、せめてできることは、とりあえず自分に厳しいルールを課すことだと思う」
文=神田桂一
人物写真=小田垣吉則
和田秀樹
1960年大阪府生まれ。精神科医。京都大学医学部卒、東京大学医学部付属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在国際医療福祉大学大学院教授(臨床心理学)など。著書に『感情暴走社会』『経営者の大罪』(以上祥伝社新書)など多数。