コム デ ギャルソン緊急座談会&私物公開!〜編集長×妹島和世×栗山愛以〜
栗山 編集長も妹島さんも、コム デ ギャルソンの服を昔から愛用されていますよね。妹島さんは、毎シーズン買われているんですか?
妹島 そうですね。シーズン中に何回かお店に行きますが、何かしら欲しいものが見つかっちゃうんですよね。
栗山 いいお客さんですね!(笑)
妹島 多分大学生の終わり頃から、40年近い付き合いだと思います。ワードローブの半分以上がコム デ ギャルソンだと思います。
渡辺 それだけ継続するというのはすごいですよね。
妹島 とは言っても私が着ているものはベーシックなものが多いように思います。特にワンピースが好きです。今は時間がだんだんなくなってきて、つい大人買いしてしまう時があり反省しています。
栗山 いいなあ……
妹島 昔は1年に1着買えるかどうかでしたから、ていねいにていねいに、本当に好きなものを買っていたと思います。なので、今でも着てるものもあります。1987年に独立するまで伊東豊雄さんの事務所に勤めていたのですが、当時のものでも着ているものがあります。シンプルな黒のワンピースなんですけど、打ち合わせやパーティー、デイリーにも着られます。今日着ているモノトーンのワンピースも結構昔のものですが、今でもよくコンペのプレゼンテーションの時などに着ます。
渡辺 なぜそれはプレゼンに適しているんですか?
妹島 セーターやTシャツを中に合わせたり、もちろん1枚でも着れるのでオールシーズン使えますし、建築界は男性が多くてほとんどがスーツなので、あんまり派手でなものも。その時にエレガントだけどさらっと着れて。
渡辺 妹島さんは今でもちゃんと昔のコム デ ギャルソンの服をスタンバイしているんですね。
妹島 事務所のスタッフなどにあげたり、本当に着倒して傷んだものは泣く泣く捨てることもありますが、それ以外は結構取ってあります。2001-02年秋冬のブラジャーのように、しばらくは着ないかもしれないけどいつかはまた着たいと思って取っておこう、といったものもあります。着る方もどんどん歳を取るから、数年後も似合うかどうかわからないですが、服としてかっこよかったり、かわいいものは、なかなか手放しがたいですね。
渡辺 ブランドによっては、5〜6年前の服が自分の年齢と合わなくなってくるということもありますが、コムデ ギャルソンは基本的に年齢はあまり関係ないですよね。タイムレスなので、いつでもまだ着られるし、他のブランドとも合わせやすい感じがします。
栗山 このブランドにはこういう文脈があってこういうイメージだからこれには合わないかな、とつい考えたりしてしまいますが。編集長はそういったことはないですか?
渡辺 若い頃はもっと“この組み合わせは時代の気分に合っているかな”、などと考えたりもしましたが、年齢を重ねるにつれてより自由になってしまった(笑)。今は自分の好きなもの同士を組み合わせていれば大丈夫、という気分になってきています。コムデ ギャルソンの服は、基本的にはフラットシューズで着ることが計算されていると思うのですが、私自身はヒールを履く機会が多いこともあり、そういうこともあまり気にしなくなっています。
栗山 私もヒールと合わせてしまいます。ミックススタイリングをする方が今の気分に合っているような気がします。
妹島 建築関係の集まりではけっこう見かけますよ。時々かっこよく着こなしている欧米人もいます。
栗山 渡辺さんもここぞという時にコム デ ギャルソンを着られていますよね。
渡辺 とくに海外の人たちが多い場は「JAPAN」としての主張を出さなければならない、というのもあるのですが、自分自身も何だか落ち着くんです。
妹島 コム デ ギャルソンのフォルムは日本人に合いますよね。たとえタイトなシルエットでも、ただ身体のラインを強調するのではなく、ちょっとずれていたりする。欧米の服とは違ったエレガントさがあります。
渡辺 私は小柄なのですが、欧米人のスタイルに沿ったシルエットの服を着ても何かそぐわないな、という時はやっぱり自ずとコム デ ギャルソンを選んでいますね。お店に行くと、コレクションのラインだけでなくライダースジャケットやTシャツ、なんでもないニット、ソックスなど、定番のアイテムを始めいろいろな種類のものがあって楽しい。最近はメンズのものも買うことがあります。先日コム デ ギャルソン・コム デ ギャルソンのてろっとした素材のチャイナ風ブラウスを買って着ていたら、スタイリストの人にすぐにコム デ ギャルソンだと気づかれました。コム デ ギャルソンにはアイコニックなアイテムがありますよね。川久保さんが好きなものは変わらない気がします。
栗山 基本のモチーフがありますよね。丸襟とか、プリーツスカートとか。
妹島 何度も折りたたむことでフリルみたいに見えるとか、女っぽくなり過ぎるような時にはスーツの素材で作ったりとか、そういうバランスもありますよね。
渡辺 私は妹島さんと同じでやっぱりワンピースが好きですね。昭和の時代にお母さんが着ていたような匂いもあってなつかしくて無条件に惹かれてしまいます。西洋人が作るワンピースドレスの考え方とちょっと違っていて、日本人にしっくり合う気がします。
栗山 すとーんとして。
渡辺 他にはないフォルムももちろん魅力です。円だけで作るといったすごくコンセプチュアルなデザインでも着ると後ろがスワローテイルになったりして、服として美しいんです。妹島さんはプレイも買うことありますか?
妹島 ありますよ。着るものとパッケージのままとっておくのと、同じアイテムを2つ買ったりします。(笑)
栗山 私は川久保さんの強い部分がデザインに表れている服が好きかもしれません。
妹島 時々外国なんかでこんな着方があったんだあというのに出合う事があります。同じお店に行っていても私は栗山さんが選ぶようなアイテムを1つも持っていないかもしれません。
渡辺 人によって切り取る部分が違うんでしょうね。ものづくりの幅が広いですよね。
妹島 川久保さんとしては、かっこいい服を作って、ここから先はあなたたちが好きにやってみなさい、という感じなんでしょうか。
妹島 はい。私は花柄とかフリルが好きなんですよね(笑)!
渡辺 自分の確固たる核みたいなものがあって、そこから少しずつビジネスとしていろんな“サービス”も展開しているんですね。自分の軸からずれなければ、“サービス”しても揺るがない。自信があるんだな、と思いました。ここはちょっと盛っておこう、という意識がプロのデザイナーとしてあるのではないでしょうか。ストイックなイメージがあるのでそうした柔軟性はあまり知られていないのかもしれませんが。妹島さんは川久保さんとお会いしたらどんなお話をされるんですか?
妹島 直接お話しする機会はほとんどありませんが、数ヶ月前にお店で偶然お会いしたんです。その時、「かっこよくやってよね」とかそういうようなことを一言おっしゃったんです。「はいっ」と返事しました。
栗山 命令されてますね…(笑)
妹島 命令ではなく、励ましでしたよ(笑)。2010年にプリツカー賞を受賞した時川久保さんからすごくきれいな白い花をいただきました。スタッフ皆ではーっと感嘆しました(笑)。
栗山 ついにニューヨーク・メトロポリタン美術館でコム デギャルソンの展覧会が始まりましたが、こうしたアメリカの社交界の中枢のようなところにコムデ ギャルソンのようなインディペンデントなブランドが乗り込むのは、すごいですよね。
妹島 本当にすばらしいです。自分のことのように誇らしい気分です。
渡辺 メットガラのドキュメンタリー映画「メットガラ ドレスをまとった美術館」の公開の際にヴォーグ ジャパンがMETの主任キュレーターのアンドリュー・ボルトンにインタビューしたんです(VOGUE JAPAN 5月号に掲載)。コムデ ギャルソン展についても聞いたのですが、「僕からの提案はひとつとして受け入れられなかった」と言っていました。コムデ ギャルソンがどこまでどういう意見を出したのかはわからないですけど、彼は「最も難しかったのは彼女を知ること」だったと。川久保さんを理解するなんて無謀なことはやめた方がいいのでは、なんて思ってしまいましたけど(笑)。
渡辺 注目は集まりますよね。コム デギャルソンのショーにアメリカン・ヴォーグ編集長でメットの理事も務めるアナ・ウィンターが何年ぶりかに姿を見せていましたし。
栗山 私が在職中は一度も彼女をショーで見かけたことがありませんでした。MET効果で、ブランドビジネス的にも良くなりそうですね。私は2001年に入社したのですが、そのころのモード界は女っぽい感じが主流で、けっして風当たりは良くなかったんです。
渡辺 トム・フォードに代表される、グラマラスな女性像がうけていましたからね。時代がそういう気分でセクシーな身体の線が出ない服を着るのにためらう部分があったかもしれません。
妹島 そういえばある時期ゆるめのシルエットが着にくい時があったかもしれませんね。
栗山 2002年にディエチコルソ コモ・コムデ ギャルソンができて、そこから他のブランドとコラボレーションしたりすることも多くなり、また注目度が増していった気がします。
渡辺 ディエチ コルソコモ・コム デギャルソンはコム デギャルソンが他のブランドをどうセレクトするかを見るのも楽しかったです。基本的にはコムデ ギャルソンの服と合わせても着られるというセレクト方法でしたから、さすがに統一された世界観がありましたよね。それを見ることで全身コムデ ギャルソンじゃなくても他のブランドとこういう合わせ方ができるのか、ということがわかって視点が広がっていくし、若い人も注目しましたよね。
栗山 そのころから販売スタッフもスニーカーを履いたり、他ブランドをミックスしたりして着こなしがゆるやかになりました。
妹島 いろいろな可能性が提案されるんですね。
渡辺 3、4年くらい前からはショーの見せ方ががらっと変わりました。20体弱しかルックを出さなくなった。実際に着られるかどうかとか、誰が何を思うかとかは関係なく、やりたいことのエッセンスだけ絞り込んで発表するんです。でもお店ではそのエッセンスを幅広く展開した服を出していく。こういうスタイルにしてからビジネスもうまくいっているのではないでしょうか。ショーですごいな、と思ってじゃあお店ではどんな服があるんだろうと見に行くと、こんな風に着ることができるんだ、という発見があって二度楽しめるようになりました。その切り替え方はすばらしいなと思います。
栗山 最近はエッセンスが凝縮されたからか、私にとっては以前の方が毎シーズン変化があるように感じられたかもしれませんね。そのつど驚いていました。
渡辺 とくに2001-02年秋冬のショーは印象的です。あの川久保玲がこんなランジェリールックを出すのか、という驚きで会場がざわめいておもしろかった。フランス語のセクシーな歌が流れたりして、私が見た中では一番盛り上がったショーかもしれません。笑ったり拍手したりする人もいて。最近はストイックですからね。
栗山 ここのところショーは厳粛な雰囲気です。
妹島 体数を絞って発表するというスタイルの採用は、ディエチ コルソ コモ・コム デ ギャルソンをオープンしたことに匹敵するような出来事のように思います。川久保さんがコム デ ギャルソンの中でたとえばジュンヤ ワタナベのように別のデザイナーの名前を打ち出していったことも連続していると思います。世の中の流れと自分のクリエーションのバランスをいつも上手にとっていらっしゃる気がします。建築界においてもコンセプチュアルなものを世の中に訴えていくにあたって学ぶべきところがあります。
渡辺 川久保さんは本当に時代の空気や流れを読んで行動していますよね。
栗山 既成概念を破壊する、と言って世の中には背を向けているようなそぶりですが、すごく見ています。
渡辺 “既成”を知らなければ“破壊”もありませんからね。VOGUE は2009年に半年ほどコム デ ギャルソンと期間限定ショップを立ち上げたことがあるのですが、川久保さんがうちの若い編集者と会うこともありました。そうするとぱっと彼女を見て「そういう靴が流行っているの」みたいなことをおっしゃるんです。自分のブランド以外のことも瞬時に全部見てるんですよ。でも仕事としてシリアスな感じではなく、そういう言葉がちょっと軽く出てくる。おもしろいな、と思いました。妹島さんは、展覧会に早速行かれたんですよね? どうでしたか?
妹島 そうなんです。初期から最近のものまでが一緒に展示されているはずなのですが、それらが時間を超越していて、全体としての一つの濃密な力強さ、美しさを感じました。本当に日本でもやってもらいたいですね。
渡辺 私もNY出張の際にメットに行ってみる予定です。
栗山 私は在職時にいろいろ見たので行く必要はないかな、と思い込んでいましたが、心変わりしそうです!
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