熟練者の高齢化により、宇治茶の生産地で一番茶を手で摘む「お茶摘みさん」が不足し、労働力の確保が難しくなっている。京都府宇治市内でも、市街地から離れた白川地区では深刻だという。同地区で茶摘み体験を通して、現状と課題を探った。
■男性が2割、弁当やおやつに驚き
8日午前6時過ぎ、茶摘みの初日を迎えた茶農家小島確二さん(62)の茶園を訪れた。茶摘みさんのまとめ役慶山英淑さん(64)=同市宇治=から「枝をくるくる回すように下から順に新芽を摘んで」と助言を受け、早速始めた。
寒冷紗(かんれいしゃ)の下、茶畑には「うじひかり」の茶木が生い茂っていた。玉露は小さい段階で茶葉を摘むため、新芽を見逃さないよう手触りを確認しながら摘み取った。
茶摘みさんは女性ばかりだと思っていたら、男性の姿も少なくなかった。小島さんの茶園では、今シーズン約2割は男性だという。定年退職後に茶摘みを始めた青瀬暑夫さん(75)=城陽市平川=は「健康維持と気分転換になる」と語る。
午前8時になると、小島さんの妻由美子さん(58)お手製のおにぎりのもてなしがあった。正午には弁当、午後3時にはおやつが配られ、驚いた。
1カ月前に宇治市内に転居し初参加した主婦堂元幸子さん(44)=同市大久保町=は「宇治茶のまちで茶摘みをやりたかったので、うれしい。昼食も出る好条件で働きがいがある」と話す。
1日4回、休憩ごとに摘んだ茶葉の計量があった。茶摘みは午後6時に終了。私は1・3キロ摘んだ。
慣れない作業で体はくたくたになったが、昔ながらの茶摘み文化を感じられる貴重な一日だった。
■時間や日数も相談可、駅から送迎も
白川地区は交通の便も影響し、ここ数年は特に茶摘みさんの確保に悩んでおり、小島確二さん一家も対策に乗り出している。
茶摘みは6月上旬まで続くが、旬を逃さず摘み取るためには、人数の確保が不可欠だ。今年、仕事の合間に働けるようにと「週2・3日でも大丈夫」「土日だけでもOK」とPRするチラシを作り、住宅街でポストに投かんした。この日もチラシを見て初参加した人もいた。
車などで来ることができない人のため、JR宇治駅などと茶園を往復する送迎車を4台走らせて「通勤」もしやすくしている。
この日は茶摘みさん計51人が約7アールの茶園で作業したが、午前6時時点では約30人程度。時間帯は働く人の生活様式に合わせている。最長は午前6時から午後6時までだが、早朝や夕方に時間が取れない子育て世代や他の仕事をしている人は相談により時間を調整することも可能だという。
弁当などのもてなしも周囲に店がない同地区の昔ながらの習慣だという。
茶摘みの報酬は日給、時間給、出来高給など各農家によって違う。宇治市茶生産組合が決めた出来高給は1キロ400円。小島さんによると、ベテランなら最盛期で1日40キロほどになるという。小島さんは「先祖が残してくれた茶の景観や伝統をお茶摘みのみなさんの手を借りながら守っていきたい」と話す。