(英フィナンシャル・タイムズ紙 2017年5月12日付)
仏次期大統領に選出されたエマニュエル・マクロン氏(左、2017年5月8日撮影)と、ドナルド・トランプ米大統領(右、2017年5月4日撮影)。(c)AFP/STEPHANE DE SAKUTIN AND MANDEL NGAN〔AFPBB News〕
政治家がいて、風向きを変える指導者がいる。フランスの第5共和制はそれなりの数の政治家を輩出してきたが、今回はエマニュエル・マクロンというレインメーカー*1を大統領に選んだ。
現時点では、いろいろとケチを付けることがほとんど義務になっている。いわく、フランスは大きく分断された国だ(それは選挙で生じたことだと筆者は思ったが)。いわく、全体の3分の1を若干上回るほどの有権者が、マリーヌ・ルペン氏の国民戦線(FN)という有害な政党に投票しなければと感じた。
いわく、マクロン氏の率いる「前進」は国民議会(下院)でまだ議席を取っていない。いわく、経済近代化の提案には強力な労働組合が必ず反対する。いわく、バラク・オバマの「イエス・ユー・キャン」を覚えているか。米国人は結局、ドナルド・トランプをホワイトハウスの主に据えたじゃないか――。
あら探しをされたり、警告を発せられたりすることは避けられないが、マクロン氏がエリゼ宮の敷居をまだまたいでいない段階からあれこれ言い立てるのは、政治に対する信頼が崩れていることの証拠だった。
アンシャン・レジーム(旧制度)は宿命論的な諦観にとらわれてしまっている――英国・労働党の穏健派下院議員たちを見ればいい。極左のジェレミー・コービン党首に立ち向かうどころか、崖から身を投げてしまっているではないか。
少なくとも、マクロン氏の勝利は、フランスやそのほかの国々で政治に対する信頼感をある程度回復させるはずだ。他者の批判に屈せず、自らの信念に従って行動する指導者には、変化をもたらす力がある。
デジタル時代の今日、評論家たちを襲う誘惑はほかにもある。今日では、世界の様子を大局的に語るよう求められることが非常に多い。トランプ氏の米大統領就任でリベラルな民主主義の死刑執行が決まったとか、マクロン氏の華々しい成功によって生き返ったと表現されたのはそのためだ。現実の世界は、そこまで整然としていない。
*1=雨ごいをする人、やり手のビジネスパーソンなど、複数の意味がある。