これぞ「ザ・お好み焼き」をめぐる大阪旅

2017.05.15

世界でお好み焼きが一番おいしい街が大阪であることは、誰にも知られたことだ。ただ地元・大阪人にとっては、お好み焼きはありふれた日常の食べ物で、飲食店街のみならず商店街や市場など、どこの下町にもある。したがって「どこがおいしい?」と訊かれると、「近所の行きつけの店」ということも多い。そんななかから、誰もが「おいしい」と太鼓判のお店を3軒。

開店、即行列の千日前の老舗「おかる」

地下鉄御堂筋線のなんば駅から徒歩5分、水掛不動の法善寺近くのお好み焼きの老舗「おかる」。
ミナミ一帯がまだ焼け野原だった戦後すぐの昭和21(1946)年、安達武夫さん・カズエさん夫妻によって創業。現在はその孫の和剛(かずよし)さんが大阪を代表するお好み焼きを継いでいる。
▲満員の店を切り盛りする店主の安達和剛さん

訪ねたのは平日、夜の部の開店5時の10分前。すでに6人が並んでいる。

5時きっかりに席に案内されるが、早々から満員御礼。
この店は鉄板を挟んで向かい合う4人がけの席で、となりの席とは間仕切りがしてある。
だから一人客はいない。仲間や家族で「鍋を囲む」と同じ感覚であり、大阪人好みのコミュニカティブな雰囲気。
お好み焼きはその客の前の鉄板で焼かれる。
とりあえず「生中」(500円)と品書き「一品料理」の一番上にある「いか塩焼き」(800円)をおつまみで。
お好み焼きと焼きそばは、ともに具が2つ選べる「特上」(900円)で。
お好み焼きは豚と肉(牛肉ミンチ)、焼きそばは豚、たこで。
鉄板に火が入れられ、店主自らの手でお好み焼きが焼かれる。
焼きそばだけは厨房の鉄板で焼かれたあと、客の鉄板に出される。
熱くした鉄板に油がひかれ、粉、キャベツ以下、お好み焼きの台がミンチ状の肉ごとくるくるとかき混ぜられる。
これぞ大阪スタイル。見事な手つき、職人技である。
鉄板に丸く置かれ、上に豚肉をトッピング。そのあと蓋がかぶせられる。
焼かれることしばし。蓋を開け、ひっくり返して上からテコで押さえる。真ん中がへっこむぐらい相当強く押さえる。
そこでタイミング良くいか塩焼きが出てくる。
イカはあらかじめ食べやすいように切ってあり、片面に包丁目が入れられている。
バターで焼いて仕上げられる。それにしてもぶ厚くてデカい。
イカにぱくつきビールをゴクリ。「これはたまらんなあ」という頃、まるでストップウォッチで計ったようにお好み焼きが焼き上がる。
ソースは甘辛2種類、カツオ粉、青ノリがふられ、最後に名物、通天閣のマヨネーズ画で仕上げられる。
お好み焼きは表面がカリ、中はミンチ肉の脂が溶けてフワフワの絶妙状態。
紅ショウガが利いているのが大阪下町チック。
お好み焼きをほぼ半分くらい食べ進む頃に焼きそばが出てくる。
焼きそばは見かけによらずほのかなソース味。だから食べ飽きしない。
豚、タコの具が変化に富んでおいしい。
店内が相当の待ち客なので、食べ終わるとすぐに勘定を済ませた。
外に出てみると東京からの大学生のグループが並んでいた。大阪のお好み焼きは盛り上がるとのこと。
2014年に店は改装したが、お好み焼きの味と同じで歴史を感じさせるなんとも大阪スタンダードな外観が良い。

ミナミの歓楽飲食店街ど真ん中、お好み焼きの名店「キャベツプラザ育」

地下鉄御堂筋線の心斎橋駅から徒歩10分、クラブやスナック、飲食店の雑居ビルひしめく辺りのまさに谷間にある「キャベツプラザ育(いく)」。
細い袋小路の奥、なんとも昭和な味のある路地に開店したのが昭和62(1987)年。
法善寺横丁で人気を博していたお好み焼き店「三平」で修業した山本育男さんが独立してつくった店だ。
この店のすごさは、ミナミのネオン街に飲みに来て「社長」「先生」と呼ばれる客層が多いこと。

午後6時から開いていて一見や観光客にも優しい店だが、ガラっと客層が変わるのはクラブやスナックから流れる客が多い午後10時以降。
かれら接待客は、早い時間に割烹や鮨、フランス料理で接待され、その後クラブやラウンジで賑やかに飲む。

それが終わってから、小腹が空いたあるいはちょっと飲み直そうと、このお好み焼き店にやってくる。
そこはお好み焼き好きの大阪人のDNAである。
だからお好み焼きはみんなで1枚を分けて食べたり、酒のツマミ的なサイドメニューも人気だ。
「育オムレツ」(1,080円)は、牛すじとキムチとネギを炒めて溶き卵で巻いた鉄板料理。

はじめは、お腹がふくれるお好み焼きや焼きそば以外のうまいものを、という常連客の要望に応えたものだったが、あまりのうまさで評判が広がりグランドメニューになった。
さて、メインのお好み焼きは「すじ・いも・ねぎ…1,240円」、「えび・しそ……920円」とメニューに10数種がリストアップされている。
けれども基本的には豚、いか、牛すじ、えび……といったメインの具と、じゃがいも、そば、もちといったボリュームアップのトッピング、しそ、のり、カレーなどのアクセント的なトッピングから選んで、自分好みのその日その時の気分やお腹の減り具合に合わせてカスタマイズしていく。

このあたりが大阪の「お好み」焼きのもうひとつのスタイルである。
この日は、ご主人と相談のうえ、豚・いか・チーズ・いも・しそのちょっと豪華版のお好み焼き(1,450円)を注文。

あっという間に鉄板の上でパフォーマンスよろしく焼かれていく。
焼き上がりはこの通り、完璧である。芸術的というか。
マヨネーズが塗られ、評判のソース。
青ノリと花カツオで完成。
たとえば3人で行って、あれこれ違った具入りの3枚を注文し、分け合って食べる。
和気あいあい、一番楽しい大阪流お好み焼きの食べ方かもしれない。

高級住宅街にあって大人気。もうひとつの大阪のお好み焼き「AT THE 21」

大阪屈指の高級住宅街、豊中・上野。
高級フランス料理や割烹など、リッチな層を客層に持つ飲食店が点在する。

その中にあって、庶民の食アイテムであるお好み焼きがぶっち切りの人気ぶりを見せている店がある。
店名は「AT THE 21(アット・ザ・トゥエンティーワン)」。デザイン化された店のロゴからそうだが、外観はモダンなカフェのような建物で、一見お好み焼き店とはわからない。
けれども昭和59(1984)年のオープンで、もう30年以上になるから地元では「あそこのお好み焼き屋さんね」とよく知られている。

大阪空港から大阪モノレールで3駅の少路(しょうじ)駅から徒歩8分と観光客にもおすすめのアクセスの良さである。
予約を入れて19時過ぎに行くと、平日なのに満席状態。「何時に取りに行きます」のテイクアウトもひっきりなし。人気ぶりが分かる。
この店のお好み焼きのユニークさは、お好み焼きが220mm×180mm四方、厚さ7mm、重さ2.2kgの鉄板に載せられて出てくること。
この鉄板に大迫力の厚さ、大きさのお好み焼きが載せられて出てくると、はじめて来た客はびっくりしてしまう。
鉄板は神戸の鉄工所でつくられたもので、檜材の木枠にセットされて出てくるのだが、その枠はご主人の友人の額縁職人の手によるもの。
完全にオリジナルのお好み焼き専用器具であり、カウンター内をのぞかせていただいたのだが、鉄板がずらり2列に並べてお好み焼きが焼かれるさまは圧巻だ。
▲奥では明日のキャベツを最高の状態に仕込み中。冷水で洗って水を切って乾かす

メニューはお好み焼き・焼きそば(ともに750円)、ネギ焼き(900円)の3種で、そこにブタ(150円)、イカ(250円)、エビ(500円)……と具を自由に選んだり組み合わせたりできる。
この日はネギ焼きのカキ(1,350円)、「ブタ・そば入」のモダン焼き(1,200円)を2人で分け合うことに。
ネギ焼きのカキはごろりととても大きいのが、まさにてんこ盛りでトッピングされる。
最後に青ノリもカツオ節もふられて完璧に味付けされて出てきたネギ焼きに、早速テコを入れると半熟状態の卵がどろりと流れる。
これがうまいのなんの。
すごいボリュームなんのその。口当たりが軽いのでペロッといってしまう。
モダン焼きはまるでヘルメットのような形で、薄焼き卵をまとって出てくる。はじめて見ると唖然とする。
厚さ10cmはあるだろう。
テコを入れると案外カンタンに切れて食べやすいのにびっくり。
▲あまりきれいではないが、中にはそばがたっぷり。切り取ったらこうなる
▲はっきりいってぐちゃぐちゃ状態だが、みなさん取り皿はこのような具合でおいしく食べている

この大阪屈指の高級住宅街の人気お好み焼き店は、西真澄さん(中央)一家でやっている。お好み焼き屋は家族店がうまいという定評は、下町の店だけにとどまらない。
※価格はすべて税込
江弘毅

江弘毅

編集者。神戸松蔭女子学院大教授。京阪神エルマガジン社時代に雑誌『ミーツ・リージョナル』を立ち上げ、12年間編集長を務める。著書『飲み食い世界一の大阪』(ミシマ社)、『「うまいもん屋」からの大阪論』(NHK出版新書)など、主に大阪の街や食についての著書多数。編集出版集団140B取締役編集責任者。最新刊は『いっとかなあかん店 大阪』(140B)で、発売1週間で重版となった。

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