Feb. 16 〜 Feb. 21 2016
今、突如ニューヨークで相次ぐ、刃物での切り付け事件!
今週はグラミー賞授賞式で幕を開け、ニューヨークではファッション・ウィークが行われていたけれど、
そんな中で物議をかもしていたのが、ハイテンションで知られる2人。
その1人は 最新アルバムの発表と同時に、彼のファッション・ライン ”イージー”の
2016年秋冬コレクションのランウェイ・ショーを行ったカニエ・ウエスト。その最新アルバムの中の楽曲の歌詞を巡って
彼に反発したテイラー・スウィフトに関するツイートをしたかと思えば、彼が5300万ドル(約64億円)の借金を抱えていて、
フェイスブックのCEO、マーク・ザッカーバーグに10億ドル(1200億円)の投資を求めるツイートを行い、
挙句の果てには 「自分はピカソやスタンリー・キューブリックよりも
影響力がある」と豪語した様子がメディアに流出して、「常軌を逸している」とさえ指摘されたのが今週のカニエ・ウエスト。
でもメディアの中には、「何故マーク・ザッカーバーグにメッセージを送るのに フェイスブックではなく、ツイッターを使ったのか?」と
違う切り口で彼の判断力の欠落を指摘する様子も見られていたのだった。
もう1人物議を醸していたのは例によってドナルド・トランプで、今週はローマ法王フランシスを敵に回す発言を展開。
これはメキシコを訪問中のローマ法王が、 ドナルド・トランプがアメリカとメキシコの国境に巨大な壁を作ろうというプランを打ち出していることについて
メディアから意見を求められた際に「壁を築くのはクリスチャンらしからぬ行為。本当のクリスチャンならば橋を築こうとするもの」と、
特にトランプを批判した訳ではなく、そのフィロソフィーについてコメントしたにもかかわらず、
「誰であろうと個人の信仰について批判するべきではない。宗教リーダーなら尚のことだ。」と反発。
でもトランプは、ローマ法王のコメントの全容を把握していなかったようで、後に「(ローマ法王のコメントが)最初に聞かされたものより
ずっとまともなコメントだった」として、後にトーンダウンしているのだった。
そのトランプは、土曜日に行われたサウス・キャロライナ州の予備選で勝利を収めているけれど、
敬虔なクリスチャンが多い同州で、ローマ法王に反発した直後でも支持が落ちなかった理由としてメディアが指摘したのは、
トランプに投票した人々の56%が既にかなり以前から彼に投票すると決めていたとアンケート調査で語っていたため。
その一方で ジェブ・ブッシュは、最大の資金力で選挙活動を行ってきたにもかかわらず、
サウス・キャロライナでの敗北を受けて大統領選挙キャンペーンの打ち切りを明らかにしているのだった。
ふと思い返せば、今から4年前、2012年11月にオバマ大統領再選 されたその日から、アメリカだけでなく、イギリスのメディアまでもが指摘していたのが、
2016年の大統領選挙はヒラリー・クリントン VS. ジェブ・ブッシュか?という予想。
そして2012年当時、「オバマ大統領の出生証明書は偽物で、アメリカ人ではない」と騒ぎ立て、
オバマ氏が再選された途端に 「この選挙は詐欺だ!」というツイートと共に
人々に革命を呼びかけて笑い者になっていた ドナルド・トランプが、現在 共和党の最有力候補になっているというのは
パラレル・ワールドのような話。そのトランプは目下、ライバル候補のテッド・クルーズ、マルコ・ルビオの双方について、
オバマ氏同様に「アメリカ人ではない」と騒ぎ立てて選挙戦を戦っているというのも また皮肉な話。
政治評論家が、ジェブ・ブッシュの撤退に伴って こぞって指摘したのは、「共和党支持者は、
レーガン政権下のような強いアメリカを望んでいるので、彼のような 地味で真面目な政治家は、たとえ実績があっても勝てない」、
「今年の選挙では 従来の選挙を勝ち抜いてきた政治参謀よりも、リアリティTVを製作するハリウッドのプロデューサーの手腕が必要」
ということなのだった。
その一方で、今週ニューヨークを震撼させたのが木曜日に3件も刃物による傷害事件が起こったこと。
そのうちの1件はグリニッジ・ヴィレッジのレストラン(写真上左)の店内で来店客の目の前で起こったもの。
犯人はティーンエイジの少年2人で、フェイク・チャリティの募金集めを来店客に対して行ったことをウェイターに注意され、
一度は立ち去ったものの 再び刃物を持って現れて彼を切り付けたというもので、警察は監視カメラの映像を公開しているものの
犯人は逃走中。被害者ののウェイターは137針を縫う大怪我を負っているのだった。
もう1つは 木曜午後にソーホーの人気店、Supreme/スプリームの前で起こった事件で、
セールに行列していた人々の目の前で起こったもの。被害者はストアから出てきた21歳の男性で、
犯人と短い口論になって、顔を切り付けられており、目撃者の証言では
「犯人が犠牲者の顔を殴ったのかと思った」というほど、あっという間の出来事。
犯人はそのまま逃走しているのだった。
3件目が起こったのはアッパー・ウエストサイド、コロンバス・アベニュー88丁目で、こちらは純然たる物取りの犯行。
33歳の男性が後ろから刃物を突きつけられ、ポケットの中の物を出すように要求され、
犯人は彼を背中から刺して、彼のキンドルとヘッドフォンを奪って逃げたというのがこの事件。
この他にも今週火曜日にはタクシーの運転手が乗客と口論になって、刃物で切り付けられるという事件が起こった他、
今日、日曜日にもブルックリンとブロンクスで4件の刃物による傷害事件が起こっているけれど、
そのうちの1件はドメスティック・バイオレンスなのだった。
日曜の犯行を含めると、ニューヨーク市では 12月半ばから25件もの刃物による傷害事件が起こっており、多くのメディアが
「この安全なはずのニューヨークで、一体何が起こっているのか?」 と、
これらの事件を大きく報じていたのが今週。
そんな報道を見ていると刃物による傷害事件が30%くらいアップしたような感触をもつけれど、
実際には 昨年の現時点での過去1年間の刃物の傷害事件総数は249件、
それが今年は286件となっており、約15%のアップになっているのだった。
とは言っても、刃物による傷害事件数は 2015年の年間殺人件数(348件)よりは、遥かに少ない数字。
殺人は約1日1件弱の割合であるけれど、それでもこの数字は 現在アメリカで最も犯罪が多発しているシカゴや、
テキサス州のヒューストンとダラス、ロサンジェルス、フィラデルフィアなどの他都市よりも少ないもの。
しかもニューヨークの場合、殺人事件の殆どがギャング絡みのもので、
それを立証するかのように 犠牲者の76%が前科者というデータが得られているのだった。
殺人の犠牲者になるのは64%が黒人層、27%がヒスパニック、白人は6%、アジア人はさらに少ない3%で、
当然のことながら 殺人件数が多いエリアは、黒人&ヒスパニック層が多く暮らすブロンクスとブルックリン。
したがって、今のニューヨークでは一般市民が殺人事件を恐れる必要がさほどないだけに、
NYPD(ニューヨーク市警察)の署長であるビル・ブラットンは「ニューヨークはかつて無いほどに安全」と
謳っているけれど、このところの報道を受けて
刃物による傷害事件を危惧するニューヨーカーは非常に多いのが実情。
事件には口論から及ぶケースと
いきなり切り付けられるケースがあるものの、どちらも精神的に問題がある人物の犯行が
非常に多いことが指摘されているのだった。
刃物による傷害事件以外に、2015年に前年比で6%増えたのがレイプであるけれど、
ニューヨーク市では1つの警察署の管轄下で1年に5件以上レイプが起ころうものなら それはレイプの超多発地域。
殆どのエリアでは年間1件程度に止まっているのだった。
でも、年末にセントラル・パークを走っている最中に私が味わったのが白昼堂々、周囲に人もいる中での痴漢行為。
それも12歳の少年によるもの。
私がパークを北側に向かって走っていたところ、向かいから2人の黒人少年が走ってきて、
どんどん近寄ってくるので、私は彼らから距離を置こうとしたけれど、
すれ違い様に1人の少年の手が私のヒップをクリーンヒットして、もう1人の手は指先が僅かに触れた程度。
振り向くと 2人はハイファイブをしながら喜んでいたので、それを見て頭に来た私が「What was that?」と
言いながら5メートルほど追いかけたところ、2人はそれ以上走りたくなかったのか直ぐに止まって
「It was just a joke」とあっけらかんとした態度。
「自分達がしたことが痴漢行為だっていうことが分かっているの?」と腹立たしさが収まらなかった私が言ったところに
ちょうどパーク・パトロールの車が通りかかったので 「貴方たちのことをパトロールにレポートする」と言った途端、
1人の少年は逃げて、もう1人は「こんなトラブルは忘れて、握手しよう」と手を差し伸べてきたのだった。
「何で私が痴漢と握手しなきゃならないの?」などと言い合っていたところ、パトロールの人が車から出てきて、
何が起こったのか訪ねて来たので私が事情を説明したところ、
少年の言い分は 「何もしていないのに、この人(私のこと)が自分のことを痴漢扱いする」というもの。
「もし本当に痴漢だったら、君に呼び止められても立ち止まらないで、逃げているはず」と言い出したのだった。
「止まったのは、私が走って追いかけて来ると思ったからでしょ?」と私も言い返したけれど、
知らない間にパーク・パトロールの車は2台になっていて、私にとっての助け舟になってくれたのは
そのうちの1人のパトロール。
「僕は彼女(私)の言い分を信じる。彼女はいつもここを走ってエクササイズをしているけれど、今まで
一度も問題を起したことなんて無いんだよ。 」と少年に言い、
「君は30分前にも この先の木の陰で 友達3人と一緒にいただろう? その時から君らのことは 何か怪しいと思って見ていたんだ」
と言い、少年に 逃げた1人以外にも あと2人仲間が居たことを認めさせたのだった。
そう話す間に別のパトロールが警察に通報していて やってきたのがNYPDのパトカー。
それを見た途端、ずっと言い訳ばかりしていた黒人少年が突然泣き出したので、
「警察の威力はスゴイ!」と思ったけれど、とにかく あまりに大事になったので、私の方がビックリしてしまったのだった。
私がNYPDの警官に事情を話している間に、少年は観念してパーク・パトロールの人に
「通りかかった女性に痴漢行為をして遊ぼう と友達にそそのかされた」と自白して、「自分はやりたくなかったのに・・・」
と言ったそうで、パーク・パトロールに促されて私に謝罪をしたので、私も彼に
訴追の意志が無いこと、謝罪を受け止めたことを伝えてその場を立ち去ったけれど、
少年にしても まさかこんな大事になるとは思わず、軽い気持ちでやったのは明らか。
でも 私は白昼のニューヨークで ごく普通の露出の無い服装をしているのに痴漢行為をされたことが何度もあって、
ジーンズを履かないのもそのせい。相手は軽い気持ちでも、こちらは頭に来て眠れない思いをすることが多いので、
大騒ぎにはなったものの、少年には良い薬になったと思っているのだった。
私の友達曰く、 「そういう男がやがてはレイピストになるのよ」とのことだったけれど、
この一件で私が驚いたのは、これまで確かに走っている最中、何度もパトロールの車を見かけたけれど、
中に乗っている人が私のことを覚えていたということ。それと同時にNYPDの警官が2人揃ってあまりにグッド・ルッキングだったのにも
驚いてしまって、それも思わず友人に報告してしまったのだった。
いずれにしても、「12歳の少年の痴漢行為でパトカーがやって来るのだから、ニューヨークは
安全」と思ったのがその時のこと。
今も、ニューヨークが他のアメリカの都市や、世界の大都市と比べて安全という意識は
変っていないけれど、昨今の切り付け事件は ドナルド・トランプの選挙戦同様、メディアが大きく騒ぎすぎて、
まるでトレンドかムーブメントのようになっていることは危惧しているのだった。
執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に
ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。