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アップタウンは今日も平和 作者:七篠なぎさ
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僕らはアップタウン警備員

「うううううう……おおおおおおおおおお……」
2017年8月31日木曜日、午前9時50分。
僕、西園真洋はパソコンの前で泣いていた。
今日、僕が12年の間プレイを続けていた、エミル・クロニクル・オンラインと言うゲームが終了する。
可愛いキャラクターに惹かれ正式サービス開始からプレイしていたのだが、昨今のスマホアプリの波にMMORPGは衰退の一途を辿っていた。
そんななかでも、10年以上続いていたこのゲームは、きっと終わることがない、なんて甘いことを考えていたのだが、今年の5月に、突然サービス終了のお知らせが発表されたのだ。
発表の瞬間、僕はまだ仕事中だったのだが、煙草休憩に出たまさにその瞬間、ツイッターでも発表がされており、膝から崩れ落ちてしまったものだ。
そして、その終了の日程は2017年8月31日木曜日、午前10時。
終わりへのカウントダウンが始まっている。
涙で歪んだ視界で画面を見れば、プレイヤーたちがゲームへの感謝をチャットで発言している。
僕も、震える指で、
『エミル・クロニクル・オンラインありがとう!12年間、本当に楽しい毎日でした!ありがとう!』
と打ち込んで、エンターキーを押下した。
9時55分、いよいよあと5分まで迫った。
「うううう……ぐぐぐぐぐ……」
涙は止まりそうもない。
昨日から、徹夜でプレイを続けているが、やはりこのゲームは素晴らしいゲームだ。
なぜ運営はこのゲームのサービスを終了してしまうのだろう。
悲しさにさらに涙が溢れ出る。
色々な場所を回った。
沢山の知り合いに挨拶をした。
沢山スクリーンショットも撮った。
それでも、やり残したことがあるような気がして仕方がない。
9時59分、あと1分でゲームは終了する。
この世界は、閉じられてしまう。
終わらないで、そんな発言が沢山見える。
終わらないで、終わらないで、終わらないで。
僕も、負けじと発言する。
『おわrないで』
震えた手で行ったタイプはミスっていた。
そして、僕のチャットの発言は、それが最後の発言になってしまった。
10時、サーバーとの通信が、切れた。世界は閉じられた。
僕は泣いた。周りの家にも聞こえているだろう。どうでもいい。ただただ悲しいのだ。
12年だ。12年もの間、寄り添ってきた物が、突然失われたのだ。
泣かせてくれ。泣かせて欲しい。
そうしていつしか、僕は眠ってしまっていた。

「ようこそいらっしゃいました!」
元気な声が僕の耳に飛び込んできた。
薄く目を開けると、そこはどう見ても空の上だった。
雲が下にある。
見上げれば、一面の星々に大きな月がひとつ。
まごうことなき夢の中だ。
「もしかして、私の事見えてなかったりします?」
「んー?」
頭がうまく働かないものの、声の主に視線を合わせる。
一言で言うなら、白い少女だった。白い服、白金の髪、白い肌。
見覚えがある、そんな気もするが、どうにも思考が追いつかない。
「あなたは七原深雪さんですね?」
ちがう、それは僕のエミル・クロニクル・オンライン内でのキャラクター名だ。
僕の名前は西園真洋だ。
「あれ?間違えちゃいましたかね……いえ、ですけど紐付けは間違いなくされてるんですよねえ……」
何を言っているのか、よくわからない。
「まあ、いいです。紐づけされてるのは間違いないのですし、”そのまま”お送りしますね。さて、そろそろお目覚めのお時間です。目が覚めたら、きっと素敵な一日が出迎えてくれますよ」
すてき……素敵?何を言っているのだろう。ついさっき、素敵な一日を迎えるためのゲームが終わってしまったばかりだと言うのに。
「それでは、最後に紙芝居屋としての口上を」
見覚えのある、そんな言葉を紡ぐ彼女は、
「さあ、みなさん。行く人、来る人、お暇な人。是非是非足を止めてお聞きになってくださいな。これより始まる物語。それは、あなたが主人公を務める、果てしなく続く物語……なんて、ね♪」
見覚えのある、言葉で、
「では、良い冒険を~♪ 願わくば、あなたがこの世界を、この世界に住む皆とともに楽しみ、愛してくれることを……」
夢の世界から、僕を送り出したのだった。

「ぐごごごごご……ブルスコモルスァ……」
「おい、君、起きろよ、君!」
「ふご?」
目を開けると、見知らぬ男の顔が目の前にあった。
泣き疲れて眠ったようだが、長時間眠ったようで頭はスッキリしている。
とりあえず、声をかけてみた。
「住居不法侵入かな?」
「何言ってんだ、お前」
認めたくはないが目の前の男は非常にイケメンだ。
顔を若干しかめていてもわかる。非常にイケメンだ。
僕の知り合いにコンなイケメンはいない。やはり知らない人だ。
「いや、僕の部屋に知らない人が勝手に入ってるんだからそうで……しょ?」
言いながら、彼の頭の後ろに見えるものが青空であることに気付いた。
「あれ?僕外で寝てた……?」
よっこいせと体を起こし、あぐらを組んで周りを見回すと、見知らぬ街の中。
洋風の建物や高い塔が見える。
そして、どこか騒々しい空気。
「お前、今はじめて起きたのか」
目の前の男はどうにも電波なことを訊いてきた。
「初めて起きるってどういうことね」
「この世界で初めて起きたのかって訊いてるんだよ!」
……よくわからない。が、ははーん、わかったことがある。
「なるほど、君は電波君だ」
「うるせえ!こんなこと訊きたくて訊いてんじゃない!」
もういい!そう言って彼は去ってしまった。
失敗した。つい煽ってしまった。
僕はポリポリと頭を掻いて、ひと呼吸。
もう一度周りを見回すが、やはり見知らぬ街の中。
夢遊病にでもなったのだろうか。
ふと視線を感じて振り返ると、黒髪ロングストレートのマブイ(死語)女の子が僕をじーっと見ていた。
よし、彼女にここがどこか訊いてみることにしよう。
32年という年月を生きながら未だ彼女がいた事の無い僕には非常に困難なミッションではあったが、なんの、男は度胸だ。
「あっ……あっ……あの……」
大失敗である。どもっちゃいかん。やはり経験値が足りていない。
しかし運命の女神は僕を見捨ててはいなかったようだ。
彼女は僕から目を離さず、口を開いた。
「雪……?」
「雪?今は晴天だけど……」
「違くて。……あなた、雪、ですよね?」
……僕のことを雪、と呼ぶのは、エミル・クロニクル・オンラインの中で唯一人。
ゲームを始めた頃に出会って、仲良くなった相棒。
共にリングには入らずいろんな野良パーティで遊んでいたけど、相棒だけは固定メンバーと言ってもいいくらい一緒に遊んでいた。
そんな相棒の『文太』ただ1人だったはずだが。
「えっと……えーっと?」
「今の状況を、理解してます?」
何を言って良いのかわからない僕に、彼女から問いかけてくれた。
乗るしか無い、この質問に。
「僕、屋外で寝てた」
「……いえ、違くて。夢、見ませんでした?紙芝居屋の、夢」
言われてみれば、なんか見たような気がする。残念ながら夢の内容なんて全然覚えていない。だって夢だし。
「……そう、ですか。雪、お前やっぱ図太いわ」
少女が突然乱暴な口調になった。見覚えのある、気安い口調。
「俺だよ、文太だよ。雪、俺達やばいぞ、巻き込まれちまった。俺たち、エミル・クロニクル・オンラインの世界にいるんだ。」
残念ながら、彼女の言葉はよく理解できず、僕は首をかしげるばかりだった。
というわけで、エミル・クロニクル・オンラインのサービス終了を受けて、非常に不安定になった私がとりあえず適当に思いつくままに二次創作の転移系物語を書きなぐってみようと思い立って見ました。
正直お見苦しいものとなるかとは思いますが、適当に頑張っていきたいと思いますので、お付き合いいただければ幸いです。

紙芝居屋の下りはぶっちゃけ本家の丸パクリです。だってこれがないとこの世界に初めて踏み入れた気がしないんだもん……
ダメーと言われて削除されたらその時はその時と開き直ろうと思います。
思います。

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