私の講演などでもご著書をオススメしている松本 俊彦さんによる文章がアップされています。書籍『子どもを守るために知っておきたいこと』で書かれている重要な指摘です。
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「誕生学」でいのちの大切さがわかる? - 精神科医 松本俊彦
》最大の自傷とは、「つらいときに人に助けを求めないこと」、すなわち援助希求能力の乏しさです。これこそが、彼らの自殺リスクを高める根本的原因と言ってよいでしょう。
》「誕生学」のような「いのちの大切さ」を伝える自殺予防教育がなぜマズイのかという問いです。最大の問題は、自殺予防教育が「道徳問題」にすり替えられている点です。
すでに1割の子どもたちは自分を傷つけており、高い自殺リスクと「援助希求能力の乏しさ」という特徴があります。そのような子どもたちが、「いのちの大切さ」という道徳的な講演を聞いて、「よし、勇気を出して担任の先生に相談してみよう」という気持ちになるでしょうか?
まさか。むしろ、いっそう助けを求めることを躊躇するようになるでしょう。
それどころか、1割の自傷経験者はこう思うでしょう。「いのちが大切ならば、なぜ自分ばかりが殴られ、いじめられてきたのか」、「なぜ『あんたなんか産まなきゃよかった』と言われるのか」と。自殺リスクの高い子どもの多くは、家庭や学校で様々な暴力や自らを否定される体験にさらされる中で「人に助けを求めても無駄だ」と絶望しています。そんな子どもたちにとって、「いのちの大切さ」などという言葉は気休めにもなりません。
断言します。自殺予防のために必要なのは、道徳教育ではなく、健康教育です。それは、1割の少数派の子どもたちに「つらい気持ちに襲われたとき、どうやって助けを求めたらいいか」を教え、9割の多数派の子どもたちに「友だちが悩んでいたら、どうやって信頼できる大人につなげたらいいか」、「そもそも信頼できる大人は、一体どこにいるのか」を教えることです。
それでは最後に、私たちはどうすれば「信頼できる大人」になれるのでしょうか?
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私も、「誰もが愛されて生まれてきた」とか「子どもは親を選んで生まれてきた」というような、医学的根拠のないことを含むスピリチュアル的なメッセージを発信する大人には、うさんくささを感じてきました。
そう信じることで、その人自身が救われているのかもしれず、それだけならいいんだけど、そういうことを信じている人の中に、子どもを救いたがったり、支援したがり、教えたがりの人が多いんです。というか、誕生学協会が、講師になれる人を増やして教えを広めるやり方をしているんだけど。
その言葉に追い詰められる人がいることを知ってほしい。特に苦しい状況にある子どもにはそんな声かけしないでほしい。だけど学校でそういう授業を導入するところも増えてきていることに危機感を持っています。
「生まれてくれてありがとう。命は素晴らしいもの!」と、当たり前のように語り、それを子どもに押し付けようとする人に出会うと私もドン引きしますが、そういう人が結構いることを活動する中で実感しています。そういう考えを押し付けることが、むしろ苦しい状態を産み出すことになっています。
私が講演で、子どもに言わないほうがよい言葉・要注意な言葉として紹介している「親からもらった命なんだから」に通じるような教えや、
「誰もが生まれてきたことを喜びと感じられたら生きることが楽しくなる」とか「あなたは愛されて生まれてきた」とか、「自分を大切に」「命は大切なものだから死なないで」「自分を傷つけたり、死にたいなんて言わないで」というようなメッセージを(しかも関係性のない中で)伝えることは、今苦しんでいる子どもや、これから苦しいことに直面する可能性のある子どもの、助けを求める力を奪います。(誕生学協会のHPや関係者のブログにはそういうような言葉がたくさん散りばめられています…)
Colaboの活動や女の子たちのことを応援してくれる方の中にも、誕生学の教えを信じている方もいて、だからこそあえて伝えたいです。
特に、コラボと繋がってくれる女の子たちには誕生学はNGです。ある中高生は「そんな話聞いたら、死にたくなる。」「綺麗事かよ」と言います。その通りだなと思います。
私も、
『難民高校生』に書きましたが、10代の時、親に無理やり連れていかれた、親が信じきっていたカウンセラーに「だりー。死にてー」と言ったら、命の大切さを説かれたことがあり、「ああ、この人も何もわかっていない」と死にたい気持ちを強くしたことがあります。
松本先生が精神科医の立場から、そのリスクを伝えてくれたことに感謝します。
自殺リスクの高い人への援助や対応については、松本先生の以下のような本に詳しいです。オススメなので読んでみてね。
『もしも「死にたい」と言われたら』
『自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント』
『自傷・自殺する子どもたち (子どものこころの発達を知るシリーズ)』
『中高生のためのメンタル系サバイバルガイド』
追記(1/20):この記事を書いたら、数時間後に誕生学協会から、事実と違う情報になるので取り下げろという連絡があり、驚きました。
何についてどう事実と違うのかなどの説明はなく、松本先生の指摘に対して弁護士が動いていることなどを伝える内容でした。必死なのかもしれないですが、やり方がすごいなと思いました。
一方で、虐待など様々な理由で家族関係に悩んだり、いじめや孤立を経験した当事者などから、「こんなことを教える学校があるなんて信じられない…」など、記事に共感し、誕生学の授業は問題性を指摘する声がたくさん届いています。
誕生学協会の授業は小中高校などだけでなく、児童養護施設や少年院などでもされていて…子どもへの影響が心配です。