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WWDC17は分水嶺。Apple「次の10年」に向けた変革と再編はじまる(神尾寿)

同社がマイペースであり続ける理由とは

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WWDC(Apple World Wide Developers Conference)の招待状がメディア関係者の元にひらりと舞い込んできた。周知の通り例年6月に開催されるWWDCは、AppleのOSや製品向けにアプリやサービスをつくる開発者や技術者向けの一大イベントである。そこではAppleの最新テクノロジーがお披露目されるほか、Appleの哲学がティム・クックCEOをはじめ、同社経営幹部から事あるごとに語られる。


▲WWDC17の招待状。会期を通じ"Appleマインド"を体感し共感することによって、開発者たちはAppleのOS群にふさわしい設計思想を会得していく。​​​​​

WWDCの主役は「OS」とコンテンツやサービスの「プラットフォーム」や「開発環境」となる。かつてはWWDCで新製品が発表され即発売といったこともあったが、近年はこのタイミングでハードウェアの新製品が発表・発売されることはほとんどない。あくまでWWDCはアプリやサービスをつくる開発者のためのイベントだ。


▲昨年のWWDC16の会場。毎年、世界中から多くの開発者が集まる。

新世代iPhoneの姿が、iOSの進化から垣間見える

画期的な製品(ハードウェア)の発表は望み薄だが、WWDCは「今後のApple製品の道筋」を見るうえで、ユーザーやメディア関係者にとっても最注目イベントである。とりわけ今年はAppleを取りまく周辺環境に大きな動きもあり、例年にも増してWWDCでの発表が重要性を増している。多くの人々が注目し、市場への影響が大きいのが、今秋発表と目される「新型iPhone」に向けたiOSの進化だろう。初代iPhone発表からちょうど10年目の節目でもあるため、AppleがiPhoneを大きく進化させるのではないかという予測は多い。

筆者もAppleが今年、新型iPhoneで「iPhoneのテコ入れ」をしてくる可能性は高いと考えている。iPhoneの設計思想は2007年の初代iPhoneで基礎理念がつくられ、翌2008年のiPhone 3GでUI/UXデザインとアプリを中心としたエコシステム(経済的な生態系)の基本が完成した。その後、iPhoneとiOSは周辺技術の進化や市場の変化に合わせて洗練と改修を繰り返してきたのだが、そろそろ"次の10年"に向けて抜本的な変更が必要な時期にさしかかっているのは確かだ。

とはいえ、今年iPhone、iOSが一気に変わるかというと、それは早計だろう。Appleは市場の受容性、すなわち「多くの一般ユーザーがきちんと受け入れられるか、使いこなせるか」をとても気にする企業であり、そのための「洗練」を極めて重視する傾向にある。「技術的にできるから」や「目新しさが必要だから」と、安易に設計やデザインを変えることを好まない。

そう考えると、今年のiPhone、iOSの大きな変更は部分的な導入に留まり、主流市場への本格展開は、そこからのフィードバッグを受けたうえで2018年からとなるシナリオが現実的だ。

つまり、名称ルールがどうなるかは不分明だが、今年のメインはやはり「iPhone 7s、iPhone 7s Plus相当になる」ということだ。他方で、来年の"本番"に向けたプロモーションや戦略マーケティング的な目的として「新世代iPhone」のコンセプトモデルの限定的な少量販売という可能性はゼロではない。しかし、巨大化した今のiPhoneのロジスティックス体制や販売戦略を鑑みれば、それはあまり上策とは言えない。これまでのAppleの定石をなぞれば、新世代iPhoneの構成要素となる技術やデバイスを、今年の主力モデルに部分的に採用するほうが理にかなう。「すべてが一新されたiPhone 8が今年発売されるのではないか」というAppleファンや投資家の気持ちはわかるが、蓋が開けられるまでは過度な期待は禁物だろう。

さて、このような仮説を踏まえたうえでWWDCの注目は、今秋の「新型iPhone」向けの機能進化に加えて、次の時代を担う「新世代iPhone」向けを意識した機能やデザインの変革がどれだけ発表されるか、だ。Appleは今年3月にiOSを含む4つのOS(iOS、macOS、watchOS、tvOS)を順次アップデートし、ファイル管理システムを20年来使われていたHFS+から新世代のAPFS(Apple File System)に移行した。これら内部的な世代交代に加えて、新世代iPhone向けにはアプリやコンテンツの仕組みや流通構造の変更、UIデザインの大幅な変化、ハードウェアの基本デザインの見直しなどが実施されるだろう。また昨今、Apple CEOのティム・クック氏が言及しているAR(拡張現実)やVR(仮想現実)、カメラや各種センサーを使用した実空間のスキャンと解析といった技術分野がOSレベルで採用・活用されることも考えられる。

iOSとmacOSの「役割分担」は進む

OSとプラットフォーム全体に目を向けると、今回のWWDCでは「iOSとmacOSの役割分担がいっそう進む」と予測される。特に重要になるのが「iPadの再定義」だ。

iPadはiPhone(スマートフォン)に続くポストPCの製品群として登場し、非PC市場を創出・獲得してきた。しかし、iPadの登場当初と現在で市場環境が異なってきたのが、スマートフォンの大型化と高性能化により、非PC市場の需要の大半がスマートフォンで賄われてきていることだ。つまり、「スマートフォンとタブレット」の2つの製品カテゴリーでポストPCの新市場をつくるはずだったものが、「大型化したスマートフォン」のひとつの製品カテゴリーに当初想定よりも偏ってしまったのだ。さらにタブレットはスマートフォンよりも壊れにくく、性能に余裕があるので買い換えサイクルは長い。結果として、iPadをはじめとするタブレット市場は、スマートフォンとPCの狭間でやや中途半端な位置になってしまっている。

Appleはこのような市場環境の変化をいち早く察知し、3年前から徐々に「iPadをPC的に使える」ようにiOSやアプリ環境を変更してきた。最もスマートであるとされた"指のみの操作"に加えて、ペン入力やキーボード入力などをサポートしてきたのは軌道修正の証左だ。WWDC17では、iOSのiPad向け機能はさらに強化されることが発表されるだろう。大画面に最適化されたiPad用のUIデザイン採用や、PCとの連携強化、ビジネス用途向けの機能やアプリの強化などが考えられる。また、昨年のSwift Playgroundsに続いて、学生や初心者向けのアプリが強化されて、「初めてのパーソナルコンピューター」としてiPadが最適となるような取り組みが発表される可能性は高い。

一方で、macOSはこれまでと同じくiPhone、iPadとの連携機能が強化されるほか、「プロユーザー向け」の新機能がアピールがされるだろう。Appleは今年の後半にiMacなどデスクトップPCの製品群をリニューアルすると予告しており、そこではプロユーザーの需要が重要なターゲットになると言及されている。macOSとしても、機能やサービス、サードパーティのアプリなどで「プロ向け」の訴求に力が入れられるはずだ。また、WWDCでは、当然のことながらMacを使用する開発者が大半であるため、既存ラインアップのマイナーバージョンアップについて言及されるだろう。

「Siri」をIoT時代向けに仕立て直せるか?

OS以外のプラットフォームでは、「Siriの拡大と進化」が最大の注目だろう。音声を用いた新たなプラットフォームでは、Amazonの「Alexa」がIT業界の垣根を越えて、新時代のOSになるかのような勢いで広がってきている。Alexaはたんなる音声入力UIではなく、そのうえに「Skill」と呼ばれるアプリ構造をもち、一方で様々な製品(IoTデバイス)をAlexa対応にするための開発環境「AVS」も公開している。これによりAlexaは、家電製品から自動車、スマートホームまで、メーカーや用途の違う様々な機器を音声で操作し、Skillを通じて連携させることも可能にした。AlexaがIoT時代のアプリ、サービスプラットフォームと注目されている理由がこれである。

Appleは以前から自然言語の音声UI「Siri」を開発・実装してきた。しかし、SiriはあくまでApple製品のUIのひとつであり、サードパーティがSiri用のアプリを開発したり、自動車メーカーや家電メーカーが自社製品にSiri機能を自由に組み込むことはできていない。自動車向けの「Car Play」などはあるが、それはあくまで車載機に接続したiPhone上のSiriを使うためのものでしかなかった。

今後、スマートフォンやPC"以外"の機器がインターネットにつながり、本格的なIoT時代を構築するにあたり、異なる用途・異なる構造の機器を汎用的に操作・連携させるための「OSのように振る舞うプラットフォーム」が必要になる。ここに一番近い場所にいるのがAmazonのAlexaであるわけだが、Appleがそれに対抗できるかは今年のWWDCの注目ポイントだ。重要なのはAmazonの「Echo」のようなスマートスピーカーが出るかではなく、「SiriをたんなるUIのひとつから、IoT時代のプラットフォーム」として仕立て直し、そこに多くのアプリ開発者や非IT系メーカー(自動車や家電、社会インフラ系機器など)を参加させられるか、なのだ。

WWDC 17で、Appleの「再編と変革」が見える?

初代iPhoneの登場から10年。Apple自身が「ポストPC」を掲げてきたコンピューティングとインターネットの変革は、成熟と収束の時を迎えようとしている。Appleは未だ利益率が高く、増収増益基調だが、市場全体で見れば"バブルは終わりつつある"のである。

そのようななかで、Appleにとっても事業の再編や次の時代に向けた変革は必要だ。その取り組みが本格化するのは2018年から2020年と筆者は予測しているが、このWWDC17で早くも狼煙が上がるかもしれない。
 
──Appleが次に創りだす未来はどのようなものになるのか。
 
6月5日からはじまるWWDC17は、例年にも増して刮目しなければならないものになりそうだ。

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