野球の采配で議論を呼ぶのが打順の組み方。
4番は誰にするのかを中心に、左右が交互に並ぶジグザグ打線など、様々な観点で打順議論がなされます。
そこには各チームの監督をはじめとした首脳陣の主観が入り混じるでしょう。
そんな打順にも客観的な観点から効率的な打順を組もうという流れがあります。
それは統計学を用いた野球分析でおなじみ、セイバーメトリクスを用いた最適な打順の組み方です。
2番に小技は必要ない、送りバントは意味がない?などの考察を踏まえた究極の打順の組み方についてまとめました。
もし現在贔屓球団が低迷しているなら、それは打順が原因かもしれません。
そこで今日はセイバーメトリクスの観点から最適な打順の組み方のポイントをご紹介します。
目次
- セイバーメトリクスに基づく打順の組み方
- 打てない選手に打席をまわさない
- 打てる選手を固める
- 打席に入ったときの平均的な走者数・アウトカウントを状況にいれる
- 自チーム内の最適な選手で打順を組む
- セイバーメトリクス的 2017年西武ライオンズのベストオーダー
- 人がやるスポーツだから、必ずしも理論通りにはいかない
- まとめ
セイバーメトリクスに基づく打順の組み方
セイバーメトリクスが賛否両論を呼ぶ要因の一つが打順の組み方です。
従来の野球では1番が塁に出て、小技が上手い2番バッターが進塁打を打って、3,4,5で返すという打順の組み方がセオリーです。
しかし、セイバーメトリクスでは様々な観点から2番に強打者を置くことが良いとされるようになりました。
有名な例だと2015年にセ・リーグ優勝を果たした東京ヤクルトスワローズが首位打者&最多安打の川端慎吾選手を2番起用(犠打2)。
海の向こうメジャーリーグではブルージェイズが打点王、MVPに輝いた強打者ジョッシュ・ドナルドソンを2番に起用。
では、なぜ2番に強打者を配置するのか。
セイバーメトリクスに基づく打順ごとの重要性のイメージは下記の通り。
出典:2番打者には強打者を… よく聞く説の根拠とは? | Full-count | フルカウント ―野球・MLBの総合コラムサイト―
第一群:出塁率に優れた選手を1、2番に起用。長打率に優れた選手を4番に起用。
第二群:3、5番
第三群:残った選手の中から、6、7、8、9番の順で打力の高い選手を配置する
従来の日本野球で重視された3,5番よりも2番打者を重視する考えなのです。
この打順が理想とされる理由は下記の3点です。
- 打てない選手に打席をまわさない
- 打てる選手を固める
- 打席に入ったときの平均的な走者数・アウトカウントを状況にいれる
打てない選手に打席をまわさない
野球は打順が上位の選手であればあるほど、年間の打席数は多くなります。
引用:初回バントが愚策な理由 2番打者像: Baseball Schole
一番打者と九番打者では平均で126打席も違いが出てきます。
日本では2番より5番に打力が高い選手を配置することが好まれますが、両者の打席数は年間で42打席。
1試合平均4打席と考えれば、10試合分の差になります。
2016年5番に座ることが多かった鈴木誠也(広島)、村田修一(巨人)選手の本塁打率を考えると、彼らが2番に座っていれば年間2本塁打増えていた計算になります。
年間10試合分鈴木、村田選手の打席数が少なくなることを考えれば、攻撃力がある選手をより多く打席にたたせた方が良いことは明白です。
チームで2番目に多く打席が回ってくる打順にアウトになりやすい選手を置くのは、チーム全体の打席を減らし、チームの攻撃力を下げる事に直結してしまうのです。
打力が低い選手と高い選手どちらが多く打席に立つべきか。
答えは明らかです。
そのため、セイバーメトリクスでは上位に強打者を配置することを好むのです。
打てる選手を固める
セイバーメトリクス観点では打てる選手を固めた方が効率が良いと考えられています。
それは打力がある選手の間に打力が低い選手が入るのが非効率だからです。
下記の表からわかる通り、野球はアウトカウントが0に近いほど、ランナーが溜まっていればいるほど得点期待値が高まっていきます。
pandasでMLBのアウトカウント・ランナー状況別の得点期待値を計算する
pandasでMLBのアウトカウント・ランナー状況別の得点期待値を計算する - 下校時刻
逆に言えば、アウトカウントが増えていくと得点期待値が下がっていきます。
もし打力が高い選手を並べておけば、無死でランナーが溜まる状況が作る可能性が高まります。
しかし、そこに打力が低い選手がいたり、犠打を挟んでしまうと得点期待値は下がっていきます。
従って、日本で好まれる1番とクリーンナップの間にバントを多用する2番打者を配置するのは効率が悪い作戦なのです。
よく議論される無死一塁で二番打者に送りバントをさせるべきか、ヒッティングさせるか。
実はこの作戦を取った際の走者の生還率に大きな差はありません。
2番打者が無死一塁で打席に立ったのは942回で、うち316回(33.5%)で送りバントが選択されている。このときの進塁率は89.9%と先ほどの数値よりも高く、生還率も44.0%と上がっている。
だが、2番打者がヒッティングした307回のケースを調べてみると、進塁率は45.0%で生還率は44.3%と、バントをした場合と比べてわずかながら生還率が上回っているのである。
しかし得点数の期待値に差が生まれるのです。
【無死一塁でバントした場合の得点期待率】
・1死2塁→.548
・1死3塁→.714
【無死一塁でヒッティングした場合の得点期待率】
・無死1塁2塁→1.528
・無死1塁3塁→1.837
・無死2塁3塁→2.043
つまり、ヒッティングした場合の方がその回の得点数が多くなる可能性が高いのです。
点が入るにしても、その点数に差があるならより高い得点数を狙った方が良いです。
これらのことから、セイバーメトリクスでは打力が高い選手を固めた方が効率よく得点出来ると考えるのです。
またバントの重要性をよく問われますが、そもそも2番打者がバント出来る機会はそう多くはありません。
引用:初回バントが愚策な理由 2番打者像: Baseball Schole
送りバントを使用出来る機会は全打席のうち13~17%。
逆に言うと83~87%はヒッティングが必要なケースで打席が回ってくるのです。
また送りバントを使用出来るケースの中には無死1塁・3塁や1死2塁の状況も含みます。
それらのケースでバントをするのは投手の打席くらいしかないことを考えると実際にバントをするケースは最も下がります。
全打席の1割のためにバントが上手い選手を配置する必要があるでしょうか。
この点も2番打者に打力が低い選手を配置するデメリットです。
ちなみにですが、バントが有効になるケースはOPS.609以下です。
得点確率を求める場合、無死1塁でのバントの損益分岐点はOPS.609と出ました。
これに該当するのは2016年の規定打席到達者55人のうち、中島卓也(日本ハム)OPS.601、小林誠司(巨人)OPS.544の二人のみです。
上記の二人もしくは投手が打席に立っていない限り、基本的にはヒッティングの方が効率的な作戦と言えます。
もちろん、エース級の投手時は得点確率が下がるので、バントが有効なケースは増えます。
しかしエース級と対戦する確率を考えても、基本的にバントのためだけに2番打者に小技が上手い選手を配置するのは非効率的です。
打席に入ったときの平均的な走者数・アウトカウントを状況にいれる
見落としがちなのが各打順の平均的な走者数とアウトカウント。
先ほどのカウント別のケースでもわかる通り、アウトカウントが少ない状況で出塁すればするほど得点期待値は高まります。
1番打者は平均的にアウトカウントが少ないケースで打席が回る傾向にあります。
(初回や下位打線で攻撃が終了した次の回など。)
そのため、出塁率が高い選手を配置することが出来れば、当然得点期待値と確率は高まります。
逆に3、4番打者はアウトカウントが多い状況で打席に回るケースが多いです。
アウトカウントが多い状況で出塁しても得点期待値と確率は非常に低いです。
そのため、出塁率よりも長打率、本塁打率が高い選手を配置することが効率良いのです。
このように単純な打席数だけで考えるのではなく、その打順ごとの状況を考えて打順を組むのが理想とされています。
自チーム内の最適な選手で打順を組む
打順を組むにあたって一番忘れてはいけないのが、自チーム内の基準で最適な打順を考えることです。
出塁率や長打率が高い、併殺が少ないなどあくまで自チーム内のランク付けが大切です。
一番顕著なのが、2番強打者の考え方です。
強打者と言われるとリーグ内の強打者を思い浮かべがちですが、あくまで自チームの中で出塁率や併殺打率が低い選手です。
なので、「強打者と言っても山田哲人や筒香嘉智クラスがいない!」と考えるのではなくあくまで、自チーム内で適した選手を組み合わせる必要があります。
ようはないものねだりはするなってことです。
セイバーメトリクス的 2017年西武ライオンズのベストオーダー
開幕前に2017年の西武ライオンズのベストオーダーを考察しました。
その時も今日ご紹介したセイバーメトリクスの考えを元に打順を組みました。
ただ、現在怪我人続出で、構想通りには打順を組めていません。
怪我人の影響からか、中々得点力が上がってこないライオンズ。
そこで2017年の5/10終了時点で成績を元に打順を組んでみました。
【セイバーメトリクスに基づく2017年ライオンズのベストオーダー】
打順 ポジション 名前 理由
1 二 浅村栄斗 出塁率.371はチーム2位
2 中 秋山翔吾 出塁率.406はチーム1位 左で併殺も少ない(1個)
3 一 メヒア チーム3位の長打率 併殺0
6 遊 源田壮亮
7 左 外崎修汰
8 捕 炭谷銀仁朗
9 右 木村文紀
1~4番に主軸を並べたオーダーです。
併殺が少ない秋山、メヒアに2、3番を任せました。
数字とセイバーメトリクスを知らずにこのオーダーを見るとかなり違和感のがあるオーダーです。
100%このオーダーで戦うことはありませんが、年間このオーダーで戦った場合どれだけ点数が変わるのか興味深いです。
ただ、セイバーメトリクス上、打順組み換えによる得点数の変化は年間数点しか変わらないとされています。
ただ、それは元々犠打が少ないメジャーをサンプルにしたデータです。
2番打者がバントする機会が多い日本で試した時どうなるのかが非常に見ものです。
人がやるスポーツだから、必ずしも理論通りにはいかない
ここまでセイバーメトリクスの観点から理想の打順を考察しました。
しかし、この理論が全て当てはまるかと言えばそうではありません。
2006年、当時広島カープの監督を務めていたブラウン監督は出塁率の高さを見込んで前田智徳選手を2番打者に起用しました。
しかし、2番打者の役割に戸惑った前田智徳選手は開幕から調子を崩しました。
結局2番起用は13試合に留まり、その後は主に5番と3番として試合に出場しました。
最終的に打率.314、本塁打23、出塁率.371、OPS.882を記録。
打順別の成績は以下の通りでした。
【2006年 前田智徳選手の打順別成績】
- 2番:試合数13、打率.213、本塁打1、出塁率.315、OPS.634
- 3番:試合数13、打率.375、本塁打3、出塁率.407、OPS1.014
- 5番:試合数97、打率.322、本塁打19、出塁率.374、OPS.903
その年の成績自体は好調だったものの、2番になると極端に成績を落としています。
日本の野球では二番というとどうしても進塁打や犠牲バントを駆使した繋ぎを求められます。
出塁することで次の打者に繋ぐという意味ではセイバーメトリクスも同じ考えなのですが、どうしても繋ぎ方にズレが生じるようです。
そのことが天才打者前田智徳選手をしても中々順応出来なかった要因です。
人が行う以上、心理状態が左右するだけに理論通りにはいかないのです。
まとめ
- 上位打線に好打者を固める
- 得点期待値の高い作戦をと使う
- 2番打者がバント出来る機会は少ない
- 自チーム内で最適な打順を組む
- あくまで理論、選手の心理も大切に
セイバーメトリクスを扱う上で、旧指標を大切にする人と一番対立するのが打順の組み方です。
大事なのは扱う首脳陣とプレイする選手が意図を十分に理解することです。
それなしではただの机上の空論に終わってしまいます。
現在パ・リーグ首位と好調な楽天は2番にペゲーロ選手を配置するセイバーメトリクスらしい打順を組んでいます。
対する2位ホークスは1,2番に出塁率の高い選手を置かず、3番以降にOPSが高い選手を配置しています。
セイバーメトリクスの観点から言うと非常に興味深い両者の戦いです。
シーズンが終わった時、どちらが得点数が多いのか。
今から楽しみです。
それでは、さようなら!