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81.おれだけのエルザ
自宅の一階、魔法カートの駐車場。
シャッターを下ろして、密閉空間になっているそこにセレストとアリスといた。
「見てな」
二人にそう言って、自分用の魔法カートに通常弾を一つ入れて、つけられた二つ目のボタンを押した。
カコン、って音がした後、離れた場所に設置した箱からその通常弾が飛び出してきた。
「あっちに飛んだわ」
「すごーい! これなんでも飛ばせるの?」
「魔法カートに入るものなら、ってことらしい」
「ホネホネ」
SDサイズのスケルトンがカクカクしながら頷いて、魔法カートの中に飛び込んだ。アリスがわくわくしながらボタンを押すと離れた箱からホネホネが飛び出してきた。
「わー、本当にすごーい」
「ああいう使い方をするための機能じゃないんだけどな。本来は――」
苦笑いを浮かべつつ言いかけたところに、箱から更にものが飛び出してきた。
タンポポである。
今ここにはいない、アルセニックに向かったエミリーが送ってきたものだ。
大量にあるそれはたちまち箱を埋め尽くした。魔法カート一台分だ。
「こんな風に、ダンジョンで魔法カートが一杯になった時、街に戻らなくても狩りを続行できる機能なんだ」
「すごく便利ね。リョータさんの稼ぎが更に上がりそう」
「なんでおれ限定?」
「リョータさんだけドロップSだからだわ」
自宅の中で仲間しかいないから、セレストは遠慮することなくドロップSだと言った。
「わたしたちも往復しなくていいから楽になるけど、稼ぎが上がるかと言えば微妙なところ。特にわたしはMP切れもあるし」
「ああ……なるほど。魔法使いの宿命だな」
ゲームでもそうだ、周回をするときMPを消耗する魔法使いはどうしたって不利になる。
魔法を使わなくても体力とかスタミナとか、そういうのを消耗して疲れていくのだが、MPに比べたらそんなの誤差みたいなもんだ。
特にセレストはMPを大食いする燃費の悪い魔法使いだから、余計に思うところがあるんだろう。
「でもリョータさんは間違いなく稼ぎが上がるわ。多分今までの倍くらいは」
「倍か……今度確認してみよう」
新しい力とか道具とか手に入れた後は把握するために性能チェックが必要だ。
魔法カートの転送機能は重要なものだから、一度しっかりと確認しておいた方がいいよな。
「うわわわ、どんどん来るよリョータ」
アリスがあわあわし出した。
みると、箱から更にドロップ品が転送されてくるのが分かった。
今度はタンポポじゃない、大量のニンジンだ。
しかも、
「『うさぎのニンジン』って書いてあるわ」
「知ってるよ! 間違ってもこのニンジンには手をつけないよ!」
龍の逆鱗、イヴのニンジン。
アピールされなくてもそれに手はつけない。
「でも、本当に便利ね」
「そうだな」
「ねえねえリョータ、一ついいかな?」
「なんだ?」
「これ、どうやって買い取り屋に運ぶの?」
「……あ」
山ほどのニンジン、2セット目に転送されてくるたんぽぽ。
見落としていた落とし穴だった。
☆
「と言うわけなんだ」
顔なじみの買い取り屋・燕の恩返し。
応接スペースでエルザと向き合って、状況を説明した。
「オルトンさんの新しい魔法カートですか、はあ……」
「便利な機能なのはいいんだけど、一旦集積したものをどうやってここまで運んでくるのか見落としてたんだ。魔法カートから出して一旦まとめたから逆に運べなくなりそうなんだ」
「それは大変です。サトウさんの丸一日のドロップだけでもすごい事になりますもんね。今までの記録で最大16往復ですから」
「よく覚えてるな」
10越えてるのはわかってるけど16とまでは数えてなかった。
指摘すると、たまたま横を通りかかったエルザの親友、イーナがニヤニヤしながら言った。
「サトウさんだからだもんね」
「イーナ!」
「あははは、隠さない隠さない。サトウさんが連続で来る日だって分かるといつもそわそわするじゃないの」
「そんな事ないもん! いいからイーナは仕事に戻ってて」
「はいはい」
エルザは親友を追い返すが、すっかりと赤面しきっていた。
「そ、それよりも」
エルザは頑張って取り繕って、平静を装いつつ話を戻した。
「サトウさんはうちとお取引してくださるんですよね」
「ああ、いつもお世話になってるからな」
得意先だ、今までよくしてもらってるから、かえる必要性が見当たらない。
だからこそ相談を持ちかけたのだ。
それを理解したのか、エルザは静かにうなずいて、立ち上がった。
「ちょっと待ってください、相談してきます」
「たのむ」
エルザが店の奥に戻っていくのを見送って、その場でしばらく待った。
燕の恩返しは今日も盛況だ、ドロップ減少も魔力嵐もなく、収穫祭で散財した冒険者が次々と稼ぐためにドロップ品を持ち込んできた。
「お待たせしました」
エルザが戻ってきた。声を聞いてそっちに目を向けると、エルザと一緒に別の男がやってきた。
一見、特徴のない30代の中年男だが、なぜか頭の上に鳥の巣を載せている。
巣から鳥が顔をだす、紺色の鳥――燕だ。
男は頭に燕の巣を乗せていた!
突っ込むのやめよう、ファッションかもしれないし、ペットかもしれない。
その巣食べるのとか鳥がンこしたら大変じゃないのとか、一瞬のうちに色々頭に浮かんで来たが、突っ込むのを我慢した。
あからさまな変人は深く突っ込んだら負けだと思ったからだ。
「紹介しますね、オーナーとその奥さんです」
「奥さんなのかよ!」
「すまないな、昔家内の秘密をのぞいて怒らせてね、それ以来月に一度、満月の夜にしか人の姿をみせてくれなくなったんだ」
「みないでって言われてみたんですか!? 逃げられなくてよかったですね」
オーナーの男はあははと笑いながらおれの向かいにすわった。
結構普通に動いているはずなのに、巣はちょっと揺れただけで、不思議なバランスをとって頭の上に収まったまま。
完全に固定されてる訳でもなく、不思議な光景だ。
(つっこむな……突っ込んだら話が終わるところか始まらなくなる)
自制心を働かせていると、男が名乗った。
「この店のオーナー、ウィル・ダッカーだ。よろしく」
「あ、ああ。よろしく」
「いつもお世話になっている。最近はサトウさんあなたが持ち込んでくれた品物のおかげでうちの評判もウナギ登り、業界でのシェアも上がっているんだ。すごく感謝している」
一呼吸おいて、ウィルは本題を切り出した。
「エルザから話を聞いた、状況は把握した。そこで提案なのだけど……エルザを派遣する、というのはどうだろうか」
「えええええ!?」
何故かエルザが驚いていた。
報告しただけで、どうするのか聞かされてなかったのか。
「お、おおおおおーなー、何をいきなり言い出すんですか?」
「いやなのか? だったらイーナに頼むけど」
「はーい、わたしはオッケーでーす」
話を聞いてたのか、ちょっと離れたところからイーナが手をあげて笑顔でこたえた。
「い、行かないとは言ってないです!」
「だったら問題無いな」
「えっと、派遣って、具体的にはどうするんですか」
「そちらの、今噂で持ちっきりのリョータ・ファミリーの荷物倉庫にこの子を専属スタッフとして派遣する。買い取りの品を彼女が集計して、一日に一回、場合によってには二回こっちが回収しにいく。というのを考えている」
「なるほど」
提案を頭の中でシミュレートした。
それはいいかもしれない、そうしてくれると買い取りに運ぶ手間がいよいよゼロ近くなるし、エルザの事は信頼出来るから任せても問題はない。
むしろこっちに都合がよすぎるくらいの提案だ。
「でもいいんですか?」
「本当はこんなことはしないんだけど、サトウさんとはこれからもずっとお付き合いしたいから、特別だ」
「特別、ですか」
「ああ、サトウさんだけだ」
ウィルはまっすぐみてきた、どうだ? って顔だ。
提案は嬉しい、もう一度シミュレートしてみたが、特に断る理由はない。
「それで頼みます」
「これからもよろしく」
ウィルは立ち上がって手を差し出した、おれも立って手を握りかえした。
こうして、エルザがおれ達のところに派遣される事になった。
書籍化きまりました。講談社様の新レーベル、Kラノベブックスです。皆様のおかげです、ありがとうございます。これからも更新頑張ります!
面白かったらブクマ、評価もらえると嬉しいです。
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