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78.変わらないセレスト
ニホニウムの入り口、このダンジョンで唯一設置でされているナウボードの前にやってきた。
「じゃあ、エミリー?」
「はいです」
エミリーは頷き、ナウボードをなれた手つきで操作した。
ステータスが出た瞬間、彼女は「おお」と感嘆した。
―――1/2―――
レベル:40/40
HP A
MP F
力 A
体力 A
知性 F
精神 F
速さ E
器用 E
運 B
―――――――――
「レベルがマックスなのです」
「能力は……順当だな、HPと力がAなのは前からだけど、体力もAになってるな。インファイターとしての能力が極振りされてるステータスだな」
「モグモグ……こういうの……もぐもぐ……強い」
イヴが余ったニンジンとかじりながら言う。
「口に物を入れてしゃべるのはお行儀悪いのです」
「……」
イヴは喋るのをやめた。
ニンジンをかじって完全に呑み込んだあと、次のニンジンを手に取った。
「喰うのかよ! 説明の続きじゃないのかよ!」
「ニンジンとの逢瀬を邪魔する人は神であろうと許さない」
「言葉激しく間違ってないか!? まあいい、そういうのが強いのはおれも同感だ。強くてタフ、何かしらの回復手段をもてば一人で大抵どうにかなる能力値だ」
「そんなことないです」
エミリーは赤面した。
「謙遜するな、HPと力と体力がAなんだから、すごいぞそれ。なっ」
仲間たちに同意を求める、みんなが一斉に頷いた。
エミリーはますます恥ずかしくなって、それをごまかすかのようにナウボードを操作した。
―――2/2―――
植物 D
動物 E
鉱物 F
魔法 F
特質 F
―――――――――
「ドロップも少し上がってるな」
「はいです。次はセレストさんの番なのです」
「ええ」
頷くセレスト、エミリーがどいたナウボードの前に立って、祈るような目で操作した。
―――1/2―――
レベル:54/54
HP D
MP A
力 E
体力 E
知性 A
精神 A
速さ E
器用 A
運 C
―――――――――
「すごいです! MPがAになってるです!」
「これでMP切れから解放されるな。前はCくらいだったっけ」
「レベル3もいっぱい撃てるですね」
おれとエミリーがハイテンションになってる一方で、セレストは黙ったままだ。
「どしたの?」
アリスが不思議そうに聞く。
セレストは答えず、胸に手を当てて深呼吸を繰り返し。
「ええい!」
と、勢いをつけて操作した。
ステータスの2ページ目、ドロップが表示される。
―――2/2―――
植物 F
動物 F
鉱物 F
魔法 E
特質 F
―――――――――
「……あ」
一瞬キョトンとなった後、その表情のまま涙がボロボロとでた。
そうか、そうだったな。
セレストは自分のドロップが全部F――Fファイナルだって事がコンプレックスだったんだっけ。
レベルマックスになってもたいしたことない、だけど彼女にとっては全然違う。
彼女は愛おしそうに、ナウボードの「E」の字を指でなぞった。
やがておれに振り向き、涙を流したまま。
「ありがとう」
と、最高の笑顔を見せてくれた。
☆
テルル地下八階。六階、七階と同じ野外の様なダンジョンで、七階とは違いダンジョンスノーはふっていない。
エミリーとセレストがレベルをカンストを記念して、次の階層に降りてくることにした。
ちなみにイヴは地下二階においてきた。
道すがら眠りスライムを倒してリョータニンジンを量産すると、うさぎの目はニンジンの形になって自主的にそこに残った。
そうして地下八階にやってきたおれとエミリー、セレストとアリス。
そこに待ち受けていたのは、メタリックなカラーをしたスライムだった。
セレストは自分の出番だと言わんばかりに説明してくれた。
「スチールスライム、見た目通りものすごく硬い」
「知ってる。おれが免許を取ったときの相手だ」
免許というのは、地下六階以降強力になるモンスターにそなえて、力の足りない冒険者を立ち入らせないための、シクロダンジョン協会の施策だ。
それがないとモンスターを狩ってドロップをしてきてもシクロじゃ買い取ってもらえない、周回して金稼ぎがほぼ唯一の目的であるといってもいい冒険者たちにとっては必須品で、実質的に立ち入りを制限する代物だ。
おれはそれをとるときのテストで、このスチールスライムと戦った。
ちなみにおれが「知ってる」と言ったとき、セレストはちょっとだけシュンとした。
……説明したかったのか、悪い事をしたな。
「とにかく硬いです? 他に特殊能力はないです?」
「ないわ、いやになるくらい硬いだけ」
「分かったです。ヨーダさん、ここはわたしがやるです」
「ああ」
頷くと、エミリーはハンマーを担いで飛び出した。
ぐるぐるハンマーを頭上で回しながらの先制攻撃、地面ごとたたき割る勢いでハンマーを振り下ろす。
エミリーとスチールスライムの一対一。おれ達は傍観した。
「すごいわ、あのスチールスライムに物理攻撃で対抗してるなんて」
「レベルを上げて物理で殴るは基本だからな」
「それはそうだけど、スチールスライムには普通出来ないわ。体のどこかにある弱点を見つけて、それを狙うのが攻略法なのよ」
「へえ。おれが倒した方法とも違うんだ」
「リョータさんはどうやったの?」
「冷凍弾と火炎弾で、金属疲労を起こした後たたき割った」
「きんぞくひろう?」
セレストが首をかしげた。
博識な彼女でも知らない言葉らしい。
そうしてる間に決着がつきそうだった。
エミリーは足を止めてスチールスライムを叩いた。
ダンジョンが揺れる程の力でたたきつける。ハンマーをあげるとスライムが飛びつこうとしたが、更にたたきつける。
ハンマーをあげる、スライム動こうとする、ハンマーを振り下ろす。
それを繰り返した。
まるで餅つきのようだな。
「ねえねえ、コンコンの体がひび割れてきてるよ」
コンコンって、スチールスライムのことか。
彼女がそう名付けたって事は、いずれ肩に乗ってる二体と同じように彼女の仲間になるのかな?
そんな事を思っていると、スチールスライムが倒された。
「ヨーダさん! やったです!」
エミリーはやり遂げた笑顔で戻ってきた。
ドロップしたメロンを拾うことも忘れて、彼女は達成感に満ちた笑顔で、おれ達のところに戻ってきたのだった。
☆
シクロの街中、野菜を模したヤケに立派な建物の中に入って、一直線に地下に降りてきた。
「すごく広いです」
「ここでモンスターと戦わせるのね」
「ホネホネもプルプルも遊びたい?」
足を踏み入れるなり、仲間たちは地下室を興味津々に見て回った。
ちなみにイヴはおいてきた。
引き返す道中で地下二階の眠りスライムをついでに倒したら「うさぎ、もう死んでもいい」とか言ってニンジンに頬ずりしだした。
おれはカウンターに向かって行き、前と同じ中年の男に話しかけた。
「免許を取りに来た」
「……11階以降のか?」
「いや6階以降の。仲間たちがまだなんだ」
「……三人か?」
「二人で」
男は無表情のままカウンターを出て、準備を始めた。
おれは仲間たちの元に戻る。
「話してきた」
「はいです。でもどうしてです? 免許はヨーダさんのがあれば大丈夫と思うです」
「それはそうだけど、でも取っておいていざって時に役立つだろ?」
こう思うのはおれが「免許」と聞いて運転免許を直感的に思う現代人だからだろうな。
みんなで車に乗るとき免許を持つ人間が一人でもいれば問題はないけど、複数人がもってればいざって時対処出来る。という発想があるからだ。
「実際役に立つわ」
「どういうことだ?」
おれが聞き返すと、セレストは目を輝かせた。
さっきスチールスライムで説明出来なかった時とえらい違いだ。
「ファミリーが強くみられるからよ。ドロップAが何人いるとか、どういう免許を何人がもっているとか。そういうのがあるの。強くて免許持ちが多いと、何かあるときに依頼来る事があるしね」
「そういえば、最初にネプチューンの事を聞いたとき『植物ドロップが5人もいるすごい集まり』っていうのだったな」
「まさにそういうことね。わたし達は――」
セレストは離れたところで準備をしている男をちらっと見た。
「リョータさんのは公表しない事にしてるから、こういうのはどんどんとっていくべきだわ」
セレストの説明に、おれ達三人はうなずいた。
そうこうしているうちに準備が整ったようで、男が戻ってきた、
「……誰からやる?」
「エミリー……あれ?」
おれは離れたところにセットされている、ハグレモノにかえす物をみた。
ジャガイモだ。
「スチール――メロンじゃないのか」
「……ランダムだ、七階以外で」
「なんで七階以外なの?」
アリスがもっともな疑問をぶつけた。
「七階は普通一人じゃ倒せないからよ」
「スライムの涙を使うと今度は難易度下がりすぎるから意味なくなるんだろう」
「そうなんだ」
「……合格ノルマは子を五体以上」
「結構硬くなるな。どうする?」
おれはエミリーとセレストをみた。
ジャガイモ、テルル地下6階のモンスター。
親子スライムと呼ばれる、倒し方が特殊なヤツだ。
「わたしがいくわ」
「出来るのか?」
頷くセレスト、自信たっぷりだ。
「わかった」
「頑張るのです!」
「イケイケゴーゴー」
セレストは頷き、おれ達に送り出された。
ジャガイモと向き合ってしばし待つ、離れたところにぽつんと置かれるジャガイモはハグレモノに孵った。
大きいスライムが一匹、小さいスライムが数十匹という、それで一体な親子スライムは。
「五体ならセレストさんいけるのです」
「そうだな、バイコーンホーンで五体つぶした後インフェルノで本体焼けば終了だ」
うなずき合うおれとエミリー。
セレストの強さを把握しているので、ノルマを含めて安心してみてられた。
セレストの足元に魔法陣が展開、長く綺麗な髪が魔力になびく。
「インフェルノ!」
「「え?」」
おれとエミリーの声が揃った。
予想と違って、セレストは初手に広範囲魔法、インフェルノを放った。
数十体はあった子スライムがまとめて焼き尽くされる。
「最初からインフェルノだって?」
「親が強くなりすぎるです」
親子スライムの特徴は二つ。
子を倒した分だけ、親を倒した時にドロップが上がる。
そして子を倒した分だけ、親が強くなる。
子が全滅、親の理論上最強の状態ができあがった。
セレストは臆しなかった、彼女は更に魔法陣を展開した。
違う魔法陣だ。
「これが……リョータさんに育ててもらった力、新しい力」
つぶやくセレスト、すぅと手を差し出す。
「切り裂きなさい、サイレントフューリー!」
しなやかな指先から細い、カクテルライトを更に絞ったレーザーの様なものが打ち出された。
それが親スライムの体に当たった。
レーザースポットが体を横断していった直後。
スライムは――極限まで強くなったスライムの体が両断されて、ポン、と音を立てて消えた。
「やったです――あっ」
セレストがふらつく、とっさにかけよって抱きしめる。
「どうした」
「魔力を使いすぎただけ、新しい魔法で」
そう話すセレスと、額に脂汗が浮いてて、顔は紙のような色をしてる。
「まったく……キミは出会った時と変わらないな」
「ううん、変わったわ。すごく変わった」
セレストはまっすぐおれを見つめる。
穏やかな、それでいて激しく情熱的な目で。
「ありがとう、全てあなたのおかげよ」
それは、今まで聞いた「ありがとう」の中で。
一番、どきっとするものだった。
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