教育勅語の何がダメなのか
教育勅語を園児に暗誦させる幼稚園の学校法人が作ろうとした 「安倍晋三記念小学院」 の用地として、大阪府豊中市の国有地がわずか200万円で払い下げられていた問題が明るみに出て、2017年3月に大きな問題になりました。 あわせて、この幼稚園が運動会で中国や韓国に対するヘイトスピーチや安倍政権への応援を園児に宣誓させる動画が広く報じられ、軍国カルトの異様さが改めて認識されています。この幼稚園は田んぼで園児を田につき落とすなど数々のDV行為も指摘されていますが、騒ぎになるまで安倍首相夫人を名誉校長に据え、政権に近い極右系の有名人がそろって賞賛するなど、安倍政権と緊密な関係にあった事が明らかになっています。 憲法に反していなければ云々、というのがミソで、こうしておけば叩かれても逃げられるし、国有地スキャンダルから目をそらす事ができる、と踏んだのでしょう。 しかし、これまで国会決議で封じていた軍国カルトの教義を棺からひっぱり出してきた事には違いないので、問題点をきちんとおさえておきましょう。 教育勅語にはこんな事が書いてある実物を読まずに論評しても意味がないので、まずは実物を確かめてみましょう。 といっても原文は漢文書き下し調の文語体で、わざわざ難しそうな漢語を使って高等そうな教義めいた雰囲気を出していて読みづらいので、戦前の文部省が作った口語訳を併記します。口語訳はもろもろ私家版があるでしょうが、勅語の家元が作ったこの口語訳がもっとも正統です。太字は転載者。
太字のところが骨格です。要するにこういう事を言っています。 (1) この国は天皇の祖先が作って、臣民が一心となって忠義を尽くしてきた。これが日本の国家体制の根本である。 (2) おまえら臣民は、有事の際には皇室と国家に身を捧げて尽くせ (3) これは過去現在未来にわたっておまえら臣民が従うべき体制であり、外国に適用しても構わない。 つまり、日本国民は天皇に隷属する「臣民」である、天皇と国家のために命をも捧げろ、と言っています。 日本は天皇家の所有物と宣言して国民主権を否定し、異論を許さず、政府の都合により命も召し上げると言っています。 (「心を一つに」と言えば聞こえが良さそうですが、心が一つなら個人の意思は全く尊重されません) そればかりか、よく読むと外国をこれに従わせても良い(中外に施して悖らず)とまで言っており、滅茶苦茶です。 神話を史実扱いして天皇を絶対化教育勅語が出た翌年の1891年、井上哲次郎が書いた 『勅語衍義』 という逐語解説の本が出版されています(リンク先は同一著者による1942年の増補復刻版 『釈明教育勅語衍義』)。文部大臣の依頼で執筆し、明治天皇が読んでOKを出したとされており、正統な解釈と見ていいでしょう。
少し原文をつまんでみましょう。太字は引用者がつけていますが、文字の大小は原典の通りです。リンクは原典の画像(国会図書館)に飛びます。
「良い事も書いてある」 は本当かよく聞く言い訳に、「教育勅語には良い事も書いてある」 と称して、第二段落の父母に孝に云々あたりを持ち出す物言いがあります。本当でしょうか。 (1) そもそも 「良い事も書いてある」 なんてクソの言い訳にもならない。混ぜ物はかえって危険
このプラカードには、正しい事(1+1=2)も、良い事(ゴミはゴミ箱へ)も書いてあります。 ではこのプラカードを認めるべきでしょうか。 とんでもありません。 「○×人は全員殺せ」 はジェノサイドを呼びかける違法なヘイトスピーチです。 上の2つは、ヘイトスピーチと同列に並べることで 「『○×人殺せ』も上2つと同じくらい正しい」 ように見せるヘイトスピーチの補助手段だとすら言えます。 このプラカードの例は実際にヘイトデモで使われたものを参考にしていますが、プラカード全体が×です。 この、一見正しそうな、あるいは実際に正しい内容に嘘をまぜて主張するのは、嘘を信じさせるためによく使われる詐欺やプロパガンダの手法です。覚えておきましょう。 教育勅語も、一見反論しがたく見える 「夫婦や友達は仲良く云々」 と「お国のために死ね」 を混ぜている点で、この手法を使っていると解釈する事もできます。妥当な内容を伝えたければ尚更、変な混ざり物がある文書は不適切です。 (2) 「良い事」 を言うのにわざわざ問題だらけの教育勅語を持ち出すのが間違い。教育勅語に書いてなければ勉強しない、というのは非常にバカバカしい人間像だし、勉学に励む学生の背後にやってきて 「お前は教育勅語によく従っている」 なんて言い出すのは電波系の後出しジャンケンです。 勉学を奨励するのに、わざわざ教育勅語を持ち出す必然性などありません。どうしても教育勅語を持ち出したければ、教育勅語にしかない何かを挙げる必要があります。具体的には次の点を挙げられます。 1. 天皇が支配者として道徳の内容を決めている、 2. 日本は天皇の祖先が建国したもので、天皇(政府)にひたすら忠誠を尽くすことが建国以来続く日本の根幹だ、と公式に歴史を創作している、 3. 日本は天皇を家長として意思を完全統一する家族国家だ、とのフィクションに根拠を与えている、 4. 封建的な家庭内秩序に天皇への忠誠心を便乗させている 5. 天皇と国(政府)のために命を投げ出せと言っている基本文書である いずれも正当性のない不適切な主張であり、教育勅語を擁護する理由になりません。 (3) 実は一見良い事に見える部分も、良い事は言っていない。これは事情を知らないと気づかないので、史料を参照して見ていきましょう。開けてびっくり、教育勅語の本当の中身「日本人が知らない教育勅語の真実!ジャーン」 とか書くと、いつもの歴史インチキ本とまぎらわしくなりますが… 前出の 『勅語衍義』 が、例の 「父母ニ孝ニ…」 以下の、「良い事も書いてある」 説の根拠によく持ち出される部分をどう説明しているか見てみましょう。 結論から言えば、教育勅語がひたすら人を徹底的に序列づけている事がわかります。 天皇>臣民、親>子、夫>妻、兄姉>弟妹です。右側の人が左側の人に逆らう事は許されません。特に天皇>臣民、親>子は絶対です。 その序列を守って争いを起こさないのが道徳だと言っています。
これではDVの菌床を培養しているようなものです。男女平等も個人の尊厳もへったくれもありません。 「億兆心を一に」 しているファンタジックな世界では、個人の意思など存在しないからを尊重する必要もないのでしょう。 どこかの自主憲法草案とやらが、 「個人」 をことごとく 「人」 に書き換えている理由もこの辺にありそうです。国民の意思は全員同じく▲だ、と政府が決めてしまえるなら、個人の自由意志などどれだけ無視し踏み潰しても、政府が自分で決めた▲さえ尊重していれば人の意思を尊重した事になる理屈です。 この世界で一番得をするのは天皇、つまり政府ですが、二番目に得をするのは中高年のオッサンです。 それはともかく、放っておいても平和な家庭には外部から何の規範や 「道徳」 も持ち込む必要はありません。 外部から規範を持ち込む必要があるのは、争いのある家庭です。争いがあれば強者が弱者を苦しめる図式になるのは必然ですが、教育勅語の世界における強者は、放っておいても強者である連中です。なんの事はない、家庭内暴力をも正当化し、弱者の救いを絶ち、逃げ道を社会的に封じるだけの、DVと親和性の高いトンデモでしかないのです。 学校を通じて浸透した教育勅語教育勅語は法令により、当初は修身という科目の、最後には教科全体の基礎と定められ、国定教科書に展開されて具体的に子供に教えられました。 以下にその法令を示します。読み飛ばしでかまいませんが、女児には貞淑云々などなど、『勅語衍義』 同様の諸々の願望が書いてあります。太字は引用者。
この結果、教育勅語はわかりやすくかみくだいて、修身(今でいう道徳)の国定教科書に展開されました。ほんのさわりですが、ざっと眺めてみてください。 続いて家庭道徳編です。DVが炸裂します。女性必読! 呑んだくれ親父と娘編姑とお嫁さん編ここに挙げた画像は、国立国会図書館のデジタルコレクションで閲覧・ダウンロードができます。 初等科修身1 (1942年) 初等科修身2 (1942年) 初等科修身3 (1943年) 初等科修身4 (1943年) 高等科修身1女子用(1944年) 封じられた教育勅語敗戦による民主化で日本国憲法が施行され、当然、これに反する教育勅語は無効になりました。 憲法のどのへんに反するのか、すぐに思い当たらない方のために、該当する主なところを書き出してみます。
更に、もはや教育勅語が無効であることを明確にするため、衆参両院で無効の確認が決議されています。 衆議院 『教育勅語排除等に関する決議』 全文
参議院 『教育勅語等の失効確認に関する決議』 全文
日本人だけでも3百万人、日本による侵略の犠牲者を加えれば優に1千万人を超える死者の犠牲を出してようやく封印したファシズムの教義、教育勅語は、たとえ部分的だろうと決して封を解いてはなりません。 トップページへ 『アジア太平洋戦争』トップへ |