“作りたて”が愛されるアツアツ、フワトロの大阪たまごサンド
2016.11.01
大阪の食べ物屋では、ふだんは静かなる店主も自慢の一品には「どや美味いやろ」の熱い想いがたぎり、「もうちょっと盛っといたろ」とサービス精神をひと皿に凝縮させる。もちろんたまごサンドもしかり。厚みはたっぷり、食べるとなぜかほっこりする。そんな大阪たまごサンドの店を、街歩きを楽しみながら味わってみた。
「大阪の喫茶店でたまごサンドを注文すると、玉子焼きを挟んだサンドイッチが出てくる」と言われるが、必ずしもすべての店には当てはまらない。けれども老舗の純喫茶での玉子焼きサンド遭遇率はかなり高いようだ。
「ゆで卵を作る手間がかからない」「注文が入ってから焼くので手がかかるけど、やっぱり熱々が美味いしなぁ」など、その理由は諸説入り乱れている。
とはいえ「大阪らしい懐かしい味」と評する人もいれば、「厚焼きは京都の『コロナ』が発祥」「いや神戸にもあるで」「よう見かけるのはやっぱり大阪や」などと関西一円を巻き込んでの論争がわき上がる。
「ゆで卵を作る手間がかからない」「注文が入ってから焼くので手がかかるけど、やっぱり熱々が美味いしなぁ」など、その理由は諸説入り乱れている。
とはいえ「大阪らしい懐かしい味」と評する人もいれば、「厚焼きは京都の『コロナ』が発祥」「いや神戸にもあるで」「よう見かけるのはやっぱり大阪や」などと関西一円を巻き込んでの論争がわき上がる。
ビジネス街の地下で人気の
「野菜入り」がクセになる「純喫茶ヒロ」
昭和45(1970)年、大阪万博の年に出来た船場センタービルは、上には阪神高速道路、地下には大阪市営地下鉄中央線が走り、東西になんと1kmにわたって延びる超横長ビルだ。
▲恐竜が横に寝そべったような船場センタービルの外観。左から右に御堂筋が走る
繊維卸商などの物販店や近隣商社などが数多く入居し、地下には企業戦士たちがランチや仕事帰りに立ち寄る飲食店が実に多い。
繊維卸商などの物販店や近隣商社などが数多く入居し、地下には企業戦士たちがランチや仕事帰りに立ち寄る飲食店が実に多い。
▲1階は、質実剛健な問屋街のイメージ
地下1階にある「純喫茶ヒロ」は昭和42年(1967)に堺筋本町で創業したが、旧い喫茶店の居抜きで2002年にこの場所に移転した。たまごサンドは創業当時から人気商品だ。
地下1階にある「純喫茶ヒロ」は昭和42年(1967)に堺筋本町で創業したが、旧い喫茶店の居抜きで2002年にこの場所に移転した。たまごサンドは創業当時から人気商品だ。
▲飲食店が集まる地下1階にある
ご両親のお店を継いだ2代目・樋口仁美さんが作るたまごサンドは、一瞬ミックスサンド?となるが、これまた大阪のサービス精神の成せる技という野菜入り。
「テレビに出てた店よりウチの方が昔からやってた」とも。「某料亭の板長(いたちょう)さんも若手時代から来て食べてた」とは、先代が遺したエピソード。
ご両親のお店を継いだ2代目・樋口仁美さんが作るたまごサンドは、一瞬ミックスサンド?となるが、これまた大阪のサービス精神の成せる技という野菜入り。
「テレビに出てた店よりウチの方が昔からやってた」とも。「某料亭の板長(いたちょう)さんも若手時代から来て食べてた」とは、先代が遺したエピソード。
▲セットのドリンクはコーヒー、紅茶、ミルク、カフェオーレ、ソーダ、コーラから選べる
冷コー(れいこー=アイスコーヒー)、レスカ(レモンスカッシュ)が通じる昭和な喫茶店。自家製プリン(480円)など、スイーツでほっこりするOLさんに交じってオジサンたちも。
冷コー(れいこー=アイスコーヒー)、レスカ(レモンスカッシュ)が通じる昭和な喫茶店。自家製プリン(480円)など、スイーツでほっこりするOLさんに交じってオジサンたちも。
▲70年代に爆発的に流行った正統派「珈琲専門店」のたたずまい
「玉子サンド」は430円(ドリンクとのセット730円)。最初は玉子とキュウリだけだったのが、トマトも入れるようになった。それもまた「サービス精神」のため。
玉子3個をふんわり焼き上げてサンド。
ほんのり温かい玉子の熱で野菜がしんなりとなりつつあるところをパクッといこう。
「玉子サンド」は430円(ドリンクとのセット730円)。最初は玉子とキュウリだけだったのが、トマトも入れるようになった。それもまた「サービス精神」のため。
玉子3個をふんわり焼き上げてサンド。
ほんのり温かい玉子の熱で野菜がしんなりとなりつつあるところをパクッといこう。
▲黄・赤・緑の3色が顔をユルませ、「おいしい口」になる
コーヒー(380円)はサイフォン式でセミストロングといった濃さ。適度に濃くて(濃すぎない)旅行者たちの休息にもぴったり。オフィス街の中心だけあって、スポーツ紙も週刊誌も完備。
コーヒー(380円)はサイフォン式でセミストロングといった濃さ。適度に濃くて(濃すぎない)旅行者たちの休息にもぴったり。オフィス街の中心だけあって、スポーツ紙も週刊誌も完備。
▲カップの金の縁がまた純喫茶好きの心をくすぐる
ミックスジュース(530円)はバナナ、ミルク、パイナップル、白桃、リンゴ、オレンジと氷2個をミキサーにかけてある。粒感ほとんどなくスムースな喉越しと、これぞ喫茶店のミックスジュースという王道の味わい。
ミックスジュース(530円)はバナナ、ミルク、パイナップル、白桃、リンゴ、オレンジと氷2個をミキサーにかけてある。粒感ほとんどなくスムースな喉越しと、これぞ喫茶店のミックスジュースという王道の味わい。
▲これもまた、大阪の純喫茶らしい風景
※価格はすべて税込
※価格はすべて税込
純喫茶ヒロ
大阪府大阪市中央区船場中央4-1-10 船場センタービル10号館地下1階
[営業時間] 10:00~17:00(土曜12:00~16:00)
[定休日] 日曜・祝日
06-6252-8920
これぞ難波!のデラックス空間で和む
「純喫茶アメリカン」
昭和21(1946)年創業。ゴージャスでレトロな空間なのに、大阪の日常が垣間見える“グラン喫茶店”。「純喫茶アメリカン」は道頓堀通からも法善寺横丁からもすぐの、千日前筋のアーケードにある。
▲海外からの観光客で溢れる道頓堀通の千日前筋入り口。グリコやかに道楽、金龍ラーメンなど派手な看板が多い
入り口のショーケースにはパフェやケーキなどのサンプルも見える。
入り口のショーケースにはパフェやケーキなどのサンプルも見える。
▲紅い大理石の壁に筆記体で書かれたゴールドのサイン“American”がデラックス
入ってすぐ左手に階段、吹き抜けにあるのが大阪の派手なファッションにも通じるデラックスなシャンデリア。似たものが2つあり、年に一度掛け替えて、外したほうを洗浄する、という徹底ぶりだ。
入ってすぐ左手に階段、吹き抜けにあるのが大阪の派手なファッションにも通じるデラックスなシャンデリア。似たものが2つあり、年に一度掛け替えて、外したほうを洗浄する、という徹底ぶりだ。
▲大理石の曲線階段と巨大なレリーフ。大阪市の「生きた建築ミュージアム事業」50件の一つに選定された
「儲けは全て店につぎ込む」と創業者が言ったとか。つまりはお客さんに楽しんでもらってナンボ、のサービス精神がここにある。
「儲けは全て店につぎ込む」と創業者が言ったとか。つまりはお客さんに楽しんでもらってナンボ、のサービス精神がここにある。
▲桜やマホガニーなど多種類の板640枚を重ね合わせて削り出した、波打つ木の壁。40年ほど前の作品で、家1軒分の費用がかかったらしい
ゴージャスとはいえ、客層はいたって幅広い。観光ガイド本を広げる観光客や、カメラを提げた文化系のカップル、スポーツ新聞や『家庭画報』を広げるシルバーおひとり様、百貨店の袋をドカッと椅子に置いてホットケーキやパフェをつつくマダム、オムライスやカレーライスを食べる家族連れなどなど、来店客が大阪一バラエティ豊かな店かも。
ゴージャスとはいえ、客層はいたって幅広い。観光ガイド本を広げる観光客や、カメラを提げた文化系のカップル、スポーツ新聞や『家庭画報』を広げるシルバーおひとり様、百貨店の袋をドカッと椅子に置いてホットケーキやパフェをつつくマダム、オムライスやカレーライスを食べる家族連れなどなど、来店客が大阪一バラエティ豊かな店かも。
▲固過ぎず柔らか過ぎず、座り心地がまた絶妙のソファ
「玉子サンドウィッチ」(870円)も一人前たっぷりサイズ。
「玉子サンドウィッチ」(870円)も一人前たっぷりサイズ。
一見、しっかり焼かれているかのような玉子。とはいえフルフルとろりと柔らかく優しい味わいだ。
「お好みで塩をどうぞ」と制服姿のスタッフさん。これまた昭和レトロ×カワイイ文化が海外からの観光客にも受けている。
▲制服はだいたい2カ月に一度衣替え。年に6種類の制服を着ます
自家焙煎オリジナルブレンドのコーヒー(550円)は「ストロング」と言われるほど濃い。「ミナミの客にケチと思われたくないから濃くなった」という街の定説があるほど。実際は砂糖とミルクをたっぷり入れて仕上がるようにと濃くなった。その味を今も継承している。アイスコーヒーのほうが、氷が溶けてもいいように、よりビターな設定だ。
自家焙煎オリジナルブレンドのコーヒー(550円)は「ストロング」と言われるほど濃い。「ミナミの客にケチと思われたくないから濃くなった」という街の定説があるほど。実際は砂糖とミルクをたっぷり入れて仕上がるようにと濃くなった。その味を今も継承している。アイスコーヒーのほうが、氷が溶けてもいいように、よりビターな設定だ。
▲コーヒーにシャンデリアが映り込む「アメリカン」ならではの景色
ミックスジュース(720円)にはリンゴ、パイナップル、バナナなど6種類のフルーツが。粗めな感じがよりフルーツ感が強く、フレッシュでサラリと上品な味わい。
ミックスジュース(720円)にはリンゴ、パイナップル、バナナなど6種類のフルーツが。粗めな感じがよりフルーツ感が強く、フレッシュでサラリと上品な味わい。
▲「アメリカン」の内装にミックスジュースがよく映える
店内のショーケースにある、懐かしい味のふんわりホットケーキ(570円)も、「玉子サンドウィッチ」もテイクアウトできる。パッケージは昭和レトロ×クール。
店内のショーケースにある、懐かしい味のふんわりホットケーキ(570円)も、「玉子サンドウィッチ」もテイクアウトできる。パッケージは昭和レトロ×クール。
▲手で紐の持ち手をつまむとプラリと揺れる、昔ながらの土産の包み。星をちりばめた包装紙など、華やかな気分になります
▲70年間、大阪人をキュンとさせてきたショーケース。どのメニューもハズレなし
ここを出て右に二度曲がればすぐに法善寺横丁。まさに大阪の観光地がぎゅっと濃縮されたエリアだ。
ここを出て右に二度曲がればすぐに法善寺横丁。まさに大阪の観光地がぎゅっと濃縮されたエリアだ。
▲石畳は、半世紀近く前に姿を消した市電の線路の下に敷かれていたもの
▲石畳を抜けた先、水掛不動にはいつも人の姿が絶えない
※価格は税込
※価格は税込
純喫茶アメリカン
大阪府大阪市中央区道頓堀1-7-4
[営業時間]9:00~23:00(火曜は~22:30、祝日と祝前日除く)
[定休日]月3回木曜不定休
06-6211-2100
公園前のゆるカフェ「talo coffee」にて
極厚オムレツの大人味サンドを
東高津(ひがしこうづ)公園前の若いご夫婦が営む居心地のいいカフェ「talo coffee(タロコーヒー)」。
▲上り坂になっているのは、大阪独特の上町台地のため
こちらのたまごサンドは、店主いわく「付きっきりで焼かないといけない」ので、モーニングかランチタイム後に遅めの昼利用にどうぞ、ということ。
いいんです、ゆっくりティータイムに行って、このフルフルの感動と、公園ビューの明るく落ち着ける空間、時間を味わいたい。
こちらのたまごサンドは、店主いわく「付きっきりで焼かないといけない」ので、モーニングかランチタイム後に遅めの昼利用にどうぞ、ということ。
いいんです、ゆっくりティータイムに行って、このフルフルの感動と、公園ビューの明るく落ち着ける空間、時間を味わいたい。
▲お店からこんな景色が楽しめる
「厚焼きたまごサンド」(コーヒーか紅茶付き1,080円)は、何と卵を6個使った分厚いオムレツを挟む。バターを利かせて風味よく、コクもしっかり。
フワフワのパンにはマスタードマヨネーズが塗ってあり、ほどよい辛味が大人の味わい。かぶりつくと中から玉子がこぼれ落ちるほど。
「厚焼きたまごサンド」(コーヒーか紅茶付き1,080円)は、何と卵を6個使った分厚いオムレツを挟む。バターを利かせて風味よく、コクもしっかり。
フワフワのパンにはマスタードマヨネーズが塗ってあり、ほどよい辛味が大人の味わい。かぶりつくと中から玉子がこぼれ落ちるほど。
コーヒー(単品450円)は、ちょい深めのローストで香りしっかり。けれどもクセなくすんなり飲める今っぽいブレンドだ。
ゆったりとした店内は、ご近所の常連さんも多いご様子。のんびり新聞を読んだり、読書に耽ったりと、ほっこりできる雰囲気。
ここから東へ400mほど先に真田山公園がある。
このあたりは「大坂冬の陣」で真田幸村が活躍した古戦場だが、実際の「真田丸」(幸村が築いた出城)はお店からもう少し北にある大阪明星学園あたりと言われている。真っ直ぐ北へ進むと大阪城。真田ゆかりの史跡が点在するエリア。大河ドラマファンもここを拠点に聖地巡りといこう。
※価格はすべて税込
※価格はすべて税込
talo coffee
大阪府大阪市天王寺区東高津町3-10
[営業時間]7:00~19:00(たまごサンドの提供は11:00~14:00を除く)
[定休日]日曜、不定休
06-6765-7080
昭和の純喫茶「ヒロ」からゴージャスな大バコ「アメリカン」、そして今風のカフェ「talo coffee」と、世代も成り立ちもエリアも異なる場所で、厚焼きのたまごサンドが愛されている。
狭い大阪、1日で回ることもできるけれど、街の様子やお店の雰囲気を美味しいコーヒーやミックスジュースとともにゆっくり味わっていただきたいので、できれば3回に分けていこう。
そうすればきっと、大阪の街や店や人が持っているサービス精神や、「どうです?おいしいですやろ」な心の声が聞こえてくるはず。コテコテやベタベタだけが大阪ではない。各店主の「その『実』のところを味わってもらいたい」想いがたまごサンドから伝わって来る。
狭い大阪、1日で回ることもできるけれど、街の様子やお店の雰囲気を美味しいコーヒーやミックスジュースとともにゆっくり味わっていただきたいので、できれば3回に分けていこう。
そうすればきっと、大阪の街や店や人が持っているサービス精神や、「どうです?おいしいですやろ」な心の声が聞こえてくるはず。コテコテやベタベタだけが大阪ではない。各店主の「その『実』のところを味わってもらいたい」想いがたまごサンドから伝わって来る。
曽束政昭
フリーライター。京阪神を中心に、全国各地の地元うまいもんを訪ね歩いて取材する日々。著書に関西からの旅記事をまとめたムック『1泊5食』(京阪神エルマガジン社)など。スポーツ紙や週刊誌がある喫茶店好き。最近はカフェにも厚焼きたまごサンドが増えて嬉しい。
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