武田日向さん
桜庭です。
今日は、読者のみなさんにとても悲しいお知らせがあります。
『GOSICK』シリーズのもう一人の作者である漫画家の武田日向さんが、ご病気のため、今年1月にご逝去されました。
本日発売の「ドラゴンエイジ」6月号に訃報が掲載されています。
武田日向さんとは、小説家と絵師として、「ドラゴンマガジン」2004年1月号に載った最初の短編から、富士見ミステリー文庫版、「ファンタジアバトルロイヤル」連載、そして角川ビーンズ文庫版まで、一緒にゴシックワールドを創ってきました。
1巻の装画を受け取ったときの驚きを、いまも覚えています。
キャラクターの魅力と個性、図書館塔の空間把握。なんと密で大胆な絵か……!
2巻以降は、この作品にはこの絵があるという前提で、原稿を書くようになりました。
負けないようにとがんばって書くのですが、イラストはそれを軽々超えて、届き、届き、届き続けました。
そもそもですが、武田日向さんにイラストをお願いすることになったのは、担当K藤さんの慧眼のおかげでした。
1巻の原稿完成前のある日。「ヴィクトリカの絵はこの方に頼みたい!!!」と、武田さんの初コミックス『やえかのカルテ』を差し出されたのが、始まりです。
シリーズが始まってしばらく経ったころ。
4巻目の打ち合わせのとき、K藤さんが「ここまでモノクロの世界観を創ってきたけど、軌道に乗ったから、武田さんに好きな色を二つ足してもらおうと思うんだ」と言いました。
そして、しばらくのち。
武田さんから届いた装画にあったのは……。
鮮やかな紫と緑でした。
あぁ、凄く綺麗だと思いました。
わたしもゲラに手を入れてヴィクトリカのドレスを紫にしました。
武田さんとは幾度かお会いしたことがあります。
ご本人は、『異国迷路のクロワーゼ』のヒロイン、湯音(ゆね)ちゃんとよく似ていらっしゃいました。
小柄で、黒髪のボブで、一見線が細いが、真にしっかりしたものが隠されている……そんなふうに見えました。
そして…
最後にゴシックの絵を描いていただけたのは、2011年のことでした。
アニメ化されたとき(同じころ『異国迷路のクロワーゼ』もアニメ化されていました)、DVDの全巻収納ボックスのためにと、描き下ろしてくださいました。
ご体調が万全ではない中、渾身の力で完成させてくださったのだと、聞きました。
いま、胸の中を探すと、感謝と尊敬の気持ちしかみつからない。
それから、自分の文章を超えて広がってくる、あの凄い画力に対して……いまでも、強い喜びによる興奮と、畏れる気持ちが、同時に感じられます。
武田日向さんが産み出してくださった、ヴィクトリカの、一弥の、アブリルの、セシル先生の、グレヴィールの、瑠璃の姿が、読者のみなさんの中で、ずっと生き生きと動いて、泣いたり、笑ったり、仲良くなったりして、成長し続けてくれますように。
そして、やえかと芹奈(せりな)が、湯音が、クロードが、みなさんにずっとずっとずーっと愛されていますように!
最後に。
武田日向さん。
ありがとう。 ありがとう。 ありがとう…
桜庭一樹
武田日向さんのコミックス
『やえかのカルテ』(3巻)
『異国迷路のクロワーゼ』(2巻)
『狐とアトリ 武田日向短編集』