安倍昭恵が「秘書」と呼ぶ内閣事務官による財務省の口利きが「公務」ではないなら、本来の「公務」はどのようなものか。
その疑問を解消すべく開示請求を試みた際、「ファイルはしているが、誰が作成したかどうかの特定が難しい」という理由で、「総理夫人の公務遂行補助活動の支援として行った公務に関して総理夫人付が2015年11月に作成したすべての文書」とすることで、請求が受付られたことは既報した。
この時のやり取りで想像したのは、複数の夫人付の「公務」を入れた行政ファイルが存在しているということだった。
ところが、1カ月して「不開示決定」が来た。
理由は、「本件開示請求に係る行政文書を保有していないため(不存在)」となっていた。どういうことなのか。まずは担当課に電話で問い合わせた。以下Qは筆者、Aは内務総務官室職員である。
Q:不存在の理由は、作成していないからなのかなんなのか、理由をお聞かせいただけないでしょうか。
A:(保留の後)確認しましたところ「2015年11月17日に作成したすべての文書」ということでの開示請求だったんですけれども、保存期間が1年以上のものの文書は総理夫人付の方では作成していないということで、「不存在」ということで不開示決定ということにさせていただいているということです。
Q:そうすると1年未満のものは作成してあったという意味ですね。
A:はい、そうですね。
Q:そうすると1年未満のものを廃棄したということになりますが、そういうことですね。
A:はい。
Q:そうしましたら、廃棄した記録があると思うのですが、その廃棄簿を、これは取材としてご提供しただければと思っているんですが?
A:取材として、廃棄したものの記録簿みたいなことですか?それなんですけれども、1年未満の保存期間の文書については、内閣官房、内閣総務官室の決定として、「用済み廃棄」ということで文書の業務としての役目が終わり次第、随時廃棄ということで、特段、廃棄簿というものがあるわけではないのですが。
内規で「用済み廃棄」?
実は、情報公開法や公文書管理法に定めにはないが、行政文書を廃棄する場合は「廃棄簿」に記録するように、「行政文書の管理方策に関するガイドライン」や「行政文書の管理に関するガイドライン」などで定められている。
たとえば、まだ公文書管理法がなかった頃に、国会議員が道路建設に関する情報を要求し、国土交通官僚が「ない」と言い、「では廃棄簿を出せ」と言ったら、廃棄簿が出せずに、仕方なく要求した資料が出てきたという呆れたエピソードを取材したことがある。
「廃棄した」と言われた時に、少なくとも「廃棄簿を出せ」と言えば、ウソならバレ、本当ならタイトルなどから捨てたものの片鱗は見えるはずだと考えたのだが、1年未満なら廃棄簿すらないということは想定外だった。しかし、納得がいかない。
Q:1年未満の用済みの廃棄というやり方については、文書管理規則にありますか。
A:文書管理規則の他に、内閣総務官室が、その他については別に定めることになっているという定めがございまして、内閣総務官の決定で、1年未満の文書については用済み後、廃棄するというふうな規定がございます。
Q:規則の何条ですか?
A:「内閣官房行政管理規則」というものが、まずございまして、第19条というところで、「この規則の施行に関し必要な細則は、別に総括文書管理者が定める」とあります。それを受けて、公文書管理法施行令では1年未満について定めがなかったので、内閣官房として扱いを明確にするために決めた「総括文書管理者決定」というものがあります。
「総括文書管理者決定」で法の適用を絞り込み?
驚いた。公文書管理法は、「経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう」(第4条)に定めたはずだが、法律に基づいて定めた規則で管理の対象を勝手に絞り込み、さらに「総括文書管理者決定」なるルールで、「保存期間が1年未満の文書なら、用が済んだら廃棄していい」というルールを作ってしまっていたのだ。「総括文書管理者」とは内閣官房の場合、「内閣総務官」であると規則で定めている。
うがった見方をすれば、夫人付の公務、すなわち「安倍内閣総理大臣の夫人が内閣総理大臣の公務の遂行を補助することを支援」する公務について、知られたくなければ、保存期間が1年未満でしたと言い張ってしまえば、廃棄の記録すら出さなくてもいい。いや、実はもっとヒドイことも分かった。
廃棄しようがすまいが自由自在というルール
呆れながら、その「総括文書管理者決定」とやらを電話口で読み上げてもらって書きとった。以下のように書かれていると言う。
内閣官房が保有する保存期間1年未満の行政文書ファイル等の取扱いについて
内閣官房行政文書管理規則(平成23年4月1日内閣総理大臣決定)第19条に基づき、下記の通り決定する。
記
内閣官房が保有する行政文書ファイル等のうち、保存期間が1年未満のものについては、当該行政文書ファイル等を作成し、または取得した日を保存期間の起算日とし、その使用目的終了後、遅滞なく廃棄するものとする。
ただし、当該行政文書ファイル等の使用目的終了後、これを保有することについて、合理的な理由があるときは、この限りではない。
つまり、面倒な文書は、「保存期間1年未満の行政文書ファイル」に放り込んでおけば、廃棄しようがすまいが自由自在というなんとも便利なルールではないか。しかも、これは「内規」だと言い、法律や規則と違い、ウェブサイトで公表されていない。
若い声の「内務総務官室職員」に、開示文書を取りに行く際に、(1)その「総括文書管理者決定」を下さい。(2)記録が残っていないのなら、実際にどんな公務をやっていたのか、記憶を取材したいので、谷さん、または現役の夫人付職員に取材させてください、と頼んで、電話を置いた。「検討して可能かどうか含めてお返事します」というのが回答だった。
果たして午後、開示文書を受け取りに出向いた際、職員に返事を求めると(1)については予想通り、「総括文書管理者決定は内規なので出せない。必要なら開示請求をしてください」、(2)については、取材は新聞社なども含めて一律にお断りしていると言う。
内閣官房がルールを作ったのは財務局が開示請求を受けた月
「内規は、法律や規則と同等なんだから出すべきですよ。そうじゃないと、今日のことを想定問答して、昨日作ったものかもしれないと疑われますよ。いつ作成したものですか」と問うと、「おっしゃることは分かりますが、平成28年9月1日に作成したものです」と言う。「なぜ去年9月なんですか」と詰めると「なかったからです」と空虚な答えが返ってきた。ずっとなかったものを突然、昨年9月に作ったというのである。
しかし、昨年9月とは、実は、朝日新聞が報じたように、豊中市議が財務局に情報開示請求を行った月でもある。
今回の開示請求で分かったのは、国民の税金を使って5人もの夫人付を配属しながら、その5人の「安倍内閣総理大臣の夫人が内閣総理大臣の公務の遂行を補助することを支援」する活動を裏付ける記録が何もない。それは保存期間が1年未満の文書は廃棄してもしなくても自由自在で、その記録すら残さなくてもいいことを、昨年9月に決めたからだ。そして、それを補うための記憶を取材させる気もない。
ここまでの取材から、こんなことを想像せざるを得ない。夫人付の「行政文書ファイル」は存在し、谷FAXも籠池氏の「封書」を含めて、何も廃棄されておらず、菅官房長官らはその中から、籠池氏の証人喚問で存在がバレたものについて、無関係を証明できるものだけを取り出して説明した。「総括文書管理者決定」なる内規に基づいて管理しておけば、何があっても万全である。内部告発がない限りは・・・。
「行政文書」が政権の言動で「行政文書」になったりならなかったりする事実を既報したが、同様に、公文書管理法も運用次第でどうにでもなることが、明らかになった。その穴を埋める改正が必要である。
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