職場に、産休に入る女性スタッフがいるのですが、今日が産休前の最後の出勤日でした。
皆から祝福されて帰ったのですが、帰る方向が同じなので、途中まで一緒に電車で帰っていました。
別れてからは、いつものように電車の中で本を読んでいたのですが、偶然出産に関する事柄が書かれている部分がありました。
今回は、子安貝と竜の落とし子について書いてみます。
『世間胸算用』
読んでいた本は、井原西鶴の『世間胸算用』でした。
江戸時代の庶民が、大晦日の1日を過ごす姿を描いた創作物語です。
特に商人の話が面白くて、掛け売りした代金を大晦日が終わるまでにどうやって回収するか、といった駆け引きがリアルに書かれています。
この本の中に、江戸時代の出産の様子が書かれていました。
今朝から産気づいたので、早手回しに準備している。
乳母を連れてくるやら、3人4人と産婆がくるし、山伏が来て変生男子の祈祷をする。
岩田帯、子安貝、竜の落とし子も調達してくるかと思えば、かかりけの医者は鍋を仕掛け、早目薬(陣痛促進剤)を用意する。
何に使うやら松茸の石突まで取り寄せて、姑がきて世話を焼く。
さてさてうるさいことよ。
変生男子(へんじょうなんし)の祈祷
この中で気になったのが、山伏が行った変生男子(へんじょうなんし)の祈祷です。
調べてみたら、これは胎児が女の子だった場合、男の子に変化して生まれてくるように祈る祈祷のことでした。
当時、武家や商家では跡継ぎがいない家は取り潰されることもありました。
そのため、こうした祈祷が流行したんだと思います。
子安貝と竜の落とし子
もう1か所気になったのが、岩田帯と子安貝と竜の落とし子を調達してくるという部分です。
岩田帯については、先日帯祝いに関する記事を書いたことがありました。
子安貝と竜の落とし子の意味を調べてみたら、これもまじないの意味があるようでした。
子安貝
子安貝というのは、タカラガイを指す方言とされています。
古代から、世界中で貝殻は貨幣として用いられてきました。
貝殻が貨幣として使われていた最古のものは、中国殷王朝時代のものが残されています。
現在も、ガーナで使われている通貨・セディ(cedi)という単位は、現地の言葉でタカラガイの貝殻という意味になります。
タカラガイの貝殻は、様々な象徴とされてきました。
富、繁栄、女性、誕生の意味を持っているとされ、装身具やお守りとして使われてきました。
これは、貝殻の形が妊婦のお腹の形に似ていることに由来しているようです。
竜の落とし子
竜の落とし子も、世界中で縁起の良い生き物だと考えられてきました。
その理由は、まず見た目にあります。
竜のような形をしていることから、中国や日本では縁起が良いとされてきました。
また、メスが卵をオスに預け、オスのお腹の中で大事に育てるという不思議な生態を持っています。
竜の落とし子は、生涯パートナーを変えず、何度も出産します。
しかも、1回で1000匹以上出産することもあります。
こうしたことから、竜の落とし子は「縁結び」「夫婦円満」「安産」「子宝」の御利益があると考えられてきました。
大名より子安婆が優先?
江戸時代の川柳に
「大名を胴切りにする子安婆」
というものがあります。
子安婆というのは、今でいう助産師のことです。
「取上婆」とも呼ばれていました。
江戸時代、庶民が大名行列の途中を横切ったりすると、厳罰に処せられるのが当たり前でした。
でも、子安婆だけは、大名行列を横断することが許されていました。
出産は命に関わることであり、一刻を争うことも多かったからだとされています。
江戸時代の出産
江戸時代、産婦は座ったまま出産するのが一般的でした。
当時は、横臥して出産すると、頭に血がのぼって死ぬと考えられていたそうです。
そのため、産婦は座った姿勢で、天井から吊るした産綱にしがみつき、腰を浮かせて出産していました。
子安婆は、出産の間は産婦を後ろから支えていました。
現在のように医療が発達していなかった時代なので、出産で命を落とす産婦や胎児も多かったそうです。
無事に子どもが生まれるかどうか、いざ出産が始まると、家族も不安で落ち着かない時間を過ごしていました。
そのため、
「取上婆屏風を出ると取り巻かれ」
なんて川柳も流行していたそうです。
参考文献
タカラガイ―生きている海の宝石 日本と世界のタカラガイ207種 (ネイチャーウォッチングガイドブック)