中国の習近平国家主席が掲げる広域経済圏構想「一帯一路」に対する投資は昨年、複数の指標からみて減少した。経済利益の追求と地政学上の戦略という意味を併せ持つ「新シルクロード」に営利企業が肩入れしようとしているのか、疑問を投げかけるデータだ。
今週末、28カ国の首脳が北京に集い、習氏が2013年に打ち出した「シルクロード経済圏」と「21世紀海上シルクロード」構想の「定義と始動」について協議する。
構想の中心は、道路、鉄道、港湾、発電所、石油・ガスパイプラインで中国と東南・中央アジア、中東、アフリカ、欧州を結ぶネットワークの構築だ。
この構想は中国の経済外交の中核となり、時に異様なまでの積極的なプロパガンダ(宣伝活動)が繰り広げられている。だが、それが実体以上の誇大な宣伝であることを示唆するデータが出てきている。
■沿線国家への直接投資、大幅な減少
中国商務省のデータによると、一帯一路の沿線国家に対する中国からの直接投資は昨年、前年比で2%減少し、今年は現時点で18%減となっている。沿線53カ国に対する昨年の金融を除く直接投資は総額145億ドルで、対外投資全体のわずか9%だった。
しかもこの投資の減少は、中国の対外直接投資が前年と比べて40%も増え、過去最高を更新する状況の中で起きた。中国当局が資本流出を止めるために対外取引の制限に動いたほどだ。
投資先の国別内訳は、投資のどれだけがインフラに流れ込んだのかという疑問を抱かせる。昨年、一帯一路の沿線諸国のなかで最大の投資を受けたのは、すでに高水準のインフラを持つ高所得国のシンガポールだ。
「大きな投資、特に外国への大きな投資は、毎年数字が増えるとは限らないことを意味する」と、国有企業の国外での活動を監督する国務院国有資産監督管理委員会の肖亜慶主任は言う。「毎年の増え方ではなく、投資と事業そのものの進展を見てほしい。長期的には、一帯一路の沿線諸国への投資は増えると信じている」
肖氏は、47社の中央政府直轄企業が一帯一路の沿線諸国で合計1676件の事業に関与しているという数字を示した。
■国有企業幹部の一部に不満くすぶる
一部の銀行幹部や国有企業は、一帯一路の構想で政府から不採算事業を引き受けるよう迫られていることに不満をくすぶらせている。
「多くの国有企業が『やりたくないが国にやらされている』という考え方に凝り固まっている」と、最近退任した大手国有企業の元幹部は言う。「だが、国有企業のままでいたいのではないのか。国有企業であるがゆえの恩恵を数え上げてみたことがあるのか」
直接投資に加え、銀行による対外融資も重要な一部分だ。だが、開発融資を手がける中国の3つの国有銀行のなかで最も大きい中国国家開発銀行のウェブサイトによると、同行の貸出残高は15年末の1110億ドルから16年末の1100億ドルへと減少している。
中国国家開発銀行の対外融資に占める一帯一路の沿線諸国の割合は、14年末の41%をピークに16年末時点で33%まで下がっている。同行は取材の質問に返答しなかった。
だが、北京の中国人民大学重陽金融研究院の賈晋京・首席研究員は、中国の対外直接投資の多くは第三国を経由しており、単純な統計は一帯一路の投資の指標として信頼できないと話す。
「一帯一路を評価するには、その合意覚書に署名した国の数や、このたびの会議に参加する各国首脳や要人の数、代表団の規模を見なければならない。これが最も重要なことだ」と、賈氏は語った。
By Gabriel Wildau & Ma Nan
(2017年5月12日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)
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