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 国民の目と耳から遠いところで、米軍と自衛隊の一体化が進み、国会の監視も機能しない。そんな安全保障関連法の欠陥が改めてあらわになった。

 米軍の艦船を海上自衛隊が守る「武器等防護」が初めて実施された。安保法で付与された、米艦防護と呼ばれる任務だ。

 初の実施が報道機関の取材で明らかになった後も、政府はその事実を公表していない。

 安倍首相は一昨年、安保法案の国会審議で、米艦防護についてこう約束したはずである。

 「国会及び国民に対する説明責任を果たすため、可能な限り最大限の情報を開示し、丁寧に説明する考えだ」

 しかし8日の衆院予算委員会で首相は、その考えを繰り返しながら「米軍等の活動への影響や相手方との関係もあり、実施の逐一について答えは差し控えたい」と前言を翻した。

 法案審議の過程で国会と国民に誓った「丁寧な説明」を、法成立後はあっさり反故(ほご)にする。ご都合主義が過ぎないか。

 安保法は米艦防護を実施するかどうかの判断を、防衛相に委ねている。国会報告は必要とされておらず、昨年末に政府が決めた運用指針によると、速やかに公表するのは「警護の実施中に特異な事象が発生した場合」などに限られている。

 米艦防護には地理的制約がない。自衛隊を世界中で活動させることが可能なのに、情報公開の制度も、国会が関与する仕組みも決定的に足りない。

 政府の恣意(しい)的な判断の余地があまりに広く、実効性のある歯止めを欠く現状は、早急に正さねばならない。

 このままでは国会も国民も知らないうちに、海自の艦艇が海外に派遣されて米艦を護衛し、ある時突然、戦闘状態に入ったと発表される――。そんな事態も起こらないとは言えない。

 国会の関与強化については一昨年、政府与党が当時の新党改革など野党3党の要望を受け入れ、安保法への賛成をとりつけた経緯がある。

 その際の合意は、安保法に基づく自衛隊の活動継続中の常時監視や、終了後の事後検証のため、(1)適時適切に所管の委員会などで審査を行うこと(2)国会の組織のあり方について、法成立後に各党間で検討し結論を得ることをうたった。

 だが、この合意は今も実現していない。法成立までの、政府与党の方便だったのか。

 現状は、自衛隊への民主的統制の不全を映し出す。憲法9条改正論の前に、安保法を正す議論が必要だ。

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