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2017.05.12

韓国大党選挙雑感

 韓国大党選挙については、事前の世論調査から文在寅氏が圧勝することは想定されていたので、その点から言えば、ほとんど関心を持たなかった。また文氏は、昨年8月にその前段階として竹島訪問をしていたので、対日的な考えもそこから類推できる。その点でもあまり考察するべきことはなさそうである。では、なんの関心もないのかというと、そうでもなかった。
 圧勝ではあるが、その内実については意外に興味深かった。当選した共に民主党の文在寅氏が1342万3800票(得票率41.08%)、自由韓国党(旧セヌリ党)の洪準杓氏が785万2849票(24.03%)、国民の党の安哲秀氏が699万8342票(21.41%)となり、洪氏と安氏を合わせて仮にこれを反文氏として見ると、45.44%対41.08%として、文氏が劣る。単純に、文氏への国民的な支持はそれほど高くなさそうだ。さらに全体として見れば、六割ほどの韓国民は文氏を支持していないともいえる。また背景として投票率もあるが、1.4%増で多かったとは言えるものの、社会変動がうかがえるというほどでもない。
 加えて、これも当然の帰結なのだが、文氏の共に民主党は現状第1党だが、現総議席数299中119と過半数に満たず、首相就任にも野党協力が必要になる。だが反保守の建前から自由韓国党との妥協は難しく、40議席を持つ国民の党と妥協になるだろうと早々に想定されるなか、国民の党の李洛淵氏が首相候補となった。李氏は東亜日報の東京特派員として駐日経験もあり、政治家として韓日議員連盟の幹事長を務めたことから、日本では知日派として期待する向きがある。が、この「知日派」というのは実質的には経済面に限定されると見てよいだろう。
 組閣後の政府としてはどうなるかだが、おそらく自由韓国党が議会に一定の力を持ちづけるので不安定な状態になるのではないかと思う。これは同時に、文氏に投票した層からの離反の懸念もあるだろう。ただし、国際世界が懸念している軍事面では、すでにTHAAD問題が片付いているので大きな変化はないのではないか。あとは、北朝鮮が無用な挑発をしなければ温和に推移する可能性はある。
 他面今回の選挙では、韓国の世代間の分裂が見られるだろうと予想していたが、蓋を開けてみると、これはかなりすごいなと思えた。見やすいまとめとして中央日報報道を借りた中国報道のグラフで示す。

 洪氏の追い上げの最終数値の差はあるようだが、それでも世代間傾向として大きな差はないだろうし、KBSなどで見た他ソースとも概ね合っていたのでこれを元にすると、30代、40代が圧倒的に文氏を支持していることがわかり、60代以降でその傾向が逆転する。これをどう見るかだが、まず、若い世代と老いた世代の対立という構図で見やすい。しかし、KBSでも指摘されていたが、若い世代に着目する前に50代で文氏と安氏の支持が拮抗している点のほうが興味深いだろう。その意味合いだが、韓国経済の実質的なビジネスの中心層はそれほど文氏に期待してないのではないだろうか。このことは、文氏の経済面での公約にも関連する。
 文氏は、深刻な若者の雇用問題について、「公共部門で81万人分の雇用を創出する」という公約を打ち出している。また民間では50万人の雇用創出としている。これは、どうやら現状の130万人と言われる失業から逆算した数値らしく、またその数値からさらに公約実現に年平均35兆6000億ウォン(約3兆6000億円)、5年で178兆ウォン(約18兆円)を算出したようだ(参照)。額で見ると、昨年の韓国の予算が386兆7000億ウォン(約38兆円)なのでその十分の一をつぎ込むことになる。それが可能かどうか、有効なのかどうかは私には判断できない。だが、こうした雇用面の公約がいわゆる三放世代からの支持を受けて今回の世代間断絶にもつながっているのだろう。そして50代以降のビジネス経験の層からは懐疑的に見られているのだろう。
 60代以降で文氏の支持の反転で興味深いのは自由韓国党(旧セヌリ党)の洪準杓氏の支持が目立つことでこれは、この図にはないが70代ではさらに広がっていた。60代以降というと、ネットの世代からすると老人層だと思うのも当然だし、私などもそう思うのだが、気がつくとこの私はこの夏60歳になり、この層に近い。
 私は、朴正煕が1961年の軍事クーデターで国家再建最高会議議長に就任したときの記憶はさすがにないが、1973年の金大中事件や1979年の朴大統領暗殺はよく覚えている。翌年の光州事件も覚えている。この事件は民主化運動だったが、北朝鮮関与がささやかれた(歪曲である)。直接的な影響ではないものの、朝鮮戦争後の緊張した体制が韓国国家のあり方をずっと引きずってきた、あの空気を生きた世代である。こうした歴史経験を保持しているのが、どうやはら60代になってきたのである。あるいは、民主化が開花した達成のようでありながら、その渦中にいた年代から見えにくい韓国国家がしだいに生まれつつあるのかもしれない。

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