「クロマグロ とりすぎを防げ」(くらし☆解説)
2017年05月12日 (金)
合瀬 宏毅 解説委員
今日のくらし解説「クロマグロ 獲りすぎを防げ」という話題です。担当は合瀬宏毅(おおせひろき)解説委員です。
【クロマグロといえば、高級魚ですが獲りすぎているのでしょうか?】
そうなんです。日本近海を含める太平洋のクロマグロは、資源量が過去最低水準にあると言われ、資源の回復が強く求められている。そこで国際機関は2014年に、資源回復のために特に重要とされる30キロ未満の幼魚のクロマグロについて、各国が漁獲量を過去の半分にすることを合意し、日本は年間4007トンとする漁獲量を受け入れた。
ところが6月までの漁期を2ヶ月近く残して、4008トンと先月末、日本は漁獲枠を突破してしまった。
【突破してしまったのですか?】
そうです。日本はクロマグロの世界一の消費国で、資源管理には率先的に取り組まなければならない立場にある。ところがその日本が、国際約束を守れないとなると、海外から強い非難を受ける恐れがある。しかも突破した分だけ、来年度の漁獲量を減らされますし、資源が少なくなれば消費者としても困りますよね。
【なぜ突破したのですか?】
もちろん、国としても努力してきました。国は漁業区を6つに分け、漁区や漁法ごとに漁獲量を振り分け、上限を超えないように呼びかけてはいた。そしてそれぞれの区域で漁獲枠の80%を超えたら警報、95%となったら、漁を止めるよう操業自粛を出して、上限を超えないように注意を促していた。
ところが国の許可を得ないで漁を行ったり、漁獲量を報告せずに漁業を行う違反が頻発したりした。というのも、今年はマグロが沢山居るというのです。
【マグロが沢山いるのか?】
はい。実はクロマグロは資源の変動が大きい魚で、年によっては沢山捕れることがある。今回がまさにそうで、幼魚の回遊がここ数年になく多かったと漁業関係者は言います。
ただ、だからといって捕ってしまえば、資源管理にはならない。そこでいまクロマグロを「獲らない工夫」が求められている。
【どんな工夫なのでしょうか?】
特に定置網での取り組みです。ここは青森県の日本海側、深浦町。定置網による漁が盛んな地域で、クロマグロの他、鮭やブリなどを狙った漁が行われています。
【これがクロマグロですか?】
15キロほどの幼魚ですね。クロマグロと言えば一本釣りが有名ですが、実は国内で獲れるクロマグロ幼魚の30%近くは定置網で漁獲されている。定置網も漁業規制の対象ですが、定置網は待って獲る漁ですから、様々な魚がかかり、特定の魚だけを除外して獲ることは不可能です。
【確かにいろいろな魚がいますね。】
とはいっても、上限以上に、クロマグロを捕るわけにはいきません。そこで定置網の中にカメラを取り付け、クロマグロだけを逃がすことが出来ないのか、東京海洋大学や水産庁の研究所などが調査を進めている。網の中での魚の動きを知れば、特定の魚だけを逃すこともできると言うわけです。
調査チームがとった映像には、網の中でクロマグロが群れになって泳いでいる様子が分かります。
【こんな風に泳いでいるのですね。】
こうした観察の結果、次のようなことがわかった。定置網は手前から魚が入り、奥へと進むようになる構造になっている。漁師は奥に追い詰められた魚を揚げる仕組みです。水中カメラで見た結果、例えば一緒に入っていたぶりが網の底を泳ぐのに対し、クロマグロは表面を泳ぐ。またブリがいったん奥に入ったらそこにとどまるのに比べ、クロマグロは入り口の網に戻るなど活発に泳ぐ傾向があるということが見て取れた。
【同じ魚でもブリとクロマグロとでは、行動にずいぶん違いがありますね。】
そうですね。ですから例えば、網の上部に逃げ口を作ってあげれば、映像のようにクロマグロが網の外に出ることが出来る。
【クロマグロがどんどん外に出て行っていますね。】
定置網はこれまで、クロマグロの漁獲量が上限になったら、それ以外を狙っていたとしても網を引き上げるなどして、漁を休まざるを得なかった。特定の魚種を逃がせるような仕組みが出来れば、漁を続けることができるようになる。
研究を統括する東京海洋大学の秋山清二准教授は「こうした取り組みで、定置網漁業を継続することが出来、一方でクロマグロの資源保護し、魚の安定的な供給が実現できる」と話している。
【ただ、魚を捕るための定置網なのに、逃がすのは、漁師の人たちも残念でしょうね。】
そうかもしれませんが、国際的に約束した以上、これは守らざるを得ない。それだけ厳しいと言うことですが、それは一本釣りなどでも同様です。
今回、例えば長崎県で許可を得ていない船がクロマグロを捕ったり、クロマグロなのに他の魚としてごまかした。また操業自粛中なのに、報告せずにクロマグロを捕ったりしていた事例が三重県など全国9県で、みつかっています。こうした事例が頻発するようでは、まじめにやっている人は報われません。
【どうしてそうしたことが起きるのか?】
国内対策は漁業関係者の自主的なルールに任せていたことが大きいと水産庁では見ています。このため水産庁は法律を改正し、許可を得ないでクロマグロを漁獲したり、漁獲量を報告せずに操業したりした業者について、来年から、3年以下の懲役または200万円以下の罰金を科すことにしている。
【規制をまもることで将来的にクロマグロは増えていくのか?】
国際機関はそう考えている。これは卵を産む太平洋クロマグロの親魚の数の推移です。かつては10万トン以上いた親魚は、日本などが親魚になる前に捕りすぎたことなどから、右肩下がりに少なくなり、現在は1万7000トンと歴史的な低水準になっている。
国際機関としては、これを2024年までに4万1000トンにまで増やすことを目標にしており、そのためにも30キロ以下の幼魚を保護する必要がある。漁獲量半減はそのための措置です。この措置を続ければ、2024年には目標は達するとされている。
【それだったら、漁師の人たちも漁獲枠を守らなければなりませんよね。】
そうなのです。漁業関係者もここで少し我慢すれば、クロマグロの資源は復活し、日本近海でも大型のクロマグロを、沢山捕ることが出来るようになるかもしれません。獲れるからと言って、ここで獲りすぎればせっかく増えてきた親魚を、再び減らすことにもなりかねない。それは漁業関係者だけでなく、私たち消費者にとっても困ることです。
クロマグロに対する日本の資源管理については、海外から厳しい目が向けられており、水産庁としても、国内の資源管理について厳しく対応せざるを得ません。
様々な工夫をして、資源を持続的に使えるようにしてもらいたいと思いますね。
(合瀬 宏毅 解説委員)