クローズアップ現代

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No.12382000年4月4日(火)放送
対話は進むか ~日朝交渉きょう再開~

対話は進むか ~日朝交渉きょう再開~

検証 日朝交渉再開

日本と北朝鮮との国交正常化交渉は91年から2年間にわたって行われました。
しかし、大韓航空機事件の犯人に日本語を教えたとされる日本人女性の問題で交渉は紛糾しました。
そして、北朝鮮は協議を一方的に打ち切りました。

当時 日朝交渉を担当した 中平立元大使
「向こうはもう徹底的に否定してですね、そういう問題は絶対にやりたくないという基本姿勢だったと思います。
よその国と非常に違うので、それに対応するためには忍耐を持ってですね、やっていくしかないと。」

日本政府は8回にわたる交渉で、北朝鮮との対話の難しさを知ることになりました。
交渉中断から2年余り。
北朝鮮の食糧不足がきっかけとなって、交渉再開に向けた動きが出てきました。
干ばつや水害で深刻な被害を受けた北朝鮮に対して、人道上の理由から日本は3年続けて食糧支援を実施しました。

そして97年8月、国交正常化交渉の再開に向けた予備会談が開かれました。
北朝鮮に渡った、いわゆる日本人妻の里帰りも実現しました。
ところがこの年、新潟市で行方不明になった横田めぐみさんが、北朝鮮によって拉致されたのではないかという疑惑が浮上しました。
拉致疑惑が解明しなければ、国交正常化交渉は進めるべきではないという声が高まります。
これに対して北朝鮮側は、行方不明者として調査はしたものの、該当する日本人はいなかったと発表しました。
正常化交渉へ向けた動きは、拉致問題で再び暗礁に乗り上げます。

当時 予備交渉を担当した 槇田邦彦外務省アジア局長
「我が国の国内にも、いわゆる拉致問題を巡っての世論の効果ということがあったでしょうから、雰囲気としてなかなかそこまで政府として踏み込むことが出来なかったということが1つの原因ではなかったかと思います。」

さらに一昨年の8月。
北朝鮮は弾道ミサイル・テポドンを発射。
日本は直ちに食糧支援や国交正常化交渉を見合わせるという厳しい制裁措置を決定しました。
日本が再び北朝鮮との対話を始めようとするきっかけとなったのは、アメリカと韓国の対北朝鮮政策でした。
日米韓3国がミサイルなどの脅威には連携して対応し、一方で対話も呼びかけようという政策で一致したのです。

野中広務官房長官(当時)
「朝鮮民主主義人民共和国と今日のような対立関係にあることは、決して将来の我が国の平和と安全にとって有効なことではないと考えておりましただけに、米国のこういう提案なり、あるいは隣国であります韓国からもですね、それなりに日本が前向きに対応するようなメッセージも伝わってまいりましたので、対話と抑止を積極的にやっていきたいというような立場をとってまいりました。」

去年(1999年)9月、アメリカは北朝鮮への経済制裁の緩和を決定しました。
その見返りに北朝鮮は、協議が続く間はミサイル発射を見合わせると表明しました。
日朝関係も動き出しました。
去年12月、村山元総理を団長とする国会議員団が北朝鮮を訪問しました。
北朝鮮側との会談で、国交正常化交渉の再開を政府に促すこと。
拉致問題は赤十字で人道問題として協議することで合意しました。

訪朝団団長 村山富市元首相
「20世紀に起こった問題はね、20世紀のうちに何とか目処を立てるというのが我々の責任ではないかと。
両国だけの問題ではなくてね、朝鮮半島全体の平和と安定のために役立つことになるしね。
とりわけ北東アジア全体のだね、平和のためにもね、大変大きなやっぱり意義があることですからね。」

訪朝団幹事長 野中広務自民党幹事長代理
「国交正常化のための話し合いを行い、あわせて赤十字間における人道上の話し合いを行い、そういうそ上にいわゆる拉致を含めた問題を乗せて、そしてお互いが心のひだに触れるような話し合いと誠意を示すことによって、こういう問題を解決出来る道筋を私は開けることが出来るんだと。
お互いに前提を置いていては、なかなか難しい問題だと。」

先月(3月)、政府は国際機関を通じた10万トンのコメ支援の再開を決定しました。
こうして、7年5か月ぶりの国交正常化交渉再開が決まったのです。

ゲスト河野洋平さん(外務大臣)

●日朝交渉は予定通り行われるか?

はい。
今日、もう交渉団はピョンヤンに入っていると思います。
会談は明日から恐らく開くことになると思いますね。


●日本側は北朝鮮との対話を重視する姿勢に方針転換した?

その通りだと思います。
それはとにかく戦後50年を超えてですね、日本周辺に国交が正常でない状況の2つの国、このまま置いておいてはいけないと。
何としてもきちんとした話し合いで国交を正常化したいと。
こういう気持ちが私、あるいは内閣全体にございまして、この機会にぜひ国交正常化のための会談を開きたいと、こう考えたわけです。
今、ビデオにもありましたように、元総理大臣の村山さんまで行かれてですね、この会談の環境を整えてくださいました。
そうしたことからこの会談は出来ることになったと思います。
この会談を通じて、いろいろな問題を話し合いによって解決をしようというのが私どもの気持ちでございます。

●より良い結果が期待出来るような、北朝鮮の姿勢の変化は見られるのか?

これは大変厳しいと思います。
アメリカと北朝鮮の対話も非常に厳しい状況ですね。
なかなかどこの国も大変難しい相手だと思っているし、我々にもそう忠告をしてくれています。
ただ、最近、北朝鮮がですね、国際的に非常に積極的に外交を展開していると。
イタリアともやりカナダともやり、そういった状況を見るとですね、私どもも話し合いを進める勇気がわいてきたということはあると思います。

●積極的な経済協力と支援 韓国・アメリカの姿勢と歩調を合わせた?

その通りです。
これはアメリカ・韓国・日本、3国が政策を練り上げてですね、調整をしながら今度の会談に臨んでいます。
これは日本だけではなくて、アメリカが北朝鮮と会談をする時にもそういうことですし、韓国も大体そんな方針で臨んでいます。

拉致疑惑 家族の思い

男性
「日朝交渉の前提として、拉致問題解決を断固貫け!」

先月7日、北朝鮮に対するコメの支援が発表された日、拉致問題の家族らが抗議運動を行いました。
横田滋さんと早紀江さん。
23年前に当時中学1年生だった娘のめぐみさんが姿を消しました。

横田早紀江さん
「いつまでこのように悲しい思いをしなければならないのですか。
心があるなら、日本の子どものことを思って考えてください。」


昭和52年11月15日。
横田めぐみさんは下校途中に行方不明になりました。
何の手がかりも見つからないまま20年が過ぎ、ようやく北朝鮮にいる可能性があるという情報を家族が知ったのは平成9年のことでした。

韓国に亡命した北朝鮮の元工作員とされるアン・ミョンジン氏。
アン氏は北朝鮮でめぐみさんを見たと証言すると共に、当時の上官から日本で拉致してきたという話を聞いたと証言しています。

横田早紀江さん
「いやあ、生きてたのっていう感じで、良かったねって言って、本当にもうすごくうれしかったんですけれども、やはりちょっと国が国ですので、いやあ、だけど本当にどうしているのかなって、今度また不安な感じがすごく持ち上がってきまして。」

これまで日本政府が北朝鮮による拉致の疑いがあるとしている事案は7件、10人。
そして昭和53年に富山で起きた1件の未遂事件です。
警察の調べでは、この事件は男女の若いアベックが海水浴を終え、車に戻る途中に4人組の男に襲われたものです。
防風林の中を歩いていたアベックは、猿ぐつわをはめられた上、ひもで縛られ、寝袋のような袋に入れられました。
しかし、犯人は2人を置き去りにしたまま消え去りました。
襲われた男性は近くの民家に助けを求めました。

110番通報した人
「黒い、うーん、ゴミ袋のでっかいやつ、人間が入るくらいの。
本当にこんな感じで、もう本当に真っ黒いスポンと被せられて、足縛られてたから跳んできたんですよね。」

犯行に使われた猿ぐつわなどは、その後の調査でも日本国内での製造元が特定できませんでした。

警察庁 内山田邦夫外事課長
「一連の事件は未遂事件を含めまして、昭和52年から55年ごろに発生した事件ということでございますが、裏付け捜査、関係者の供述と、いろんな形で捜査をいたしまして、それを総合的に分析した結果、北朝鮮による拉致容疑事件という判断に至っております。」

富山の事件と同じ頃、日本海側を中心に3組のアベックが立て続けに行方不明になっています。
昭和53年7月、新潟県柏崎市で蓮池薫さん20歳(当時)と、奥土祐木子さん22歳(当時)が行方不明になりました。


2人の待ち合わせ場所だった図書館で、蓮池さんの自転車が発見された以外、何の手がかりも見つかっていません。
本当に子どもと再会出来るのか。
蓮池さんの両親の不安は時がたつにつれ大きくなっています。

蓮池ハツイさん
「この顔を見ていて、ああ、今ごろはどんな顔して、どんな顔になったのかなっていつも思うんです。
そして同級生とかそういう方を見ますとね、ああ、あの子がいたらもうこんなになったのになと思うと、本当に胸が詰まります。
ただ、どこで何してるか、生きているのか死んでるか、それだけでいいんです。
知りたいんです。
もう私たちも年をとってきていますしね、先もないですし。
本当に死ぬまで1度でいいから、本当にあの子の声が聞きたい、顔が見たい。
それだけですね。」

蓮池秀量さん
「我々家族のことよりも、相手国のことを何か考えるみたいな感じがして、どうしようもないんです。
なぜそういうのかなって。
その辺がなかなか私たち分かりませんし、歯がゆくて歯がゆくてどうしようもありません。」

横田早紀江さん
「桜のころに写した写真を…。」

横田早紀江さんは、数少ない娘の写真を季節ごとに入れ替えては部屋に飾ります。
今、残された家族たちは、北朝鮮との交渉を見守りながら、子どもが戻って来る日をひたすら待ち続けています。

横田早紀江さん
「本当にたくさんの人が、この長い間、こつ然と消えているっていうことは、もう大変な問題ですのでね。
だからそのことはやっぱり、本当に政府の方もしっかりともう分かっていてくださると思うんですけれども。
その交渉の席でいつもそのことを頭に置いていただいて、こんな大変なことはもうどんなことがあっても帰してもらわなければ駄目なんですっていうことだけは言い続けていただきたいし。
何とか帰国出来るようにして、後の人生を本当に日本で、生まれた国で、本当の人間らしい自由を満喫してほしいなという思いでいっぱいです。」

●家族たちの声 どう聞いたか?

ええ、私も何度かご家族の皆さんにお目にかかりましたから、本当にご家族のお気持ちがよく分かります。
どんなにかおつらいだろうしと思っています。
ただ問題は、どうやって見つけ出すか。
どうやって探し出すかということを考えると、これはもう話し合っていく以外に方法がないんですね。
つまり国交はありませんし、話し合うチャネルがないわけですから、何とかして話し合いの場に、テーブルに先方に出てきてもらって、話し合いで探してもらう以外に方法はないわけです。
その探してもらうための作業も今度の国交正常化交渉の中で私どもはやりたいと。
この拉致問題を避けて通れるなんていうふうには私どもは思っていませんし、先方にもそのことはよく分かってもらいたいということを考えています。

●食糧支援や交渉の再開 問題の優先順位が下がるのではないかという懸念も強いが?

その話し合い、国交の正常化交渉が先に行われるということは、正常化交渉を始めなければ、この拉致問題の鍵を開けるということが出来ないということを、我々は考えているわけです。
これ遠くから、戻せ戻せと叫んでいてもこれは戻らないわけですから、とにかくお互いにテーブルに着いて、こういうことを探してほしいということを言わなければいけない。
我々もコメの支援ということで誠意を見せたわけですから、先方にも誠意を見せてほしいとこう思っているわけです。
先方からは、しっかり探しますと。
しっかり調査をいたしますということを、まあ既に赤十字の会談では言ってきておりますから、しっかり探してもらいたいと思っているわけです。
さて、どうやってしっかり探すかということですけれども、そこは北朝鮮の中のですね、いろいろな自治体であるとか、あるいは警察のようなものを担当する部署であるとか、そういうところが本当に動いてくれなければなりません。
そういうところの動きを始めてもらうということを今言いまして、それについて向こうからもその都度経過を報告しましょうというところまでは話が進んできているわけです。

●以前は行方不明者はいなかったという結論も 今回の北朝鮮側の姿勢に変化は見られるのか?

私はそう思っています。
これはしかしやってみなければ分かりませんけれども、何としてもこの問題はきちんと向こう側が前向きに誠意を持ってしっかりと調査してもらわなければ見つかりません。
そのためには、我々は粘り強くこの会談をやっていかなきゃいけない。
明日から会談を始めるわけですけれども、この会談とて、1回や2回で話が進むというふうにも思えない部分もあるわけです。
で、我々は今回はピョンヤンで会談をやるわけですけれども、次の会談は東京でやるということについても、もう既に次のことも考えていまして、1つずつ1つずつ問題を解決したい。
その1つずつ1つずつ問題を解決するためには、我々は拉致問題は決して避けて通るつもりはないという決心をしています。

●拉致問題について積極的に交渉の場で議題として扱うということ?

その通りです。
交渉は国交正常化交渉ですから、何としても今までの正常でない2国間関係を正常にするための交渉ではありますけれども、正常にするためにはやはりこの拉致問題を始めとするお互いの信頼が出来ないような状況では、これは正常化も出来ないわけですから、しっかりとそうした問題の解決を進めていきたいと思っています。

●正常化の見通し、展望について

まあ先日もアメリカの交渉担当者と話をしましたけれども、大変アメリカもタフだと。
この交渉は非常にタフな交渉をやっていると言っていました。
我々から見ても粘り強い、本当によく辛抱し我慢をして交渉をやっています。
我々もですね、本当に粘り強い交渉をしなければいけない。
拉致問題と同時にミサイルの問題もありますから、こうした問題を含めてですね、しっかりと交渉していきたいと思っています。

対話は進むか 日朝交渉再開

ゲスト渕上優子記者(政治部)

●交渉はどんな点で難航しそうか?

日本側にとりましては、やはり日本人の拉致疑惑の問題、これが大きな課題です。
今後の交渉の中で北朝鮮側がこの問題に対して誠意を示して、更に具体的な対応をとることが出来るかどうか、これが交渉のポイントになると思います。
それから一方北朝鮮側を見てみますと、こちらにとっては過去の問題に対する謝罪。
それから戦前から戦後にかけての補償の問題を強く求めてくるものと見られます。
戦前から戦中にかけての日本の植民地支配の時代については、北朝鮮側は日本と戦っていたと、戦争状態にあったんだという立場をとっていまして、国際法に基づく戦時賠償、これを要求しているんです。
これに対して日本側は賠償はあり得ないという立場をとっていまして、双方の見解は大きく隔たっています。

●7年5か月ぶりの再開 交渉の手順は?

再開される交渉はですね、明日の本会談から実質的な協議が始まります。
まず過去8回の交渉の経過、それからその後の状況の変化なども踏まえまして、双方がそれぞれの考え方・立場を述べて、それぞれの立場を確認するということから、まず始まると思います。
河野外務大臣も交渉を粘り強く続けていくことが大事だという考え方を先ほど示しておられましたけれども、北朝鮮との国交の樹立と言いますのは、半世紀余りにわたって残っている課題だけに、何よりもまず双方の信頼関係を築くという作業が重要になってくると思います。

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