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文在寅・新政権に、菅・鳩山民主党政権の悪夢を重ねてしまう理由
いや、それよりひどくなる可能性も…

基本が分かっていない

韓国の新しい大統領、文在寅氏は混乱を極めた国を立て直せるだろうか。私は悲観的だ。選挙戦を見る限り、経済政策も外交、安全保障政策もあまりに現実離れしている。韓国の地盤沈下はむしろ一層、加速するだろう。

大統領選は大方の予想通り、文氏の圧勝に終わった。日本から見ていると、北朝鮮情勢が緊張する中、安全保障政策こそが最大の焦点だったはずと考えがちだ。ところが、実際の投票行動は違っていた。

各種報道によれば、文氏に投票したのは20代から40代の若年と中堅層だった。彼らにとっては、就職や景気など目の前の暮らしが切実な問題だったのだ。逆に、かつての朝鮮戦争を経験した高齢者は容共政権を嫌って多くが保守系候補に投票した、という。

若者は必死に受験勉強して大学を卒業しても、サムスンなど財閥系大企業に就職できるのは、ほんの一握りだ。若年層の失業率は10%に達し、多くの若者が生活苦と不平等、格差に悩まされている。それが前政権に対する怒りのデモと文氏への支持につながった。

北朝鮮の核とミサイル危機については、多くの人が「どうせ戦争にはならない」とタカをくくっていた。私がコメンテーターを務めるニッポン放送の番組「ザ・ボイス そこまで言うか!」に出演したコリア・レポート編集長の辺真一さんは「危機不感症」と呼んだ。

日本が「平和ボケ」なら、韓国は危機に慣れすぎているのだ。

 

そんな若者・中堅層を意識して、文氏は選挙戦で「公共部門で81万人の雇用創出」を打ち出した。このスローガンを聞いただけで、大統領の経済オンチぶりが分かる。それでは目先の雇用を創出できたとしても、政府や関係機関を肥大化させるだけで中長期的な成長にはつながらない。

「成長のエンジンは政府ではなく民間部門」という基本が分かっていないのだ。

文大統領は「財閥改革」も唱えている。多くの人の怒りが財閥や一部の特権階級に向かっていたので、選挙運動には効果的だったが、言うは易し行うは難しである。

韓国の国内総生産(GDP)の7割は10大財閥が生み出している。事業活動は中小、零細企業にまたがっていて、すそ野が広い。改革の方向性は正しくても、急激に断行すれば大きな副作用を伴う。

景気がいいときならまだしも、停滞局面で財閥の事業活動を規制すると、かえって失業を増やしかねない。将来不安が増して、経営陣は新規の投資や雇用を手控えるからだ。大統領は米韓自由貿易協定(FTA)に反対するなど、自由貿易に対する理解にも疑問符が付く。韓国は日本と同じく、貿易こそが国の生命線であるにもかかわらず、である。

いろいろ手がけた末に結局、経済立て直しに失敗すれば、支持者たちの熱狂は急速に冷めていくだろう。

外交・安全保障政策への疑問は言うまでもない。大統領は当選後「条件が整えば平壌に行く」と語り、北朝鮮との対話路線を目指す考えを表明した。選挙戦では、操業停止中の開城工業団地の再開も検討すると訴えた。

北朝鮮に経済協力するなら、国連の制裁決議違反になる。かつて国連の北朝鮮人権問題批判決議をめぐって、北朝鮮に内通していた過去もある。宥和政策が核とミサイル開発を助けてきた過去を見ようとしない、根っからの容共政治家と言っていい。

対日政策では、よく知られているように慰安婦合意の見直しを掲げている。言うのは勝手だが、政府間合意に基づいて日本大使館や領事館前の慰安婦像を撤去しなければ、通貨スワップ協定の締結問題をはじめ日韓外交は前に進まない。

米国や中国とは、超高高度防衛ミサイル(THHAD)配備問題が踏み絵になっている。配備を認めれば、中国との関係が悪化し、認めなければ対米関係が悪化する。一時は配備反対を公言していたが、選挙戦では軌道修正したかのような発言もある。

つまり経済政策でも外交・安保政策でも、政策の方向が間違っているか、定まらないのだ。そもそも政策を展開しようにも、議会で与党の「共に民主党」は過半数に届かない少数勢力であり、採決どころか法案の議会提出すらままならない状態である。

このまま進めば、文政権はたちまち立ち往生しかねない。