日本政府に膨大な借金を作らせた最大の原因はこれです
こんにちは。香川健介です。
アゴラでは、財政や社会保障、経済に関する記事を連載しています。
さて、前回の記事「日本の財政の現状をわかりやすく書くとこんな感じです」では、日本の財政の大まかな現状を説明しました。
今回の記事では、「日本政府に膨大な借金をもたらした最大の原因は何なのか?」ということについて、1990年から2016年にかけての財政の変化を見ながら、前回の記事を掘り下げていく形で説明しようと思います。
まず、日本の財政は、1990年から2016年にかけて、どう変わったのでしょうか?
1990年というと、おおよそ30年くらい前です。1980年代のバブル経済が崩れたあたりの年ですね。
1990年度の財政資料を見てみると、当時、日本政府の年間予算は、ぜんぶで66兆円でした(この数字は覚えなくてOKです)。
2016年度は96.7兆円なので、1990年度の66兆円より、およそ30兆円も増えたことになります。
「じゃあなんで1990年から2016年の間に、予算が30兆円も増えたん?」と気になると思います。
昔の記憶がある方は、「1990年も今も、そんなに生活は変わってないけどなぁ。進歩したのはパソコンやインターネットやスマホくらいだよ。あのときより30兆円も予算を増やして、政府はいったい何をやってきたんだ?」と思うかもしれません。
高齢化で社会保障と国債費が増えた
では、何が増えたのでしょうか?
これを見てください。
増えたのは、前回の記事でも説明した、社会保障と国債費です。
他の予算の合計額がほとんど変わっていない中、この2つはそれぞれ約20兆円、約10兆円増えています(この数字も覚えなくてOKです)。
じゃあ、どうしてこの2つがこんなに増えたのでしょうか?
結論から言うと、前回の記事で説明したとおり、高齢化が原因です。
社会保障問題の中でも、もっとも問題が深刻である医療費を例に、わかりやすく説明します。
(ちなみに、日本の社会保障問題で一番ヤバいのは、年金ではなく医療費です。
年金を心配する人が多いのですが、医療費の問題は年金よりはるかに深刻です。
個人的には、ほぼ詰んでると思ってます。
詳しくはまた後日、別の記事で書きますが、医療費が日本の財政問題ではとにかく最悪にヤバい分野だということは、とりあえず覚えておいてください。)
この30年間、日本は一貫して高齢化が進んできました。
それに伴い、医療費は増え続けてきました。
高齢者は病気やケガが多いので、医療費もたくさんかかります。
参考までに、厚生労働省の資料(注:PDFです)によると、2005年からこれまでに医療費が増えた要因のおよそ半分は高齢者の増加だったとのことです(残りの半分は医療の高度化など他の複数の理由)。
ここからも、高齢化が医療費が増えた最大の原因であることがわかります。
(ちなみに、この資料によると、介護費については、介護費が伸びた要因の9割は高齢者の増加だったとのことです。すごいですね)
しかし、30年のなかでは、景気が悪くなったり、税収が減るときもありました。
そうなると、政府の財政はだんだん厳しくなっていきます。
ですので、政府は本来なら、
「すみません。政府は財政が厳しいです。
医療にお金を使いたくとも、税収が足りません。
医療に使うお金を削るか、税金を上げさせてもらえませんか?」
と言う必要がありました。
しかし、もしそんなこと言ったらどうなるでしょう?
社会保障削られるのはイヤだし税金も払いたくない
誰でも、税金が上がるのはイヤです。
当然「ふざけんじゃねえ」と反発する人はたくさん出ます。
特に、医療費をたくさん使う人は、高齢者を中心にごく一部です。
なので、残りの多くの人は、
「自分はカネ払ってるのに、それを使うのは一部の人ばかりだ。
学者とか政府は、助け合いだのいざというときのリスク用だのいろいろ言うけどさ、実質的にはカネを貢いでるのと同じじゃねえか。
なのにもっと負担を増やすとはなにごとか」
みたいな気持ちになって、反発しがちです。
(これと似た構図は、医療のみならず年金についても見受けられます)。
もちろん、医療や年金が保険システムという、いざというときのリスクに備えるものである以上、一部の人がお金を使い大半の人はかけ捨てになるのは仕方のないことです。
(誤解している人がとても多いのですが、年金は、あくまで年金保険という一種の保険です。年金は、ある一定の年齢になれば誰でも必ずもらえるカネではなく、うっかり長生きしてしまったときのリスクに備える保険なのです。)
とはいえ、不満を持つのも人間としてごく自然な気持ちなようにも思います。
また、マスコミも「税金あげるなんてけしからん!高齢者向け医療に配るお金を削るなんてもってのほかだ!弱いものイジメをするな!」みたいな感じで叩いてきます。
おまけに、高齢者は数も多く投票率も高いです。
ここをないがしろにしたら、政治家は落選してしまいます。
「医療に配るお金を削る」なんて言ったら支持されなくなるかもしれません。それは怖い。
もちろん、政治家は落選なんか絶対いやです。大票田である高齢者票を捨てることはできません。
というわけで、政府は有権者および高齢者の意向を忖度し、税金を上げたり社会保障に使うお金を削ったりすることを、あまり熱心にやりませんでした。
かわりに国債を出して借金をし、手に入れたお金を医療費をはじめとする社会保障につぎ込んできました。
(あと保険料をちょっとずつあげたりして、なんとかだましだまし制度を維持しようとしてきました。)
このサイクルがずっと続いてきたので、借金が増えました。
(これに加え、バブル崩壊後の不況で経済対策をやったときにたくさん借金した分もあります。ただ、あくまで一時的なものであり、主要因は社会保障です。)
有権者の意向を忖度して借金が増えた
こんなことを続けていると、当然、国債費も増えます。
国債費が10兆円分増えたのも、政府の借金が増えた分、支払わなくちゃいけない利子が増えたからです。
もしサラ金から100万円借金した人と、200万円借金した人がいたら、利息が同じでも、200万円借金した人のほうが多く利子を払うことになります。それと同じです。
また、償還費も借金が増えれば増えるほど一般的に大きくなります。
たとえば100万円借金した人と200万円借金した人がいたとすると、200万円借金した人のほうが最終的に返済する金額は大きくなります。
同じように、100兆円借金した国と200兆円借金した国があるとすると、他の条件が同じ場合、200兆円借金した国のほうが返済する金額は大きくなります。
これが、日本が莫大な財政赤字を抱えるようになったからくりです。
高齢化に伴い、年金・医療・介護などの社会保障に使うお金が増加したのに、有権者の意向を忖度し、十分に増税も歳出カットもできなかったことが、最大の原因です。
よく、「日本の借金が増えたのは、昔の田中角栄みたいな政治家が、田舎で誰も通らない道路工事とかやってムダ遣いしているからだ」と考える人がいます。
たしかにムダな予算はありますし、私自身もムダな予算は大嫌いですが、それらを全部あわせても、社会保障にかかる膨大な金額と比べたら、ぜんぜんたいした金額ではありません。
昔の民主党政権が「ムダを削ればなんとかなる」とか言って事業仕分けをしたのに、結局大したことはなにもできなかったことを思い出していただければ、直感的にもわかりやすいと思います。
数字とデータを見ると、日本の借金を増やしてきた最大の原因は、間違いなく社会保障です。
高齢化に伴い、社会保障にものすごいお金がかかるようになってきたことが、日本の財政問題の最大の原因なのです。
まとめ
・日本の社会保障で一番ヤバいのは医療費。
・年金は年金保険。ある一定の年齢になれば誰でも必ずもらえるカネではなく、うっかり長生きしてしまったときのリスクに備える保険
・高齢化に伴い社会保障に使うお金がものすごく増えた。しかし政府は有権者の意向を忖度し、十分に増税も歳出カットもしなかったので、政府は莫大な債務を抱えることになった
貴重なお時間を割いて本記事を読んでいただき、どうもありがとうございました。
次の記事については、近日中にアップします(「原因はわかった。なら、どうすればいいんだよ」という疑問についても、今後の記事で書いていこうと思います)。
今後もわかりやすい記事をがんばって書いていこうと思いますので、よろしければ私のTwitterやFacebookなどをフォローしていただけましたら嬉しいです。更新情報も通知いたします。
また、本記事は内容に間違いがないよう細心の注意を払っておりますが、私がどこか勘違いしている箇所などあるかもしれませんので、もし気づいた方がいらっしゃればご連絡いただけましたら助かります。
なお、この記事は、私が先日出版した本をもとに書かれています。
主に、財政や社会保障の話や、財政破綻が起きる場合のメカニズムや、「個々人が財政破綻にどう対処したらいいか?」などの解説をしています。
タイトルは、「マネー本っぽくしたほうが、手にとってもらいやすいのでは?」と私が勘違いしたせいで微妙なものになってしまいましたが、内容はまじめなものになっています。
読んだ方からも、「タイトルのせいで人に紹介しづらいが、すごく面白かった」「とてもわかりやすく、勉強になった」などの感想を多数いただいています。
本記事を読んで面白いと思った方は、本のほうも楽しめると思いますので、よかったら、ぜひ読んでいただけましたら幸いです。
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