映画『スプリット』のM.ナイト・シャマラン監督にインタビュー:「未完成なもののほうが全体像が見えてくる」

映画『スプリット』のM.ナイト・シャマラン監督にインタビュー:「未完成なもののほうが全体像が見えてくる」 1

多重人格者の誘拐犯と女子高生の攻防を描いたサイコスリラー映画『スプリット』。今回は本作のメガホンを取ったM.ナイト・シャマラン監督にインタビューしてきました。

今作もM.ナイト・シャマラン監督おなじみの衝撃のラストが用意されていますが、そんな監督の映画の作り方映画哲学について伺ってきました。

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ーー23の人格を演じるジェームズ・マカヴォイの演技は見事でした。具体的にどういった演技指導をしたのでしょうか。

M.ナイト・シャマラン(以下、シャマラン):マカヴォイに最初に会ったのは彼が出演していた『X-MEN』の撮影が終わった直後だったんですが、彼は『X-MEN』の役作りのために頭を剃っていて、ちょうど会った時は五分刈りくらいだったんです。それまでは役作りの中でそれぞれの人格にウィグを被らせるのかどうか考えていたんですが、マカヴォイの頭を見て「例えばウィグや小物を使わず、顔の表情だけでそれぞれの人格を演技分けしたら面白いんじゃないか」というところから、「じゃあ彼にやってもらおう」というところに結びついたんです。

ーーシャマラン監督は本作はもちろん、他の作品でも監督だけでなく脚本も手がけていますが、ストーリー展開はどのように考えているのでしょうか?

シャマラン:だいたいまず概要を作っていきます。それが一番重要だと思っていて、概要がしっかりしてないとその後にどんなものをつけていっても崩れてしまうのです。構造としてはピラミッドみたいなもので、概要が一番下の段なんですね。映画によっては2段くらいまでしかいかないこともありますが、例えば7段くらいまでの構造の映画だったとしても1段目がグズグズだと結局映画として成り立たないことが多いんですよ。なので概要の中では映画の動き全体について考えています。ここで彼女が悪役だということがわかるとか、ここで彼は救われるとか、そのようなアイデアから概要の中を作っていきます。そのプロセスがすごく楽しいんです。

逆に気をつけているのは、考えすぎないこと、分析しすぎないことです。例えば脚本を書き終わってから「アクションが足りないような気がする。さらにアクションを入れるためにはどうしたほうがいいんだろう」というような考え方に陥るのはすごく危険なんです。だけど脚本を書き終わって「なんかしっくりこない、じゃあしっくりこない要点を書いていこう」というところから、「ここはちょっと違うと思う」とか「ここのキャラの動きが理解できない」とか「ここは繰り返してるなあ」という要点を書いていき、正していくというのはいい要素なんですよね。脳みそを使うってことは1つのツールにしかすぎないので、使いすぎると危険なことになるんです。

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ーー前作もそうですが、主人公は問題を抱えており、恐怖と対峙する事によりその問題を克服しています。この構図に監督の込めた想いというのはなんなのでしょうか。

シャマラン:私の哲学としては、何かトラウマを抱えていたら、そこから逃げるのではなく、面と向かって向き合わなければいけないという風に思っているんです。向き合い、直接対決することによって、その反対側には自由があり、光があり、エレクシール(万能薬)がその人物を待っていいます。だからこそトラウマは乗り越えなきゃいけない。その要素が救いとなり、映画をできるだけダークにすることが活きてくるんです。

ーー最近のシャマラン監督の作品では、限られた空間が舞台になっていることが多い印象です。こういったシチュエーションを採用するのにはどのような意図があるのでしょうか。

シャマラン:私の哲学的には未完成なもののほうが全体像が見えてくるという想いがあります。観客が完成されてない部分に自分たちの思いを込めることで、1つの作品として完結すると思っています。あまりにも完成されすぎたものを渡してしまうと、逆にすごく受け身に見てしまうんです。未完成な部分を残しておくことによって参加型になるというイメージですね。

例えば映画の中で空に1,000体の宇宙船が浮遊しているシーンが映るよりかは、誰かが外から走りこんできて「10体ぐらいの宇宙船を見た!」と緊迫した状態で言ってくるシーンのほうが想像力を掻き立てられますよね。観客は自分のイマジネーションを使って見えてない部分を見ることができるんです。

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ーー多重人格のキャラクターを作る際、どの人格から作っていったのでしょうか。また、実際に多重人格の方へ話を聞いたりしたのでしょうか。

シャマラン:17、8年前に初めてこの物語の構想ができたのですが、たぶん誘拐犯のデニスが最初に思いついた人格だと思います。

実は解離性同一障害の方とは話をしてないのですが、解離性同一障害の患者を診察している権威のある精神科医に話を聞きました。こういう状況ではどうするのか、実際に話している時に恐怖が湧いてくることはあるのか、一緒に話すときにどこに座るのか、患者に何か問題が起きたときに家まで行くのか、ということを逐一質問していきました。

ただ、映画の内容は伝えていませんでした。内容を教えてしまうと「こういう風に書いたほうがいい」というような、彼女の視点が入ってきてしまうのであえてお伝えしなかったんです。また私自身が影響を受けたくないというのもあったのですが、作品が出来上がったときに実在する症状を題材にしているため、精神科医としてアドバイスをした彼女が批判されるのを避けたかったんです。内容を伝えないことで彼女自身が映画を見たときに責任感を感じる必要がありませんし、観客と一緒に作品を楽しめますからね。

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映画『シックス・センス』をはじめとし、「どんでん返し」の印象が強いシャマラン監督ですが、それが成立するのも物語がしっかりと作り込まれているから。シャマラン監督の映画の作り方は観客をどうやって楽しませるか、どうやって作品に参加させるかを徹底して求めた結果なのだと気づかされました。

今作も、ラストまでハラハラさせてくれる展開で、サイコスリラーとしてとても楽しませてくれる作品です。そして最後の最後にはある驚きが隠されています。シャマラン監督の過去作を見ておくことで、本作はさらに楽しめるのではないでしょうか。

また取材の途中にシャマラン監督の方から逆に「君は何歳?」との質問が。どうやら監督はインタビューされてるうちに「君たちの世代はどんな映画を見てるんだろう…」と気になったそうです。まさに好奇心旺盛なシャマラン監督、今後どんな驚きを世の中に発信してくれるのかが今から楽しみです。

映画『スプリット』は5月12日(金)から全国公開です。

ジェームズ・マカヴォイが23の多重人格者を演じるスリラー映画「スプリット」予告編

photo: ギズモード・ジャパン編集部
image: (C)2017 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
source: 映画『スプリット』公式サイト, YouTube

(K.Yoshioka)