企業広告の社会的責任について

こちらのオムツのムーニーのCMが「ワンオペ育児を肯定・推奨していてよくない」と大変話題です。
明日少女隊は、アーティスト、クリエーターという立場から、広告表現について書きたいと思います。

おむつCM動画のワンオペ育児に賛否 メーカー「理想と現実の違いを伝えたかった」

2分1秒の動画のうち、父親の登場は約4秒だそうです。

一方、こちらは、パンパースのCMです。
ムーニーのCMでは、子育ては母親一人でするもの、というメッセージを感じるのに対して、パンパースのCMからは、子育ては社会全体でするものというメッセージを感じます


「意図してなかった」は認められない

今回のムーニーのCMの件、ユニチャーム側が回答を出しました。

ムーニーのおむつCMに「ワンオペ育児を賛美しないで」批判⇒ユニ・チャーム「取り下げはせず」本来の意図は?

「本来の意図はリアルな日常を描き、応援したいという思いだった」として、取り下げなどは予定していない

とのことです。謝罪の言葉は見当たりません。

繰り返します、謝罪の言葉はなく、「取り下げはしない」

つまり、自分たちにはなんの責任もなく、ユニチャーム側が意図しない方に受け取る顧客の方が悪い、と言ってる。

もし、本当に制作側が「母親を応援したい」と思っていて、でも、そのCMを見た多くの母親たちが「応援してもらった!」と感じないどころか、「不快に思った」のならば、それは動画制作チームとしては大失敗です。プロとして、恥ずかしいほどの失敗です。

『でも、応援する意図だったんだから、、、』
いいえ、
表現物のメッセージは、作者が何を意図したかは全く関係ありません。

その表現物が語るものが全てです。

それが、プロの、クリエイティブな業界の常識です。

ましてや、その表現物が、意図せず弱者集団の立場を危うくするようなメッセージを発信してしまったら、作者(今回の場合は企業)は責任をとるべきではないでしょうか。

今回は営利目的の企業広告です。個人が、趣味で作った作品などと比べて、社会的責任は大変重いと思います。

しかし、今回のユニチャームは謝罪もなければ取り下げもないわけなので、ユニチャームは、意図してワンオペ育児をする母親を美談として利用したのだと思わざるを得ません。


ママが一人で子育てしているのって普通でしょ?そんなことくらいで、と思う方。


日本のワンオペ育児はとても深刻で、これが、母親の育児ノイローゼや鬱を招くと言われます。児童虐待にまで発展するケースも、このワンオペ育児が大きな原因となっているとも言われています。。さらには、このワンオペ育児のために、学業やキャリアを諦めざるをえない女性が多く、そのことが、生涯年収の低下や、女性の社会的地位の低さなどにも繋がっています。

このような、弱者の立場をより危うくする表現を「意図していなかった」という謝罪にもならない回答で、許してはならないと思います。

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←総務省の社会生活基本調査(2011)母親の「ワンオペ育児」が常態化


共感したら、それでいいのか?

「でも私は共感できた」という人がいます。共感すること自体は、何も問題はありません。でも、私たちは、消費者として、もう一歩先の視点で考えていただきたいのです。

広告は、その企業の利益のために制作される

今回のオムツのCMは、ワンオペ育児をする弱い立場の母親が、お金を払ってムーニーのオムツを買い、結果的にユニチャームという企業を潤すことになります。

つまり、ユニチャームは、ワンオペ育児をする母のイメージを「感動CM」作りに利用し、売り上げを伸ばそうとしているのです。

そして、このような反省や謝罪ができない企業は、ワンオペ育児をしている母親たちが払ったお金で、さらにワンオペ育児を美化するような広告を作るでしょう。

このCMを見た母親たちは、社会からのワンオペ育児の抑圧に苦しむでしょう。

このCMを見た人たちは「そうか、やっぱり育児は母親のものだよな」と、これが当たり前のものと受け入れて、その価値観を身近な母親に押し付けるかもしれません。

このCMを見た女の子は、子供を生むことに、ポジティブなイメージが持てなくなるかもしれません。

このCMを見た男の子は、「子供が生まれても、女性に任せればいい」と思うかもしれません。

CMは、企業の売り上げを伸ばすために、できるだけ効果的に、できるだけ多くの人にメッセージを伝えるよう、膨大な資金をかけ、工夫されて作られています。その社会的影響は計り知れません。


現実の不平等をなぞるだけの表現は、社会にとって害でしかない

「現実を描いただけだから、罪はない。」

そうでしょうか。

日本には、残念ながら、CMから美術館まで、メジャーな場所で発表される表現物、しかも「社会派」と賞賛されるような表現でさえ、現実の不平等をなぞっただけ、というものが多いのです。

下手をすれば、それが「タブーに挑戦した」と褒められることすらあります。

弱者の苦しみを、ただ描くだけで、タブーに挑戦したと褒められる。

そこには、強者の目線しかありません。

不平等をなぞった表現物は、その不平等にはっきりと声をあげる姿勢や問題提起をする姿勢が見られない限り、その不平等を肯定する結果となります。

それは、見る人にこのように語りかけます。「ほら!ここに苦労して頑張っている弱い人がいるよ。美しいでしょう。感動的でしょう。」そして、見る人は、そのような表現物を繰り返し見た結果、無意識のうちにその不平等を受け入れさせられてしまうのです。「ああ、世の中、こういうものだよね」と。

ビジュアル表現の影響力は、大変パワフルで、見る人の無意識にまで滑り込みます。その弱者をいたぶる価値観が、社会全体に、次世代にまで広がります。

作り手の側も、受け取る側も、今ここで、立ち止まって考えて欲しいのです。


実は、現在明日少女隊には、日本でまさに大手企業のCM作りの仕事を日々受注しているビデオグラファーの隊員がいます。

数ヶ月前、彼女は「もうCMの仕事は取りたくない」と言いました。理由を聞くと、企業は発注時に「とにかく感動モノお願いね!」「母と娘ね!」などという注文の仕方をして、さらに、制作後には、ビデオ・アーティストのコンセプトや思いには一切耳を傾けず、企画側の都合に合わせるために、恐ろしいほどの編集のやり直しをさせられるのだそうです。ビデオグラファーはまるで、企業のための個性のないロボットだと言います。

そのような環境で、差別的な広告が生まれていくのかと思うと、胸が痛みます。

例えば、女性をエンパワメントするCMで名高い、アメリカで制作されたウィスパーのLike a girlシリーズ。フェミニスト・アーティストを起用し、彼女をCMディレクターとしてホームページで紹介までしています。

やはり、信頼できる作品の裏には、仕事のパートナーに敬意を払う人間関係が背後にあると思います。


一方で、パンパースのCMを見た人にはどういう影響があるでしょうか?

https://youtu.be/LsugKLnIxWg

みんなで育児をするって素敵だな。
みんなの愛情を受けて育つ赤ちゃんは、幸せそうだな。
男だって、育児できるよね。

そう感じる人が、少し増えるだけもで、社会の空気は変わっていくかもしれません。これは、企業ができる、大きな社会貢献です。



<子育てCM参考>
パンパース(海外)

アメリカの洗剤の会社Tideでは、男性が家族のために洗濯するというテーマのCMをたくさん作っています。


ちなみに、日本で制作されたこちらのパンパースのCMは、明日少女隊の中では不評です。

【号泣】パンパースCM動画が感動的すぎてネットで大絶賛! 約500万回も再生される

育児中の隊員(新生児と3歳児の母)は、「泣かせるサプライズ演出なんかしてる暇あったらパパも1歳児検診で一緒に話聞くほうがいいんじゃないかとか思った」との意見。もっともです。

日本で制作されるCMでも、父親が、母親の苦労を外から見守るとか、感謝するとか、応援するという視点ではなくて、「父親が育児する」「社会全体で子育てする」という視点でCMを作っていただければ、視聴者の心にも響くのではと思います。


生理用品についで紙おむつ。CMが立て続けにネット炎上しているのはなぜか
ユニチャーム、実は、先日、タンポンのCMでも批判されていました。
ぜひ、次のCM作りでは挽回していただきたいものです。


<参考>
CMで、自社のブランドイメージを高めながら、社会貢献もできる!
世界フェミCM大賞

多くのアメリカの企業は、女性をエンパワメントするCM作りには、フェミニスト・アーティストをCMディレクターやアドバイザーに起用します。
企業の方、フェミニスト・アーティストがご入用の際には、ぜひ、明日少女隊にお声がけください!